この研究は、インドの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Cogent Food & Agriculture

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

米を加工する工程では、籾に水を吸わせる「吸水(浸漬)」が欠かせない作業として位置づけられています。著者らは、この吸水が米粒の品質、搗精(とうせい、玄米から糠層を削って白米にする工程)の歩留まり、そして最終用途としての特性に影響すると述べています。

そこで研究チームは、籾の吸水がどのように進むのかを温度ごとに調べ、その進み方を数式で表すとともに、水が吸い込まれる過程にどのようなエネルギーのやりとりがあるのかを解析することを目的としました。

調べ方

研究チームは、40、50、60、70、80 ℃の5つの温度で、360分にわたって籾の吸水のようすを評価しました。

得られたデータの解析には、ワイブルモデルにもとづく速度論的な手法を用いています。ワイブルモデルは、吸水がどれくらいの時間で進むかを表す「尺度パラメータ(α)」と、進み方の形(立ち上がりや鈍り方の傾向)を表す「形状パラメータ(β)」という2つの数値で吸水曲線を記述する数式です。あわせて、アイリングの理論にもとづく熱力学解析によって、吸水にともなうエネルギーや分子の秩序の変化を評価しました。

報告された主な結果

論文によれば、水分の取り込みは初期に急速に進み、その後はゆるやかになりました。著者らはこれを、はじめは籾の内外で水分濃度の差(濃度勾配)が大きいために吸水が速く進み、続いて胚乳(米粒の内部にあるでんぷん質の部分)の内部を水が拡散する段階に移るため遅くなると説明しています。温度を上げると吸水速度は高まり、水分が飽和するまでの時間は短くなりました。

ワイブルモデルは実験データとよく一致し(R² ≥ 0.957、RMSE ≤ 0.84)、吸水にかかる特徴的な時間を表す尺度パラメータ(α)は、温度の上昇とともに182.6分から95.2分へと短くなりました。著者らはこれを、吸水が加速していることの裏づけとしています。一方、形状パラメータ(β)は1.21〜1.34で、いずれも1を上回りました。この点から著者らは、吸水が「非フィック型」の移動、すなわち単純なフィックの法則(濃度差だけで拡散の進み方が決まるという考え方)では説明しきれない移動であり、組織が膨らむこと(マトリックスの膨潤)をともないながら拡散に支配されて進むと述べています。

熱力学解析では、この過程が吸熱的(ΔH = 10.49〜10.82 kJ mol⁻¹)であり、かつ自発的には進まない(ΔG = 68.25〜76.04 kJ mol⁻¹)ことが確かめられました。つまり、進行には熱を与え続ける必要があるということです。エントロピーは負の値(ΔS = −184.12〜−185.64 J mol⁻¹ K⁻¹)で、著者らはこれを、水が親水性のでんぷん部位に結合する際に分子の並び方の秩序が高まることを反映したものとしています。活性化エネルギー(Ea = 13.42 kJ mol⁻¹)は低く、越えるべき物理的なエネルギーの壁が小さいことを示しました。

この研究が示すこと

著者らは、ワイブルモデルによる解析と熱力学的な評価が、工業的な米の浸漬条件を最適化するための知見をもたらすと述べ、最適な温度として60〜70 ℃を挙げています。

温度を上げれば吸水は速くなる一方で、その進行には熱を与え続ける必要があるという性質が、数値として整理された点がこの研究の要点です。経験に頼りがちな浸漬という工程を、速度とエネルギーの両面から記述する枠組みが示されたことになります。

著者:B. S. Madhusudan(Department of Agricultural Engineering, REVA University)、T N Aruna(Division of Agricultural Engineering, ICAR–Indian Agricultural Research Institute)、Ajay Kushwah(Division of Agricultural Engineering, ICAR–Indian Agricultural Research Institute)、Manojit Chowdhury(Division of Agricultural Engineering, ICAR–Indian Agricultural Research Institute)、Harsh Nagar(Manipal Institute of Technology, Manipal Academy of Higher Education)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):B. S. Madhusudan, T N Aruna, Ajay Kushwah, et al. Temperature-driven hydration kinetics and thermodynamic characterization of paddy using Weibull modeling. Cogent Food & Agriculture 2026-09-23. DOI: 10.1080/23311932.2026.2735555. 原著ライセンス:CC BY.