著者の所属・活動拠点の国は、アメリカです。

掲載誌:Journal of Dairy Science

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF

研究の目的:アミノ酸の効果は「足し算」になるのか

乳牛が乳の中のたんぱく質を作るには、飼料から得たアミノ酸が欠かせません。牛では、飼料のたんぱく質の多くが第一胃(ルーメン)で微生物に分解されます。そのため栄養設計では、微生物がつくるたんぱく質と、分解を免れて小腸まで届くたんぱく質を合わせ、実際に吸収されて体で利用できる「代謝可能たんぱく質」や「代謝可能アミノ酸」で考えます。

米国の乳牛栄養要求量の指針(第8版)は、乳たんぱく質の生産量を予測する式に、メチオニン、リジン、ロイシン、イソロイシン、ヒスチジンという必須アミノ酸の供給量を、それぞれ独立に効果を足し合わせる形で組み込んでいます。研究チームによると、こうした足し算的な効果は、実際の飼料試験ではまだ報告されていませんでした。

そこで著者らは、代謝可能なヒスチジンを増やしたときの効果が、メチオニン・リジン・ロイシンの供給量が低い場合と高い場合とで変わらず現れるかを調べました。研究チームは、ヒスチジンの増量によって、ほかのアミノ酸の水準に関係なく乳たんぱく質の生産量が増えるという仮説を立てていました。

どのように調べたか

試験には、2産以上のホルスタイン種の泌乳牛32頭を用いました。4種類の飼料を、それぞれの牛が28日ずつ順番に食べる設計で、各期間は21日間の慣らし期間と7日間の測定期間で構成されました。

4種類の飼料は、ヒスチジンの「低・高」と、メチオニン・リジン・ロイシンをひとまとめにした群の「低・高」を組み合わせたものです。基準となる飼料は、代謝可能たんぱく質を意図的に不足ぎみに設計しました。ヒスチジンは、ヒスチジンを多く含み第一胃で分解されにくい血粉(ブラッドミール)を加えて増やしました。メチオニンとリジンは、コーングルテンミールと、第一胃で分解されないよう加工されたメチオニン・リジン製剤で増やしました。

ただし、ヒスチジンを増やした飼料では、ロイシンの含量も予想より高くなりました。このため著者らは、この試験は実質的に「ヒスチジン」と「メチオニン+リジン」を比べたものとして読むべきだと注記しています。

主な結果:効果は重なり合い、窒素の使われ方にも差

乳たんぱく質の1日あたりの生産量は、基準飼料で約1.32キログラムでした。ヒスチジンだけを増やすと約1.40キログラム、メチオニン・リジン群だけを増やすと約1.37キログラム、両方を増やすと約1.44キログラムとなりました。両者の効果は互いに打ち消し合わず、足し算のように重なりました。ヒスチジンを増やした飼料では、乳量(1日あたり約43.5キログラムから約45.6キログラム)、乳糖、乳脂肪の生産量も増えました。一方、エネルギーで補正した乳量と乳たんぱく質の増加は、メチオニン・リジン群でも見られました。

飼料の摂取量はどちらの要因でも増えましたが、両方を組み合わせても摂取量の増え方は足し算になりませんでした。血液中では、ヒスチジンの増量でヒスチジン濃度が、メチオニン・リジン群の増量でメチオニンとリジンの濃度が上がりました。血糖値はどちらの要因でも同程度に下がりましたが、インスリンや遊離脂肪酸、中性脂肪の濃度は変わりませんでした。著者らはこの結果を、乳腺が乳成分を作るためにより多くのブドウ糖を取り込んだ可能性を示すものと解釈しています。

窒素の利用でも違いが報告されています。尿に出る窒素の総量を増やしたのはメチオニン・リジン群だけでした。メチオニン・リジン群だけを増やすと、摂取した窒素のうち乳たんぱく質として回収される割合が下がりました。しかし、そこにヒスチジンを加えると、その低下が打ち消されました。また、摂取した飼料に対する乳の生産効率は、ヒスチジンの増量では高まりましたが、メチオニン・リジン群の増量では高まりませんでした。

この研究が示すこと

研究チームは、飼料を調整する方法でもヒスチジンとメチオニン・リジンの効果が足し算的に働くことを示しました。そのうえで、一つのアミノ酸が不足するとほかのアミノ酸への反応が制限されるという「制限アミノ酸」の考え方とは合わない結果だと結論づけています。

著者らはさらに、基準飼料ではヒスチジンの不足がとくに大きかったと考えています。その不足を解消したことが、乳腺での栄養の利用効率を高めたのではないかとみています。乳牛の飼料では、たんぱく質の総量だけでなく、どのアミノ酸をどれだけ届けるかという組み立てが、乳の生産と窒素の使われ方の両方に関わることを示した研究といえます。

原著論文の著者・所属:M. Killerby(Animal and Dairy Science, University of Wisconsin-Madison, Madison, WI)、K. Ruh-Etteldorf(Animal and Dairy Science, University of Wisconsin-Madison, Madison, WI)、A. Hoppmann(Animal and Dairy Science, University of Wisconsin-Madison, Madison, WI)、V. Pszczolkowski(Animal and Dairy Science, University of Wisconsin-Madison, Madison, WI)、A. Larsen(Animal and Dairy Science, University of Wisconsin-Madison, Madison, WI)、E. Cohan(Animal and Dairy Science, University of Wisconsin-Madison, Madison, WI)、A. Benn(Animal and Dairy Science, University of Wisconsin-Madison, Madison, WI)、D.N. Sherlock(Adisseo USA Inc., Alpharetta, GA, USA)、S. I. Arriola Apelo(Animal and Dairy Science, University of Wisconsin-Madison, Madison, WI. Electronic address: [email protected])

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):M. Killerby, K. Ruh-Etteldorf, A. Hoppmann, et al. Supply of a histidine-rich bypass protein source improves productive performance and N efficiency independently of metabolizable Met and Lys. Journal of Dairy Science 2026-09-01. DOI: 10.3168/jds.2026-28843. 原著ライセンス:CC BY.