著者の所属・活動拠点の国は、韓国です。
掲載誌:Frontiers in Plant Science
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
見分けにくいリンゴの打撲傷をどう見つけるか
収穫後のリンゴには、ぶつけたり落としたりしてできる打撲傷がよく生じます。著者らによると、打撲傷の見え方は、果実表面のどこにあるか、どれほど強くぶつかったか、ぶつかってからどれだけ時間がたったかによって変わります。特にできたばかりの初期の傷は、目で見つけるのが難しいとされます。
この研究は、可視光から近赤外までの多数の波長で画像を撮る「ハイパースペクトル画像」を使い、打撲傷を高い精度で見つける仕組みを作ることを目的としています。ハイパースペクトル画像では、画像の各点について、色の三原色より細かく分けた多数の波長ごとの反射の強さが得られます。研究チームはさらに、傷を見つけるだけでなく、ぶつかった強さの段階を分類し、果肉内部で褐色に変わった部分の断面積を推定することにも取り組みました。
実験と比較した方法
研究チームは、2025年に収穫された「ふじ」87個を用い、透明な筒の中で鋼球を果実に落として打撲傷を人工的に作りました。ぶつける強さは、エネルギーにして0.147ジュール、0.294ジュール、0.539ジュールの3段階です。傷の位置はへたと反対側を結ぶ方向に沿って変えられ、リンゴを回転させながら6方向から撮影することで、同じ傷が画像の中央寄りにも端寄りにも写るようにしました。
撮影は冷蔵保存しながら衝撃直後から18日目まで7つの時点で行われ、870個の画像データと、1,676件の傷の写り込みが集められました。また、各時点で果実を切断し、傷の深さと、内部の褐色になった組織の断面積を実際に測りました。
傷を検出する方法としては、画像の空間的な広がりと波長方向の情報を同時に扱う「3D U-Net」と呼ばれる種類のディープラーニングモデルを4種類比較しました。そのうちの一つ「Hybrid 3D-2D U-Net」は、波長と空間をまとめて特徴を取り出す部分には3次元の処理を、傷の範囲を示す2次元の図を描く部分には2次元の処理を使う構成です。比較対象として、物体検出で広く使われるYOLO11s系のモデルも、情報を3チャンネルに圧縮した入力と28波長をそのまま使う入力の両方で評価されました。
主な結果
論文によると、4種類の中でHybrid 3D-2D U-Netが最も正確で、かつ最も速いモデルでした。テストデータで、傷を囲む枠が正しく見つかったかを示すF1スコア(見逃しと誤検出の両方を考慮した指標で、1に近いほど良い)は0.98、傷の範囲が正解とどれだけ重なるかを示すDice係数は0.86でした。計算精度を落として処理を軽くする設定でも精度は保たれ、1秒あたり87.63枚の画像を処理できたと報告されています。YOLO系の比較モデルは処理速度では上回ったものの、検出精度はこのモデルを下回りました。
研究チームは、条件ごとに分けた評価も行いました。果実の丸みのため斜めから見ることになる端寄りの傷、衝撃から1時間以内に撮影した最も新しい傷、最も弱い衝撃による傷といった見つけにくい条件で、比較モデルのF1スコアが0.81〜0.89だったのに対し、選ばれたモデルは0.98以上を保ちました。すべての条件区分でF1スコアは0.95以上でした。
果実表面の丸みによって、端に近い傷ほど画像上で暗く写るという問題もありました。著者らは、画像ごとに反射の値を一定の範囲にそろえる正規化処理によってこの明るさの差をおおむね取り除けたと報告しており、形状を測る追加のセンサーを必要としない点を利点として挙げています。また、衝撃が強いほど、また時間がたつほど、700ナノメートル付近の反射が低くなる傾向が観察されました。
実際に切断して測った内部の褐変面積は、衝撃が強いほど大きくなりました。検出モデルが学習した特徴を再利用した結果、衝撃の強さ3段階の分類ではマクロ平均F1スコア0.83が得られました。内部の断面積の推定では、モデルの特徴に傷の位置と衝撃段階の推定確率を組み合わせることで、決定係数R²が0.63、実測値との相関係数が0.82となり、傷の部分の平均的な反射スペクトルだけを使う方法を上回りました。
この研究が示すこと
この研究は、波長の情報と画像上の空間的な広がりを合わせて扱うことで、位置や強さ、経過時間が異なるリンゴの打撲傷を安定して検出でき、さらに外から撮った画像から内部の傷み具合をある程度推定できることを示しました。
一方で著者らは、反射光が届くのは果肉表面から約1.8ミリ程度の層までで、それより深い部分は間接的にしかとらえられないことが、内部面積の推定精度が中程度にとどまった理由だと説明しています。また、今回は1品種で、鋼球による円形の傷を手作業で回転させて撮影した条件での結果であり、他の品種や収穫時期、不規則な形の傷、自動で果実を回転させる選別ラインでの検証が必要であることも限界として挙げています。
原著論文の著者・所属:Jiwon Ryu(Department of Biosystems Engineering, Seoul National University; Research Institute of Agriculture and Life Sciences, Seoul National University)、Chang-Hyup Lee(Department of Biosystems Engineering, Seoul National University; Integrated Major in Global Smart Farm, Seoul National University)、Sang-Yeon Kim(Department of Biosystems Engineering, Seoul National University; Research Institute of Agriculture and Life Sciences, Seoul National University)、Sungjay Kim(Department of Biosystems Engineering, Seoul National University; Research Institute of Agriculture and Life Sciences, Seoul National University)、Minhyun Kim(Department of Biosystems Engineering, Seoul National University; Integrated Major in Global Smart Farm, Seoul National University)、Dong Heun Sung(Department of Biosystems Engineering, Seoul National University; Integrated Major in Global Smart Farm, Seoul National University)、Suk-Ju Hong(Department of Smart Bio-Industrial Mechanical Engineering, Kyungpook National University)、Ghiseok Kim(Department of Biosystems Engineering, Seoul National University; Integrated Major in Global Smart Farm, Seoul National University; Research Institute of Agriculture and Life Sciences, Seoul National University)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jiwon Ryu, Chang-Hyup Lee, Sang-Yeon Kim, et al. Deep spectral–spatial learning for robust bruise detection and internal damage estimation in apples using visible/near-infrared hyperspectral imaging. Frontiers in Plant Science 2026-10-27. DOI: 10.3389/fpls.2026.1967857. 原著ライセンス:CC BY.