この研究は、韓国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Nutrients
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
総説のねらい
韓国の仏教寺院では、修行僧の暮らしの中で受け継がれてきた植物性中心の食事「寺院料理(サチャル・ウムシク)」が知られています。著者らはこの総説で、寺院料理の栄養的な特徴、腸内細菌への関わり、食事とともに営まれる修行の習慣という三つの側面について、これまでの研究知見を整理しました。
寺院料理は肉・魚・卵などの動物性食品を用いず、ニンニク、ネギ、ニラ、野生のニンニク(ノビルの仲間)、アサフェティダ(香辛料の一種)という五種類の刺激の強い野菜も避けるのが伝統です。仏教では、これらが感覚や感情を過度に刺激し、瞑想の妨げになると考えられてきたためです。代わりに、季節の山菜、きのこ、海藻、豆類、根菜、穀物を、加工を抑えて使い、テンジャン(味噌)、カンジャン(醤油)、コチュジャン、チョングクチャン(短期発酵の大豆食品)、キムチといった発酵食品を多く取り入れます。
著者らは、この総説の目的は寺院料理が健康に効くことを証明することではなく、体への作用として考えられる道筋と、まだ分かっていない部分を明らかにすることだと位置づけています。
どのように調べたか
この論文は、決まった手順で網羅的に文献を集めて統計的に統合する系統的レビューではなく、関連する研究を読み解いて叙述的にまとめる「ナラティブレビュー」です。著者らは複数の医学・科学文献データベースを、韓国の寺院料理や僧侶、テンプルステイに関する語と、腸の健康、栄養、腸内細菌、発酵食品、瞑想、身体活動などの語を組み合わせて検索しました。
集めた研究は、対象者、調べた食事や習慣、研究デザインによって分類されました。特に重視したのは、韓国の僧侶や明確に定義された寺院料理を対象とした「直接の証拠」と、一般の菜食者や動物実験、他国の僧院などから得られた「間接的・仕組みに関する証拠」を区別することです。後者は寺院料理の効果を裏づけるものではなく、補助的な手がかりとして扱われました。
整理から見えてきたこと
栄養面では、寺院料理は全粒穀物、豆、野菜、海藻を通じて食物繊維を多く含みうると著者らはまとめています。食物繊維は大腸の細菌に分解されて短鎖脂肪酸(酢酸、プロピオン酸、酪酸など)を生み出します。酪酸が大腸の細胞のエネルギー源となり、腸の壁のバリアを支えることなどが、これまでの研究で報告されています。また、山菜や野菜に含まれるカロテノイドやポリフェノール、発酵大豆食品に含まれるイソフラボンなどの成分にも触れています。ただし、個々の成分が含まれることが、寺院料理という食事全体の健康効果を示すわけではないと強調しています。
発酵食品については、乳酸菌などの微生物や発酵によって生まれる成分を含みうるとしつつ、その中身は材料、発酵条件、熟成、保存によって大きく異なると指摘しています。そのため、寺院料理を「生きた菌を一定量とれる食事」や、健康効果が確かめられた菌である「プロバイオティクス」と同じものとみなすべきではないとしています。別の研究では発酵食品を多く含む食事が腸内細菌の多様性を高めたと報告されていますが、効果は食品の種類や個人の腸内環境によって一様ではないとされています。
加工度の面では、寺院料理は工業的に加工された「超加工食品」中心の食事とは対照的で、未加工・最小限の加工の食品や伝統的な方法で作られた加工食品が多いと考えられます。ただし、料理ごとに加工の程度は異なるとしています。
食事に伴う習慣として、四つの木の器を使い、黙って感謝を込め、必要な分だけ取って何も残さない儀式的な共同の食事「パル公養(パルゴンヤン)」、座禅「参禅(チャムソン)」、ゆっくり歩く瞑想「布行(ポヘン)」も取り上げられています。瞑想、ストレス、身体活動、共同の食事に関する一般の研究は、腸と脳のつながりや腸内細菌に関わる手がかりを与えますが、いずれも韓国の修行の場で直接確かめられたものではありません。著者らは、パル公養は近年の「マインドフル・イーティング」と似た点があるものの、宗教・文化に根ざした実践であり、同じものとは扱えないとも述べています。
総じて著者らは、寺院料理の特徴には腸内細菌や代謝に影響しうる生物学的にもっともらしい道筋がある一方で、長く寺院料理を続けることと腸内細菌の構成や健康の指標とを直接結びつける人の研究は限られていると結論づけています。
この研究が示すもの
この総説は、伝統的な寺院料理を、植物性で加工が少なく、発酵食品を多く含む食事の型として位置づけるとともに、「理屈の上で考えられること」と「人で直接確かめられたこと」をはっきり分けて考える必要性を示しています。著者らは、塩分の多くなりやすい発酵食品や、動物性食品を除くことで不足しやすい栄養素にも目を向け、利点と注意点の両方を踏まえて評価すべきだとしています。寺院料理が健康のための介入として使えるかどうかを判断する根拠は、現時点ではまだ十分ではないというのが、この論文の伝える要点です。
著者:Hae‐Ji Kang(Department of Microbiology, College of Medicine, Dongguk University, Gyeongju 38066, Republic of Korea)、Young Hoon Jung(School of Food Science and Biotechnology, Kyungpook National University, Daegu 41566, Republic of Korea)、Jungwoo Yang(Department of Microbiology, College of Medicine, Dongguk University, Gyeongju 38066, Republic of Korea)、Yun Jeong Lim(Department of Internal Medicine, Dongguk University Ilsan Hospital, Goyang 10326, Republic of Korea)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Hae‐Ji Kang, Young Hoon Jung, Jungwoo Yang, et al. Korean Buddhist Temple Food: A Traditional Plant-Based Dietary Pattern Linking Gut Microbiota, Metabolic Health, and Mindful Living. Nutrients 2026-10-12. DOI: 10.3390/nu18203331. 原著ライセンス:CC BY.