著者の所属・活動拠点の国は、ブルガリア、北マケドニアです。
掲載誌:Journal of Chemical Technology and Metallurgy
ライセンス: CC BY-NC 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
シナモンは香りや抗酸化性が知られる香辛料で、食物繊維を50〜55%ほど含むとされます。パンや焼き菓子にこうした植物由来の素材を加えると栄養価は上がりやすい一方、入れすぎれば色や食感、風味が崩れて食べにくくなることもあります。では、栄養面の利点と食べやすさのバランスが取れる添加量はどこにあるのか。ブルガリアのトラキア大学などの研究グループが、バタービスケットを使ってこの問いにデータ分析の手法で挑んだ研究を紹介します。
研究チームはまず、シナモン入りビスケットに関する既存の文献データを集めました。シナモン粉末を0%・2%・4%・6%の割合で配合したビスケットについて、たんぱく質・脂肪・水分・食物繊維などの成分値、赤緑青(RGB)や明度・色相(CIELab、HSV)といった色の指標、硬さやサクサク感などの食感指標、そして香り・色・見た目・食感・風味・総合評価という官能評価の値まで、あわせて30種類の特性(論文中でF1〜F30と呼ばれる項目群)をひとつの表にまとめました。
30の指標から「本当に効く」変数を絞り込む
次に行われたのが、統計的な絞り込みです。まず各指標をZスコアという方法で標準化し(測定単位や尺度の違いをそろえる処理)、それぞれの指標とシナモン濃度との相関の強さ(ピアソンの相関係数)を計算しました。相関の強さで並べ替えたところ、たんぱく質・脂肪・水分・食物繊維(総量・不溶性・可溶性)など化学組成に関する7項目に加え、RGBやHSVの色指標、CIELabの明度(L*)と黄色みの度合い(b*)、硬さ、そして「見た目」「食感」の官能評価が特に情報量の多い変数として選び出されました。最終的に18個の指標が選ばれ、さらに2つの潜在変数(LV1・LV2)にまとめられました。
この潜在変数を使って回帰モデル(%C = 2.8 + 3.5×LV1 + 1.3×LV2 + 0.6×LV1の2乗)を作ったところ、決定係数はR²=0.97と非常に当てはまりがよく、統計的な有意性も確認されました(フィッシャー検定でF値194.28、標準誤差0.39)。このモデルを線形計画法という最適化の手法にかけて求められた最適なシナモン粉末添加量が、3.12%でした。
実際にビスケットを作って確かめる
この3.12%という数値が本当に妥当かを検証するため、研究チームは小麦粉100g・粉砂糖50g・バター83g・卵8g・香料0.6gを基本配合とし、小麦粉の一部をシナモン粉末(インドネシア産)に置き換えたビスケットを実際に焼きました。生地作りから焼成(200℃で10〜12分)、冷却、包装までの工程を経て、無添加(対照群)と3.12%添加のビスケットを比較しています。
色については、対照群に比べて明度(L*)や赤緑青の値がはっきり低下し、色の差を示すΔE(デルタE)は18.92と、人の目で明確に違いがわかる水準になりました。焼成による重量減少(ベイキングロス)は対照群の2%に対しシナモン添加群では6%に増加し、生地の広がり具合を示す指標(スプレッドファクター)も増加しました。これは食物繊維の保水性や、シナモンに含まれる精油の可塑化作用によるものと考察されています。
水溶液にして測った電気化学的な性質では、pHは両群とも9.5前後で変化がなかった一方、総溶解固形分(TDS)と電気伝導率(EC)はわずかに低下し、酸化還元電位(ORP)は対照群の206mVから161mVへと下がりました。これはシナモンに含まれるポリフェノール(フェノール化合物)の抗酸化性が関係していると推測されています。官能評価では、見た目・食感・香り・風味・噛みごたえのいずれも対照群よりやや低い評価になったものの、総合評価は5点満点中4.55と高水準を保ちました。
この研究の位置づけと注意点
この研究は、あくまで研究チームが独自に集めた文献データと、自分たちで焼いたビスケットでの実験に基づくものです。対象となった配合パターンの数は限られており(文献データは0・2・4・6%の4水準、実験検証は0%と3.12%の比較)、使用したシナモンや小麦粉の銘柄、焼き方に特有の結果である可能性もあります。今回の記事の元になった情報の中に、日本の研究機関や日本の食品・食習慣への言及は見当たりませんでした。3.12%という数値も、あくまでこの研究の条件下でのモデル計算と検証実験から導かれた一つの目安であり、シナモンの健康効果を保証したり、万能の配合比率を示したりするものではない点に注意が必要です。
植物由来の素材を焼き菓子に取り入れる際、栄養面の変化と色・食感・味の変化はトレードオフになりがちです。この研究は、多数の指標を統計的に絞り込み、実験で検証するという手順を示した一例として、今後の食品開発の参考になりそうです。
原著論文の著者・所属:Vesela Yoveva(Trakia University, Faculty of Technics and Тechnologies)、Mariya Menkinoska(Goce Delcev University, Faculty of Technology)、Mariya Gospodinova(Trakia University, Faculty of Technics and Тechnologies)、Stanka Baycheva(Trakia University, Faculty of Technics and Тechnologies)、Живка Горанова(Institute of Food Preservation and Quality - Plovdiv, Agricultural Academy -Bulgaria)、Zlatin Zlatev(Trakia University, Faculty of Technics and Тechnologies)
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Vesela Yoveva, Mariya Menkinoska, Mariya Gospodinova, et al. DETERMINATION OF OPTIMAL CINNAMON POWDER LEVEL IN BISCUITS USING MULTIVARIATE ANALYSIS AND EXPERIMENTAL VALIDATION. ジャーナル・オブ・ケミカル・テクノロジー・アンド・メタラジー (2026). DOI: 10.59957/jctm.v61.i5.2026.3.