著者の所属・活動拠点の国は、インドネシア、エチオピアです。
掲載誌:Journal of Agriculture and Food Research
ライセンス: CC BY-NC-ND 4.0 対象: 公開論文 確認元: Crossref
クコの実(ゴジベリー)は、乾燥果実やお茶などで親しまれている食材です。一方「コンブチャ」は、緑茶や紅茶に砂糖を加え、酵母や酢酸菌などの共生培養物(SCOBY)で発酵させる発酵飲料として世界的に人気が広がっています。今回紹介する研究では、この2つを組み合わせ、クコの実を加えてコンブチャ発酵させることで、飲料の成分や機能性、安全性、味わいがどのように変化するのかを詳しく調べています。発酵という身近なプロセスが果実の成分をどう「作り替える」のか、そのプロセスに関心のある方には興味深い内容です。
研究でわかったこと
研究チームは、赤色のクコの実を1%、3%、5%(重量/体積比)の濃度でコンブチャに加え、14日間発酵させました。発酵が進むと、pHは低下し、糖の量も減少する一方で、滴定酸度(酸っぱさの指標)は増加しました。これは発酵によって有機酸が活発に作られたことを示していると report されています。
また、発酵を通じて総フェノール量、フラボノイド量、タンニン量、ビタミンCの含有量が増加し、それに伴って抗酸化能も高まったと報告されています。特に、DPPHという指標を用いた抗酸化活性の測定では、5%のクコの実を加えたコンブチャで最も高い値(ビタミンC換算で121.79 mg/L)が確認されました。
LC-MSという分析手法を用いた詳細な成分プロファイリングでは、発酵由来の成分としては酢酸やグルクロン酸が主要な有機酸として検出されたほか、クコの実由来の成分としてヒドロキシケイ皮酸誘導体、フェルラ酸、ルチン、フェニルアミド化合物などが確認され、これらの成分が発酵を通じて濃縮された可能性が示唆されています。
機能性の評価としては、この発酵飲料が大腸菌や黄色ブドウ球菌に対して強い抗菌効果を示したことが報告されており、有機酸とフェノール化合物の複合的な作用による可能性が考えられるとされています。さらに、α-グルコシダーゼという酵素の阻害活性についても、発酵させていない抽出物と比べて高い活性を示したとされ、糖の分解に関わるこの酵素への作用から、抗糖尿病の可能性を示唆する結果として位置づけられています。
安全性については、Zophobas morio(ゴミムシダマシの一種の幼虫)を用いた試験とヒト由来のHaCaT角化細胞(皮膚細胞)を用いた試験が行われ、いずれにおいてもこの飲料に毒性は認められず、細胞との適合性も良好であったと報告されています。
官能評価では、訓練を受けたパネリストが9段階の評価尺度を用いて飲料の味や好ましさを評価し、全体として良好な評価が得られたとされています。中でも3%のクコの実を加えたコンブチャが最も高い評価を受けたと報告されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、クコの実を加えたコンブチャ発酵飲料について、成分変化・抗酸化能・抗菌活性・酵素阻害活性・安全性・官能評価という複数の側面から総合的に検討したものです。ただし、これは一つの研究であり、ヒトが実際に飲んだ場合の健康への影響を直接検証したものではありません。抗菌活性や酵素阻害活性についても、あくまで実験室レベルでの結果として報告されている点に留意が必要です。今後さらなる研究によって知見が積み重ねられていくことが期待される段階だと言えるでしょう。
まとめ
この研究では、クコの実をコンブチャ発酵させることで、フェノール類やビタミンCなどの含有量や抗酸化能が高まり、抗菌活性や酵素阻害活性の面でも変化が見られたことが報告されています。また、毒性試験でも安全性に問題は見られず、官能評価でも受け入れられやすい飲料であったとされています。発酵という古くからの技術が、身近な果実の機能性や風味をどのように引き出せるのか、今後の研究の広がりが注目されるテーマだと言えそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):クコの実(Lycium barbarum)のコンブチャ発酵による生体変換:理化学的特性・生物活性・安全性・官能特性の総合評価(ジャーナル・オブ・アグリカルチャー・アンド・フード・リサーチ・2026年07月)
著者:Andy Candra(Department of Chemistry, Faculty of Mathematics and Natural Sciences, Universitas Sumatera Utara, Medan, 20155, Indonesia; Corresponding author.)、Bayu Eko Prasetyo(Department of Pharmaceutics and Pharmaceutical Technology, Faculty of Pharmacy, Universitas Sumatera Utara, Medan, 20155, Indonesia)、Fasihah Irfani Fitri(Department of Neurology, Faculty of Medicine, Universitas Sumatera Utara, Medan, 20155, Indonesia)、David Wiranasetio(Department of Chemistry, Faculty of Mathematics and Natural Sciences, Universitas Sumatera Utara, Medan, 20155, Indonesia)、Putri Khari Ani Purba(Department of Chemistry, Faculty of Mathematics and Natural Sciences, Universitas Sumatera Utara, Medan, 20155, Indonesia)、Nur `AiNi(Department of Chemistry, Faculty of Mathematics and Natural Sciences, Universitas Sumatera Utara, Medan, 20155, Indonesia)、Haile Fentahun Darge(College of Medicine and Health Science, Bahir Dar University, 79, Bahir Dar, Ethiopia; Centre for Ocular Research & Education (CORE), School of Optometry and Vision Science, University of Waterloo, Waterloo, Canada)