この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Advanced Science

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

食べる時間と食べない時間を周期的に繰り返す「間欠的断食」は、動物実験などで大腸がんの増殖を抑えることが報告されてきました。ただ、栄養を制限すると、がん細胞の中で何が起き、それがなぜ免疫による攻撃の強まりにつながるのかは、よく分かっていませんでした。大腸がんの多くは免疫が働きにくい「冷たい」腫瘍とされ、免疫の働きを妨げるブレーキを外す薬(免疫チェックポイント阻害薬)が効きにくいことも知られています。

研究チームは、硫黄を含む代謝物質タウリンに注目しました。タウリンは細胞の水分バランスの調整やストレスへの適応に関わります。細胞は、タウリンを取り込む運搬役のタンパク質SLC6A6を通じて、タウリンを取り込みます。著者らは、間欠的断食によってタウリンの利用できる量が変わり、それががん細胞のストレス耐性や免疫の反応に影響するのではないかと考えて、仕組みを調べました。

断食で減ったタウリンと腫瘍の抑制

研究チームはまず、腸に自然に腫瘍ができる遺伝子改変マウスに「5:2方式」の間欠的断食を行いました。自由に食べさせたマウスと比べると、断食したマウスでは腸の腫瘍が数・大きさともに小さく、腫瘍細胞の増殖も抑えられていました。腫瘍の中では、がん細胞を攻撃する免疫細胞であるCD8陽性T細胞(いわゆるキラーT細胞)が増えていました。大腸がん細胞を移植した別のマウスモデルでも同様の結果が得られました。CD8陽性T細胞を取り除く抗体を投与すると、断食による腫瘍抑制の効果はおおむね失われました。このことから著者らは、断食による効果にはこの免疫細胞が必要だとしています。

次に、血液中の代謝物質を網羅的に調べたところ、断食後に最も目立って減った物質の一つがタウリンでした。タウリンは血液だけでなく、腫瘍の組織や腫瘍内の組織間液でも減っていました。肝臓では、タウリンをつくる経路に関わる酵素も減っていました。断食中のマウスにタウリンを補うと、腫瘍抑制の効果は大きく打ち消されました。反対に、通常の食事のマウスにタウリンの取り込みを妨げる薬を投与すると、腫瘍の増殖が抑えられました。

研究チームは、大腸がん患者の組織も調べました。手術を受けた85人の解析では、タウリンを取り込むSLC6A6が多い腫瘍ほどCD8陽性T細胞が少なく、全生存期間が短いという関連がみられました。SLC6A6の量は、正常な粘膜から腺腫、がんへと進むにつれて増えていました。ただし、これらは関連を示した結果であり、患者で断食の効果を確かめたものではありません。

がん細胞の中で起きていること

研究チームは、タウリンが結びつく相手として、細胞内の小胞体という器官でタンパク質の折りたたみを助けるGRP78を見いだしました。断食したマウスの腫瘍では、小胞体のストレスを感知するタンパク質PERKの量が減っていました。一方で、PERKの設計図にあたるmRNAの量は変わっていませんでした。栄養を断った培養がん細胞では、PERKが分解されやすくなりました。タウリンを加えると、GRP78とPERKの結びつきが保たれ、PERKの分解が抑えられました。著者らは、タウリンがGRP78を介して、栄養ストレス下でもPERKを保つ役割を担うと説明しています。

PERKを減らしたがん細胞を栄養のない条件に置くと、細胞の中に多数の空胞ができる「パラプトーシス様」の細胞死が起きました。パラプトーシスとは、一般的なアポトーシス(プログラム細胞死)とは異なり、小胞体などが膨らんで細胞が空胞だらけになるタイプの細胞死です。この細胞は、免疫を呼び覚ます警告シグナルも多く出していました。マウスでは、PERKを減らした腫瘍は大きくなりにくく、腫瘍内のCD8陽性T細胞はより活性化していました。免疫を抑える細胞は減り、腫瘍内の環境は免疫が働きやすい状態へと変わっていました。研究チームはさらに、PERKの下流で働くERO1Aというタンパク質も腫瘍の増殖と免疫からの逃避を支えていることを示しました。

最後に、免疫のブレーキを外す抗PD-1抗体との組み合わせを、マウスの大腸がんモデルで試しました。間欠的断食と抗PD-1抗体の併用は、どちらか一方だけの場合よりも腫瘍の増殖を抑える傾向を示しました。タウリンの取り込みを妨げる薬も、抗PD-1抗体の効果を強めました。

研究が示すこと

著者らは、間欠的断食によってタウリンが減ることが、がん細胞のストレスへの適応を弱めると結論づけています。その結果、がん細胞は免疫に見つかりやすい状態となり、CD8陽性T細胞による攻撃が強まるという筋道です。主な結果はマウスと培養細胞から得られたもので、患者の組織の解析は関連を示す段階です。それでも本研究は、断食という食事の工夫ががんの免疫に影響する仕組みの一端を、タウリンという具体的な代謝物質と結びつけて示しました。

著者:Baohui Song(Endoscopy Center Zhongshan Hospital Fudan University Shanghai Digestive Endoscopy Diagnosis and Treatment Engineering Technology Research Center Shanghai China)、Sikei Kam(Endoscopy Center Zhongshan Hospital Fudan University Shanghai Digestive Endoscopy Diagnosis and Treatment Engineering Technology Research Center Shanghai China)、Jingyi Liu(Endoscopy Center Zhongshan Hospital Xuhui Branch Fudan University Shanghai China)、Rui Lv(Shanghai Key Laboratory of Metabolic Remodeling and Health Institute of Metabolism and Integrative Biology Fudan University Shanghai China)、Xucheng Huo(Endoscopy Center Zhongshan Hospital Fudan University Shanghai Digestive Endoscopy Diagnosis and Treatment Engineering Technology Research Center Shanghai China)、Zhanghan Chen(Endoscopy Center Zhongshan Hospital Fudan University Shanghai Digestive Endoscopy Diagnosis and Treatment Engineering Technology Research Center Shanghai China)、Yuelun Dong(Endoscopy Center Zhongshan Hospital Fudan University Shanghai Digestive Endoscopy Diagnosis and Treatment Engineering Technology Research Center Shanghai China)、Shilun Cai(Endoscopy Center Zhongshan Hospital Fudan University Shanghai Digestive Endoscopy Diagnosis and Treatment Engineering Technology Research Center Shanghai China)、Bing Li(Endoscopy Center Zhongshan Hospital Fudan University Shanghai Digestive Endoscopy Diagnosis and Treatment Engineering Technology Research Center Shanghai China)、Ruobing Ren(Shanghai Key Laboratory of Metabolic Remodeling and Health Institute of Metabolism and Integrative Biology Fudan University Shanghai China)、Yunshi Zhong(Endoscopy Center Zhongshan Hospital Fudan University Shanghai Digestive Endoscopy Diagnosis and Treatment Engineering Technology Research Center Shanghai China)、Ming‐Yan Cai(Endoscopy Center Zhongshan Hospital Fudan University Shanghai Digestive Endoscopy Diagnosis and Treatment Engineering Technology Research Center Shanghai China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Baohui Song, Sikei Kam, Jingyi Liu, et al. Intermittent Fasting Reduces Taurine Availability and Promotes Antitumor Immunity Through PERK Attenuation‐Associated Paraptosis‐Like Cell Death in Colorectal Cancer. Advanced Science 2026-10-06. DOI: 10.1002/advs.78107. 原著ライセンス:CC BY.