著者の所属・活動拠点の国は、タイです。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
研究のねらい
豆類のたんぱく質やでんぷん、食物繊維、オリゴ糖といった植物由来の素材は、機能性食品の開発で重要な材料になっています。ただし、その性質は成分の種類だけでは決まりません。成分が素材の中でどのような構造をとり、消化の過程でどれだけ分解・利用されやすいかによっても変わります。さらに、加熱、酵素処理、粉砕、高圧処理、抽出、発酵といった加工によって、その構造は大きく変化します。
著者らはこのレビュー(既存の研究を集めて整理する論文)で、加工によって植物素材の性質がどう変わるのかを、五つの素材群に分けて整理しました。五つとは、豆類由来のたんぱく質と炭水化物の複合体、消化されにくい、またはゆっくり消化されるでんぷんなどの炭水化物、食物繊維、プレバイオティクス(腸内細菌に利用されやすい繊維やオリゴ糖)、そして発酵させた植物素材です。
レビューが特に重視したのは、二つの区別です。一つは、素材単体で測った性質と、最終的な食品になったときの性質の区別です。もう一つは、試験管内などで測った「機能を示す指標」と、実際に確かめられた健康上の効果の区別です。人向け食品の研究を中心に据えつつ、犬や猫に与えるペットフードの給餌研究も、別の応用の場として分けて検討しています。
文献の集め方と整理の方法
著者らは2026年7月30日に文献データベースScopusで検索を行い、五つの素材群ごとに関連する原著論文を探しました。人向け食品の研究は「機能性食品」という語と組み合わせて検索し、犬や猫の研究は2016年から2026年7月までの論文を別に検索しています。各検索では関連度の高い上位20件を確認対象としました。
著者らは、この方法には限界があると明記しています。上位20件に絞ったため、順位の低い関連論文を見落とした可能性があり、網羅的な調査ではないという点です。統計的に結果を統合するメタ分析も行っていません。そのうえで、物理化学的な測定、試験管内の実験、細胞実験、動物実験、人を対象とした試験という「証拠の種類」を区別しながら、結果を質的に整理しています。
加工によって素材の性質はどう変わるか
豆類では、ひよこ豆やレンズ豆のたんぱく質を酵素で分解すると、豆の種類や酵素の条件によって生じるペプチド(たんぱく質の断片)の構成が変わりました。抗酸化活性や、血圧調節に関わる酵素ACEの働きを抑える活性にも違いが報告されています。ただし著者らは、これらは試験管内の測定結果であり、食べたときに同じ効果が生じることを示すものではないと注意を促しています。えんどう豆のでんぷんでも、粉砕の方法や加熱処理によって結晶構造や消化されやすさが変わりました。ある研究では、加圧加熱によって消化されにくいでんぷん(レジスタントスターチ)の割合が、試験条件のもとで85.6%に達したと報告されています。
素材の段階で測った性質が、製品にした後もそのまま保たれるとは限りません。たとえば、アミロース(でんぷんを構成する成分の一つ)の含有量が異なるトウモロコシでんぷんを3Dプリンターで成形した研究があります。この研究では、アミロース58.84%のでんぷんが試された中で最も形の再現性に優れていました。一方で、糊化や印刷の工程を経るとレジスタントスターチは減少しました。著者らはこの結果から、でんぷんの組成だけでは製造後の性能を説明できないと指摘しています。
食物繊維やポリフェノールなどを加えた場合の影響は一様ではありませんでした。チアシードのガムは、ジャガイモでんぷんでは老化(冷えて硬くなる現象)を抑えた一方、トウモロコシでんぷんでは逆に促しました。試験管内で消化されにくくなる点は両者に共通していました。腸の細胞モデルでブドウ糖の輸送が減った例もありますが、著者らは、これが人の食後血糖の低下を示すものではないとしています。
人を対象とした研究としては、健康な若い女性を対象に、焙煎温度の異なるオーツ麦のペーストを比べた無作為化クロスオーバー試験が紹介されています。この試験では、低い温度で調製したペーストが、高温で調製したものや精白米を使った比較食と比べて、食後の血糖応答が低いことと関連していました。ただし著者らは、この結果は試験に使われた食品と参加者に限ったものであり、ほかのでんぷん素材に一般化すべきではないと述べています。
犬・猫の給餌研究と、レビューが示すこと
犬や猫の研究は、植物素材を配合した完成したフードを実際に与えた場合の証拠として、別に整理されました。調べられていたのは、栄養素の消化率、便の状態、腸内発酵でできる物質、腸内細菌の変化、食後の血糖、食いつきなどです。報告された結果は、素材の組成、加工条件、配合量、フード全体の配合によって異なっていました。また、多くの研究は条件がまちまちで期間も短いため、長期的な体への影響について結論を出すには限界があるとされています。著者らは、こうした動物での結果を人の生理的な反応の予測には用いていません。
レビュー全体を通して著者らが示したのは、加工・素材の構造・機能の関係を一つの枠組みで捉える見方です。素材の段階で測った性質は、食品として配合・製造した後にあらためて評価する必要があります。また、試験管内などで得られた機能の指標を、適切な証拠なしに健康効果とみなしてはいけません。植物素材の可能性を正しく理解するには、どの段階で、どのような実験系で得られた結果なのかを見分けることが欠かせない、というのがこの研究の伝えるメッセージです。
原著論文の著者・所属:Phatthranit Klinmalai(Faculty of Agro-Industry, Chiang Mai University, Samut Sakhon 74000, Thailand)、Pitiya Kamonpatana(Department of Food Science and Technology, Faculty of Agro-Industry, Kasetsart University, Bangkok 10900, Thailand)、Atcharawan Srisa(Department of Packaging and Materials Technology, Faculty of Agro-Industry, Kasetsart University, Bangkok 10900, Thailand)、Phanwipa Wongphan(Department of Packaging and Materials Technology, Faculty of Agro-Industry, Kasetsart University, Bangkok 10900, Thailand)、Khwanchat Promhuad(Department of Packaging and Materials Technology, Faculty of Agro-Industry, Kasetsart University, Bangkok 10900, Thailand)、Anusorn Seubsai(Department of Chemical Engineering, Faculty of Engineering, Kasetsart University, Bangkok 10900, Thailand)、Nathdanai Harnkarnsujarit(Center for Advanced Studies for Agriculture and Food (CASAF), Kasetsart University Institute for Advanced Studies (KUIAS), Kasetsart University, 50 Ngam Wong Wan Rd., Latyao, Chatuchak, Bangkok 10900, Thailand; Department of Packaging and Materials Technology, Faculty of Agro-Industry, Kasetsart University, Bangkok 10900, Thailand)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Phatthranit Klinmalai, Pitiya Kamonpatana, Atcharawan Srisa, et al. Plant-Derived Phytonutritional Ingredients for Food and Pet Food: Processing, Functionality, and Applications. Foods 2026-10-28. DOI: 10.3390/foods15213859. 原著ライセンス:CC BY.