クチナシ(Gardenia jasminoides Ellis)は中国南部を原産とするアカネ科の常緑低木で、その果実は「山梔子(サンシシ)」として2000年以上にわたり中国の伝統医学で使われてきました。イリドイド配糖体(主にゲニポシド)やクロシン、フラボノイド、ポリフェノール、有機酸、多糖類など多様な生理活性成分を含み、食品分野でも着色料「クチナシ黄色素」「クチナシ青色素」の原料として利用されています。ただし、これらの活性成分は抽出効率が低く安定性にも乏しいうえ、果実そのものに強い苦味・渋みと独特の薬臭があるため、そのままでは食品として受け入れられにくいという課題を抱えています。

この課題に対し、中国・浙江農林大学食品健康学院の研究グループは、乳酸菌・酢酸菌・酵母がセルロース膜(SCOBY)の中で共生しながら発酵する飲料「コンブチャ」の原料として、クチナシ果実を使えないかを検討しました。コンブチャは本来、紅茶や緑茶の浸出液を原料とするのが一般的ですが、近年は金花茶や忍冬(スイカズラ)の花、ヤマイモ抽出物、杜仲の葉など、薬食両用植物を原料にした派生型の研究が進んでおり、本研究もこの流れに位置づけられます。

どのように調べたか

研究チームは、乾燥させて粉末にしたクチナシ果実を、紅茶と砂糖で作った通常のコンブチャ発酵液に対して2.5%、5.0%、7.5%、10.0%、12.5%(重量/体積比)の濃度で加え、27℃前後で8日間発酵させました。発酵の進み方を追うため、0・2・4・6・8日目に試料を採取し、総滴定酸度(酢酸換算)、コハク酸・酒石酸・クエン酸・リンゴ酸などの有機酸量(HPLC分析)、総ポリフェノール量、総フラボノイド量、クロシンI量、DPPH・ABTS+という2種類の方法による抗酸化活性を測定しました。さらに、非標的メタボローム解析(含まれる代謝物を網羅的に検出する手法)によって発酵前後の成分プロファイルの変化を調べ、20〜30歳の男女10名からなる訓練されたパネルによる9段階評価の官能検査(色、香り、風味、透明感、総合評価)も実施しています。

発酵でわかったこと

クチナシ果実の粉末を加えた発酵液では、いずれの濃度でもSCOBY(発酵に関わる菌膜)の生育が順調に進みました。特に5.0%添加群(論文中ではG5Fer)は、8日目に他の濃度の群より厚みのあるバクテリアセルロース膜を形成し、総滴定酸度は10.43g/L、総ポリフェノール量は37.12mg没食子酸当量/100mLに達しました。一方、7.5%以上の高濃度で添加した群では、濁りや黒っぽい色、強すぎる酸味が生じ、官能評価のスコアはかえって低下しました。実際、12.5%添加群では8日目の酸度が14.03g/Lまで上昇し、市販コンブチャで飲みやすいとされる目安(おおむね4.0〜9.0g/L)を上回ったと報告されています。総合すると、5.0%添加群が香り・風味・総合評価のいずれでも最も高いスコアを獲得し、酸味・機能性成分・嗜好性のバランスが最も取れた条件だったとされています。

発酵過程の有機酸の動きも詳しく分析されており、コハク酸と酒石酸は発酵とともに大きく増加した一方、クエン酸とリンゴ酸(2.5%添加群を除く)は逆に減少する傾向が見られました。研究チームは、これは酢酸菌や乳酸菌がクエン酸・リンゴ酸をエネルギー源として利用しながら、コハク酸などへ変換していく代謝の結果ではないかと考察しています。また、クチナシ果実の粉末を加える量が多いほど、発酵前(0日目)の時点でもコハク酸やクエン酸の含有量が比例的に高くなっており、これは果実由来の有機酸がそのまま飲料に持ち込まれたためと説明されています。

非標的メタボローム解析では、発酵によって没食子酸やカフェ酸といったフェノール酸、ケンフェロール-3-O-ルチノシドなどのフラボノール配糖体が増える方向に代謝プロファイルが変化したことが示され、これはフェニルプロパノイド経路と呼ばれる植物の代謝経路の働きによるものと考察されています。同時に、DPPHおよびABTS+による抗酸化活性の測定値は、発酵を通じておおむね維持されていたと報告されています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この研究は、クチナシ果実がコンブチャ様飲料の新しい原料になりうることを示した一つの実験室規模の研究であり、5.0%という添加濃度が今回の条件下で酸味・機能性成分・官能評価のバランスに優れていたという結果です。ここで示された数値や傾向は、今回使用した特定の産地(福建省産)のクチナシ果実、特定のコンブチャ種菌、27℃前後という発酵条件のもとで得られたものであり、原料の産地や発酵条件が変われば結果が変わる可能性があります。また官能評価は10名のパネルによるものであり、健康効果そのものを検証した臨床試験ではない点にも注意が必要です。今回の記事の元になった要旨・本文には日本の研究機関や日本の食品との関わりについての記載はありませんでした。

クチナシ果実は苦味や薬臭の強さから食品としての利用が難しいとされてきた素材ですが、コンブチャ発酵という手法を通じてポリフェノールなどの機能性成分を保ちながら飲みやすさを高められる可能性が示されたことは、薬食両用植物の高付加価値化という観点から注目される結果だと言えます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Kaiyu Chen, Qi Zhang, Yanming Ren, et al. Gardenia Fruit as a Novel Substrate for Kombucha Fermentation: Impacts on Physicochemical Properties, Bioactive Compounds, Metabolomic Profiles, and Sensory Acceptance. フーズ (2026). DOI: 10.3390/foods15152670.