日本関連:この研究は海外機関を中心とする国際共同研究で、日本の研究機関に所属する共著者が参加しています。参加国はアメリカ、ロシア、日本です。

掲載誌:Food science & nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC

研究の目的

大豆に含まれるイソフラボンは、更年期症状の緩和や心血管・認知機能の健康との関連が注目されてきた成分です。ただし観察研究では良い結果が示される一方、ランダム化臨床試験(参加者をくじ引きのように割り付けて効果を比べる試験)の結果は一致していません。

論文の著者らは、その不一致の背景に「エクオール」という物質があるのではないかと指摘しています。エクオールは、大豆イソフラボンの一種であるダイゼインが腸内細菌によって作り変えられてできる代謝産物で、もとのイソフラボンより生理活性が高いとされます。しかし、エクオールを作れるかどうかには大きな個人差があり、著者らが引用した先行研究によれば、東アジアの人々では最大70%が作れるのに対し、欧米の集団では20〜30%にとどまります。

そこで著者らは、「エクオールを作れない人(非産生者)を作れる人(産生者)に変えられるか」を検討したランダム化臨床試験を集めて整理し、試験の方法・介入の種類・結果・質を評価することを目的としました。著者らは、この主題でランダム化臨床試験を対象とした系統的レビューは自分たちの知る限り初めてだと述べています。

何をどう調べたか

著者らは、系統的レビューの国際的な報告指針であるPRISMAに沿って作業を進め、事前に研究計画を登録したうえで、PubMed、Embase、Web of Scienceの三つの文献データベースと臨床試験登録サイトを検索しました。

対象としたのは、成人を対象としたランダム化臨床試験のうち、介入の前と後の両方でエクオール産生の状況を測定しているものです。最初に集まった503件から重複や主題の合わない文献、全文で条件を満たさないものを除いていき、最終的に12件の試験が分析対象となりました。

試験の質は、米国国立心肺血液研究所(NHLBI)が作成した14項目の評価ツールを用い、2人の研究者がそれぞれ独立に判定しました。主要な評価項目は、開始時点で非産生者に分類された参加者が介入後に産生者に分類されるようになるかどうか、という「産生状況の転換」です。

主な報告結果

12件の試験には合計730人(うち女性624人)が参加し、653人が最後まで終えて分析に含まれました。8件は女性のみを対象とし、そのうち6件は閉経後女性に絞った試験でした。介入の内容は、大豆イソフラボン単独が3件、大豆とプロバイオティクス(有用とされる生きた細菌)またはプレバイオティクス(有用菌のえさとなる成分)の組み合わせが5件、発酵大豆製品が2件、小麦ふすまや海藻などその他の食品成分が2件です。期間は48時間の単回投与から2.5年までと幅がありました。

著者らの報告によれば、12件のいずれにおいても、エクオール産生状況の転換やエクオール排泄量について統計学的に有意な変化は認められませんでした。つまり、これまで試されてきた介入は、非産生者を産生者に変えるには十分ではなかったということです。

ただし、いくつかの付随的な観察も報告されています。もともとエクオールを作れる人では、プロバイオティクスや海藻の摂取によってエクオールの排泄量が増える傾向がみられた試験がありました。もっとも、これらは統計学的に有意な差には達していません。また、長期間にわたる2件の試験では、閉経後女性の14%、閉経前女性の11%で介入期間中に産生状況が変わっており、エクオールを作れるかどうかは固定した性質ではなく変動しうることが示唆されました。

試験の質の評価では、7件が「fair(可)」、5件が「poor(不良)」と判定され、「good(良)」に該当するものはありませんでした。著者らは、1件を除くすべての試験で必要な参加者数の事前計算(検出力計算)が行われていなかったこと、5件で脱落率が20%を超えていたことを挙げています。また、エクオール産生者の判定方法も試験ごとに異なり、尿中エクオール/ダイゼイン比を対数変換した指標という信頼性の高い基準を用いていたのは1件のみでした。

この結果が意味すること

著者らは、今回の否定的な結果を「転換が生物学的に不可能である証拠」と解釈すべきではない、と明確に述べています。統計的な検出力の不足、試験方法のばらつき、標準化された判定手順の欠如といった課題が、効果の有無を見きわめにくくしている可能性があるからです。

また著者らは、エクオールへの変換には特定の腸内細菌だけでなく、それらの量や活性、さらには腸内細菌群集全体のあり方が関わると考えられると論じています。実際、レビューされた試験で使われたプロバイオティクスの多くは、イソフラボンの分解には関わるものの、ダイゼインからエクオールへの変換そのものを担う菌ではありませんでした。加えて、12件のうち介入前後の便中細菌叢を十分に分析した試験はなく、介入が腸内環境に何をもたらしたのかを検証できないことが大きな空白として指摘されています。

このレビュー自体の限界として、著者らは対象試験が12件と少なく多様であったため統合的な統計解析(メタアナリシス)ができなかったこと、対象者の多くが欧米の閉経後女性に偏っていたことを挙げています。

エクオールを作れる人の割合が低い欧米の集団では、大豆を用いた食事介入の効果が限られる可能性があります。この研究が伝えているのは、その状況を変えうる方法はまだ確立されていないという現在地と、その検証には試験設計と測定方法の立て直しが必要だという指摘です。

著者:Li J(Department of Epidemiology, School of Public Health University of Pittsburgh Pittsburgh Pennsylvania USA.)、Li M(Department of Epidemiology, School of Public Health University of Pittsburgh Pittsburgh Pennsylvania USA.)、Aboushanab S(Ural Federal University Yekaterinburg Russia.)、Ebeid M(Computational and Systems Biology, School of Medicine University of Pittsburgh Pittsburgh Pennsylvania USA.)、Hatanaka R(Tohoku Medical Megabank Organization Tohoku University Sendai Miyagi Japan.)、Iida M(Department of Preventive Medicine and Public Health Keio University School of Medicine Tokyo Japan.)、Takase M(Tohoku Medical Megabank Organization Tohoku University Sendai Miyagi Japan.)、Jacobs I(Department of Epidemiology, School of Public Health University of Pittsburgh Pittsburgh Pennsylvania USA.)、Gusmanov A(Department of Epidemiology, School of Public Health University of Pittsburgh Pittsburgh Pennsylvania USA.)、Hirata A(Department of Preventive Medicine and Public Health Keio University School of Medicine Tokyo Japan.)、Miyagawa N(Department of Preventive Medicine and Public Health Keio University School of Medicine Tokyo Japan.)、Nakaya N(Tohoku Medical Megabank Organization Tohoku University Sendai Miyagi Japan.)、Sugiyama D(Faculty of Nursing and Medical Care Keio University Fujisawa Kanagawa Japan.)、Tilves C(Department of Epidemiology and Lifecourse Epidemiology of Adiposity and Diabetes (LEAD) Center University of Colorado Aurora Colorado USA.)、Hozawa A(Tohoku Medical Megabank Organization Tohoku University Sendai Miyagi Japan.)、Li X(University of Hawai'i Cancer Center Honolulu Hawaii USA.)、Mueller NT(Departments of Pediatrics and Epidemiology University of Colorado Aurora Colorado USA.)、Benos PV(Department of Epidemiology, PHHP and COM University of Florida Gainesville Florida USA.)、Sekikawa A(Department of Epidemiology, School of Public Health University of Pittsburgh Pittsburgh Pennsylvania USA.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Li J, Li M, Aboushanab S, et al. Converting Equol Nonproducers to Producers: A Systematic Review of Randomized Clinical Trials. Food science & nutrition 2026-09-27. DOI: 10.1002/fsn3.72394. 原著ライセンス:CC BY.