掲載誌:Cureus
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的と背景
心臓の筋肉に血液を送る血管である冠動脈が狭くなる「冠動脈疾患」は、世界的に死亡や障害の主要な原因となっています。著者らによれば、バングラデシュを含む南アジアの人々はこの病気になりやすく、より若い年齢で発症し、進行が速く、血管の広い範囲に病変が及ぶ傾向が報告されています。高血圧、脂質異常、喫煙、糖尿病といった従来の危険因子だけでは説明できない患者もいることから、新たな要因の探索が続けられてきました。
近年注目されているものの一つがビタミンDの不足です。論文では、ビタミンDが脂質の代謝や血管内壁の働き、血管の炎症などに関わる可能性が指摘されている一方、冠動脈疾患の重症度との関連については、関連を認めた研究と認めなかった研究があり、結論が一致していないと整理されています。南アジアではビタミンD不足の割合が高く、バングラデシュでも67%と報告されていますが、血管の画像検査で評価した重症度との関連を調べた国内の証拠は乏しいとされています。
そこで研究チームは、第一の目的として、冠動脈の画像検査(冠動脈造影)で疾患が確認された患者と確認されなかった人の血液中のビタミンD濃度を比較しました。第二の目的は、ビタミンD濃度と画像検査で見た重症度との関連を評価し、病変が1本の血管にとどまる場合と複数の血管に及ぶ場合をビタミンD濃度で見分けられるかを探ることでした。
調べ方
この研究は、ダッカのバングラデシュ医科大学とダッカ国立医科大学病院で2024年1月から12月にかけて行われた、病院を基盤とする横断比較研究です。冠動脈疾患が疑われて冠動脈造影を受けた18〜70歳の成人が対象となり、検査の結果に応じて、主要な冠動脈のいずれかで内径の50%を超える狭まりが確認された「冠動脈疾患群」150人と、画像上そうした所見のなかった「非冠動脈疾患群」150人の計300人が組み入れられました。
著者らは、両群を同数にしたのは比較のためにあらかじめ決めた設計であり、検査を受ける人全体における冠動脈疾患の実際の割合を表すものではないと明記しています。また、非冠動脈疾患群は健康な一般の人ではなく、同じ診療の場で症状を評価された上で画像上の所見がなかった患者であるとも説明されています。腎臓や肝臓の慢性疾患、副甲状腺の異常、妊娠、ビタミンDやカルシウムの補充を受けている人など、ビタミンDやカルシウムの状態に大きく影響しうる条件がある人は除外されました。
少なくとも10時間の絶食後に採血が行われ、血液中のビタミンD(25-ヒドロキシビタミンD)、空腹時の脂質、血糖の状態を示すHbA1c、カルシウム、アルカリホスファターゼ、副甲状腺ホルモンが、自動分析装置を用いた標準的な方法で測定されました。ビタミンDの状態は、10ng/mL未満を重度の不足、10以上20未満を不足、20以上30未満を不十分、30以上を充足として分類されました。冠動脈疾患群の重症度は、病変のある主要血管の本数で1本、2本、3本に分け、その後の解析では2本と3本をまとめて「多枝病変」として扱っています。画像の判定は経験のある循環器医が独立して確認しました。
主な報告結果
冠動脈疾患群の血液中ビタミンD濃度の平均は18.78±6.66ng/mLで、非冠動脈疾患群の29.25±3.84ng/mLより有意に低かったと報告されています(p<0.001)。分類別に見ると、冠動脈疾患群では「不足」が最も多く150人中77人(51.3%)、非冠動脈疾患群では「不十分」が最も多く88人(58.7%)でした。冠動脈疾患群では総コレステロール、トリグリセリド、LDLコレステロール、HbA1c、副甲状腺ホルモンが高く、HDLコレステロールとカルシウムが低いという違いも示されています。
冠動脈疾患群の画像所見では、3本の血管に病変がある3枝病変が最も多く68人(45.3%)で、1枝病変と2枝病変がそれぞれ41人(27.3%)でした。ビタミンD濃度の平均は1枝病変で21.10±7.59ng/mL、2枝病変で19.38±6.05ng/mL、3枝病変で16.98±5.95ng/mLと、病変が及ぶ血管が増えるほど低く、3群間の差は統計的に有意でした(p=0.014)。ただし個別の比較では1枝と3枝の差のみが有意で、1枝と2枝、2枝と3枝の差は有意ではありませんでした。ビタミンD濃度と病変血管数の間には、弱いながら統計的に有意な逆の相関が認められています(rs=-0.262、p=0.001)。
多枝病変と1枝病変を見分ける検査としての性能を探索的に調べた解析では、21.54ng/mL以下という境界値が示されましたが、曲線下面積は0.619(95%信頼区間0.513〜0.725、p=0.025)で、感度72.5%、特異度53.7%、全体の正確度67.3%と、見分ける力は限られていたと著者らは述べています。この境界値は同じ研究集団の中で求められ、別の集団での検証は行われていないため、性能はこの集団に固有のものとして受け取るべきだとも明記されています。一方、複数の要因を同時に考慮した統計解析では、50歳未満であること(調整オッズ比3.614、95%信頼区間1.380〜9.467、p=0.009)と、ビタミンD濃度が21.54ng/mL以下であること(調整オッズ比2.669、95%信頼区間1.241〜5.741、p=0.012)が、いずれも多枝病変と独立して関連していました。
この研究が示すこと
著者らは、この結果を因果関係ではなく関連として解釈すべきだと繰り返し強調しています。横断的な設計では時間の前後関係をとらえられず、原因と結果が逆である可能性や、測りきれていない要因の影響を排除できないためです。さらに、冠動脈疾患群では心筋梗塞の急性期にあたる患者が多く、急性の炎症反応がビタミンD濃度に影響した可能性も除外できないと述べられています。50歳未満と多枝病変の関連についても、すでに疾患が確認された人に限った解析であるため、若くして発症した特定の集団を反映している可能性があると慎重な見方が示されています。
研究から伝わる意味は、ビタミンD不足が冠動脈疾患の有無と病変の広がりの両方に結びついていたという観察であり、著者らはビタミンDが重症度を補助的に示す指標となりうる可能性を示唆する一方で、臨床で役立つかどうかはより大規模な前向きの研究による検証が必要だと結論づけています。
著者:M. Maruf-Ur-Rahman、Md. Rafiqul Islam、Wazeda Begum、Md. Fakhrul Islam Khaled、A. H. M. Golam Kibria、Chaudhury Meshkat Ahmed
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):M. Maruf-Ur-Rahman, Md. Rafiqul Islam, Wazeda Begum, et al. Association Between Hypovitaminosis D and Angiographic Severity of Coronary Artery Disease in Bangladesh. Cureus 2026-09-09. DOI: 10.7759/cureus.115998. 原著ライセンス:CC BY.