著者の所属・活動拠点の国は、エチオピアです。
掲載誌:American Journal of Zoology
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
総説のねらい
メタンは二酸化炭素や一酸化二窒素と並ぶ主要な温室効果ガスの一つです。家畜からは、胃の中で飼料が発酵する過程と、ふん尿の管理の過程で放出されます。著者らは、酪農の生産システムに焦点を当て、メタンの発生源、発生量を左右する要因、環境への影響、削減策について既存の研究を整理しました。
この総説は、特に開発途上国の状況に注目しています。著者らは、途上国では家畜の飼育方法、飼料生産、ふん尿管理の効率が低いことが、多くの排出につながっていると述べています。
メタンはどこから、なぜ出るのか
著者らは、酪農場のメタンの主な発生源を二つに分けています。一つは「腸内発酵」と呼ばれる消化の過程です。牛のような反すう動物は、四つに分かれた胃の最初の部分である第一胃(ルーメン)に微生物を宿しています。この微生物が飼料を発酵させる際に水素と二酸化炭素ができ、メタン生成菌と呼ばれる微生物がこれらからメタンを作ります。メタンは主にげっぷや呼気として体外に出ます。もう一つの発生源はふん尿です。酸素のない状態でふん尿が分解されると、メタンが発生します。総説によると、貯蔵したふん尿から出るメタン量には、微生物が分解しやすい有機物の量が直接影響します。
腸内発酵によるメタンの量を左右する要因として、総説は先行研究をもとに、飼料の摂取量、発酵する炭水化物の種類、粗飼料の加工、脂質の添加などを挙げています。発酵で作られる酢酸やプロピオン酸といった「揮発性脂肪酸」の割合によって、余った水素の量が変わり、メタンの生成量も変わります。総説が引用する報告では、炭水化物がすべて酢酸に発酵した場合、メタンとして失われるエネルギーは33%になるとされています。また、泌乳中の牛は乾乳中の牛や未経産の若い雌牛に比べ、およそ2倍のメタンを出すと紹介されています。著者らは、その主な理由を摂取する飼料の多さに求めています。
飼料の内容については、次のような研究が紹介されています。濃厚飼料(穀物などエネルギーの多い飼料)を加えると、摂取量が増えるためメタンの総量は増えました。一方で、摂取した乾物1キログラム当たりのメタン量は低くなりました。濃厚飼料を90%にすると、飼料のエネルギーのうちメタンとして失われる割合が、一般に見込まれる6%の半分程度まで下がる可能性があるとの報告もあります。
開発途上国での状況と削減策
総説が引用する推計では、牛乳の生産量当たりの温室効果ガスの排出量(排出原単位)は地域によって異なります。農場出荷段階の平均値は、乳脂肪とたんぱく質で補正した牛乳1キログラム当たり、サハラ以南アフリカで7.5、北アフリカで4.6、近東で3.7キログラム(二酸化炭素換算)でした。著者らは、途上国で排出原単位が中程度から高い理由として、家畜1頭当たりの生産性の低さ、飼料の質の低さ、知識不足、投資の不足を挙げています。また、同じ地域の中でも国によって差があることから、改善の余地があると述べています。
削減策について、総説は先行研究に従い、大きく三つに分類しています。一つ目は栄養・飼料管理、二つ目はルーメン内の環境を変えてメタン生成菌を抑えること、三つ目は家畜の生産性を高める飼養管理です。
飼料面では、デンプンの割合を乾物の10%から20%に高めたところ、メタン生成量が8%減ったという報告が紹介されています。この研究では、乳質やルーメンのpHへの悪影響は見られませんでした。ただし著者らは、一般に穀物を与えすぎると乳質が下がるおそれがあるとも指摘しています。脂質の添加については、飼料に2〜4%の脂肪を加えるとメタンが10〜20%減る可能性があるとの記述があります。また、メタ分析(複数の研究を統合する解析)では、飼料中の脂肪が1%増えるごとにメタンが5.6%減ったと紹介されています。このほか、硝酸塩はメタン生成菌と水素を奪い合うため、メタンを減らしうると説明されています。
ルーメンの微生物に働きかける添加物の例として、総説はモネンシンを挙げています。6か月間の研究でメタン生成が7%減り続けたという報告が紹介されています。ふん尿については、堆肥化、固液分離、貯留槽の覆い、嫌気性消化装置によるメタンの回収などの方法が挙げられています。嫌気性消化装置を導入すると、ふん尿管理に由来する温室効果ガスが50%近く減ったという報告も紹介されています。回収したメタンはバイオガス燃料として利用できると述べられています。
総説が示すこと
著者らは、メタンの発生は牛にとって飼料エネルギーの2〜12%の損失でもあると整理しています。そのため、腸内発酵によるメタンを減らす意味は、環境面だけにとどまらないと位置づけています。また、農場での実際の排出量は管理方法に大きく左右されることから、関連する発生源をすべて測り、農場全体で削減策を評価する必要性を強調しています。
そのうえで著者らは、酪農場での給餌方法と管理の改善、農家や農場管理者へのメタン排出に関する知識の提供、排出を減らす新しい技術の導入を提言しています。この総説は、酪農のメタンが飼料や管理のあり方と深く結びついており、とりわけ生産性の低い地域では改善の余地が大きいことを示しています。
原著論文の著者・所属:Mebratu Mesfin(Department of Animal Science, Jimma University, Jimma, Ethiopia)、Ediris Abdulkadir(Department of Animal Science, Jimma University, Jimma, Ethiopia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Mebratu Mesfin, Ediris Abdulkadir. Methane Emissions from Dairy Production Systems: Sources, Drivers, Environmental Impacts, and Mitigation Strategies: A Review. American Journal of Zoology 2026-10-23. DOI: 10.11648/j.ajz.20260902.12. 原著ライセンス:CC BY.