この研究は、インドの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Frontiers in dental medicine

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC

なぜ調べたのか

幼い子どもにできる虫歯(乳幼児期う蝕)は、世界的な公衆衛生上の課題であり、社会経済的に恵まれない家庭や周縁化された地域の子どもに偏って多いことが知られています。研究チームによれば、この虫歯は一つの原因で起こるものではなく、食習慣、歯みがきなどの口腔清掃、フッ化物への接触、その子自身のなりやすさ、そして口の中の細菌群(口腔マイクロバイオーム)のバランスが互いに影響し合って生じます。

近年は、口の中の細菌群と腸内の細菌群がつながっているという考え方が注目されています。著者らは、母乳・口・腸をつなぐ経路を通じて細菌が早い時期に定着し、それが細菌群の成熟や免疫の発達、虫歯へのなりやすさに関わる可能性が指摘されていると紹介しています。そこで、腸内細菌のバランスを整える手段として、プロバイオティクス(生きた有用菌)などを使う考え方が検討されてきました。

ただし、これまでの研究結果は一致していません。論文では、ある菌株を使った臨床試験では未就学児の虫歯発生に有意な変化が見られなかった一方、別の菌の組み合わせでは予防に有望な結果が報告された例が挙げられています。使う菌株、量、与え方(ミルクかヨーグルトかなど)、観察期間、虫歯の測り方もさまざまです。そこで研究チームは、6歳未満の子どもを対象に、プロバイオティクスなど細菌群に働きかける介入が口の健康にどう影響するかについて、現時点の証拠を整理することを目的としました。

どのように調べたか

これは新たに子どもへ介入する試験ではなく、すでに発表された研究を体系的に集めて整理する「系統的レビュー」です。著者らはPRISMA 2020という報告指針に沿って進め、計画をあらかじめPROSPEROという登録簿に登録したと述べています。

対象は0〜6歳の子ども(健康な子ども、または乳幼児期う蝕と診断された子ども)で、口から摂取するプロバイオティクス、パラプロバイオティクス(加熱などで活性を失わせた菌体)、シンバイオティクス、発酵乳製品などが介入として含まれました。トローチや洗口液として与えるものは除かれています。主要な評価項目は虫歯の発生や増加、副次的な項目はミュータンス菌(Streptococcus mutans)や乳酸菌の菌数、バイオフィルム(歯の表面につく細菌の膜)の変化、唾液中の指標、細菌群の構成、プラークや歯肉の炎症の程度でした。

論文選びは2人の評価者がそれぞれ独立に、互いの判断を見えない状態で行い、意見が分かれた場合は話し合いと第三者の助言で解決したと報告されています。データベース検索で918件が見つかり、重複を除いた644件を題名と要旨で絞り込み、36件の全文を確認したうえで、最終的に21件が採用されました。内訳はランダム化比較試験13件、非ランダム化介入研究3件、試験管内(in vitro)実験5件です。臨床研究の参加者は合わせて約3,895人、1〜6歳ほどの子どもでした。研究の質については、デザインごとに異なる評価ツール(RoB 2.0、ROBINS-I、QUIN)が使われ、証拠全体の確かさはGRADEという枠組みで判定されています。

報告された主な結果

13件のランダム化比較試験の多くで、プロバイオティクスの摂取とともに虫歯の発生や増加が減ったと報告されていました。たとえばある研究ではLactobacillus rhamnosus GGで虫歯のリスク低下が報告され、その傾向は3〜4歳で最も顕著でした。別の研究では、フッ化物を加えたプロバイオティクス入りミルクで75%の予防割合が報告されています。タイから報告された複数施設の試験では、Lactobacillus paracasei SD1を毎日または週3回与えることで、新しい虫歯がある程度防がれ、既存の病変が改善したと報告されました。

一方で、結果は一様ではありませんでした。ある試験では、Limosilactobacillus reuteriの経口ドロップを12か月与えても群間で虫歯の有病率に有意な差はなく、どちらの群でも再発病変の割合が高く(67%)、プラークや歯肉の炎症への有益な効果も認められなかったと報告されています。別の試験では唾液中の乳酸菌数の減少と緩衝能(口の中の酸を中和する働き)の改善は報告されたものの、虫歯の進行の減少は報告されませんでした。菌数についても、ミュータンス菌の減少を報告した試験は複数ある一方、乳酸菌の変化は一定せず、変化なしとする報告と増加を報告するものがありました。

試験管内の5件の実験では、乳酸菌類がミュータンス菌に対して一貫して抗菌・抗バイオフィルム作用を示し、2件ではカンジダ・アルビカンスに対する増殖抑制も評価されました。臨床由来の複数菌種のバイオフィルムを用いた研究では、バイオフィルム量や菌数が70〜90%減ったと報告されています。ただし著者らは、これらは作用の仕組みを調べた非臨床の証拠であり、臨床効果そのものを独立して裏づけるものではないと明確に述べています。

証拠の確かさはデザインによって差がありました。GRADE評価では、ランダム化比較試験は「中程度」、非ランダム化介入研究と観察研究は「低」、試験管内研究は「非常に低い」と判定されました。著者らはまた、効果は菌株ごとに異なる可能性が高く、プロバイオティクス全体に共通する効果として扱うべきではないと述べています。さらに重要な限界として、採用された臨床研究のいずれも腸内細菌群そのものを調べていないため、口の健康への利益が腸内細菌の変化を介したものかどうかは、このレビューでは判断できないと明記しています。

この研究が示すこと

研究チームの結論は、6歳未満の子どもにおいて、プロバイオティクスが口の中の細菌の状態を改善し虫歯の進行を抑えることに有望さを示す、というものです。ただし研究間のばらつきや方法・質の違いから、確定的な結論は出せないとしています。著者らは、プロバイオティクスはフッ化物の利用、食生活の指導、適切な歯みがきといった確立された予防策の代わりではなく、それらに付け加える補助的な選択肢として位置づけるべきだと述べています。

このレビューが読者に伝えるのは、「効きそうだ」と「効くと確かめられた」の間にある距離です。どの菌株を、どれだけ、どのように与えるかが研究ごとに異なる段階では、報告された個々の数字は有望な手がかりであっても、そのまま一般的な推奨には変わりません。研究チームが求めているのは、方法をそろえた質の高い検証であり、腸と口の細菌群の関係という前提自体もまだ確かめられていない問いとして残されています。

著者:Bondre S(Department of Pediatric and Preventive Dentistry, AB Shetty Memorial Institute of Dental Sciences, NITTE (Deemed to be University), Mangalore, Karnataka, India.)、Shetty V(Department of Pediatric and Preventive Dentistry, AB Shetty Memorial Institute of Dental Sciences, NITTE (Deemed to be University), Mangalore, Karnataka, India.)、Kumari M(Department of Pediatric and Preventive Dentistry, AB Shetty Memorial Institute of Dental Sciences, NITTE (Deemed to be University), Mangalore, Karnataka, India.)、Shetty U(Department of Oral and Maxillofacial Pathology and Microbiology, AB Shetty Memorial Institute of Dental Sciences, NITTE (Deemed to be University), Mangalore, Karnataka, India.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Bondre S, Shetty V, Kumari M, et al. Effect of probiotic interventions on oral health in children: a systematic review. Frontiers in dental medicine 2026-09-16. DOI: 10.3389/fdmed.2026.1914359. 原著ライセンス:CC BY.