日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。
掲載誌:European Journal of Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:たんぱく質だけでは説明しきれない部分を探る
フレイルとは、加齢にともなって体の予備力が落ち、ストレスや病気から回復しにくくなった状態を指します。筋力や身体機能の低下だけでなく、認知機能や気分、人との交流といった心と社会の面も含む幅広い概念で、介護が必要になることや入院、死亡の増加と関連することが知られています。早く気づけば進行を遅らせたり防いだりできる可能性があるため、食事のように日々の生活で変えうる要因の解明が重視されています。
これまでフレイル予防の食事面では、たんぱく質を十分にとることが特に注目されてきました。しかし著者らによると、日本の高齢者を対象にした先行研究では、たんぱく質摂取量が最も多いグループでも総合的なフレイルの割合はおよそ25〜30%にとどまっていました。また、たんぱく質が食事のエネルギーに占める割合は通常10〜20%程度と幅が狭いのに対し、炭水化物と脂質は合わせてエネルギーの8割以上を占め、人によって配分が大きく異なります。
そこで研究チームは、炭水化物から得るエネルギーを脂質から得るエネルギーで割った「炭水化物・脂質エネルギー比」に着目しました。この値が大きいほど、脂質に比べて炭水化物に偏った食事であることを示します。研究の主な目的は、この比と総合的なフレイルとの関連を調べ、さらにその関連がたんぱく質摂取量の多い人・少ない人で同じように見られるかを確かめることでした。
何を調べたか
研究チームは、京都府亀岡市の65歳以上の住民を対象とした「京都亀岡研究」のデータを用いました。2011年7月に郵送で生活と健康に関する調査を行い、その半年後の2012年2月に食事を含む健康・栄養調査を実施しています。必要な情報がそろった5679人(男性2722人、女性2957人)が分析の対象となりました。
食事の内容は、46品目の食品・飲料について過去1年間にどのくらいの頻度で食べたかを尋ねる質問票から推定しました。フレイルの判定には、日本で地域の高齢者のスクリーニングに広く使われている25項目の「基本チェックリスト」を用いました。日常生活の手段的な動作、身体機能、栄養状態、口の機能、閉じこもり、認知機能、抑うつ気分の七つの領域を含み、該当する項目数が7以上の場合を「総合的なフレイル」としました。
分析では、炭水化物・脂質エネルギー比の大きさで参加者を4つのグループに分け、比が最も小さいグループと比べて、ほかのグループでフレイルに該当する見込み(オッズ)がどれだけ高いかを計算しました。その際、性別、年齢、体格、総エネルギー摂取量、飲酒、喫煙、持病、家族構成、学歴、経済的なゆとり、居住地域の人口密度、主観的な健康感の影響を統計的に調整しています。さらに、性別ごとにたんぱく質摂取量(エネルギーに占める割合)で3つのグループに分け、それぞれの中でも同じ分析を行いました。
主な結果:比が大きいほどフレイルに該当する人が多い傾向
対象者全体のうち、総合的なフレイルに該当したのは1705人(30.0%)でした。該当者の割合は、炭水化物・脂質エネルギー比が最も小さいグループの26.1%から、最も大きいグループの36.1%へと高くなっていました。
ほかの要因を調整した分析でも、比が最も大きいグループは最も小さいグループに比べ、フレイルに該当するオッズが1.92倍と報告されています。比が大きくなるにつれてオッズはほぼ直線的に高まる傾向が見られました。
この傾向は、たんぱく質摂取量が少ないグループ、中程度のグループ、多いグループのいずれでも同様に認められ、たんぱく質の量によって関連の強さが変わるという証拠は見られませんでした。体重1キログラムあたり1日1.0グラムを境にたんぱく質摂取量を分けた場合や、現在お酒を飲んでいない人に限った場合でも、似た結果が得られています。
基本チェックリストの領域ごとに見ると、比が大きいことは日常生活の動作、身体機能、口の機能、閉じこもり、認知機能、抑うつ気分の不調と関連していました。一方、栄養状態の領域との関連は統計的に明確ではありませんでした。著者らは、関連が食事に直接かかわる項目だけによるものではないと考えられるとしています。
この研究が示すこと
この研究は、たんぱく質をしっかりとっている高齢者も含めて、炭水化物と脂質のどちらからエネルギーを多く得ているかというバランスが、総合的なフレイルと関連していることを示しました。著者らは、フレイルに関わる食事の特徴を捉えるうえで、たんぱく質の量に加え、炭水化物と脂質の配分も追加の手がかりになりうると述べています。
ただし、これはある一時点の状態を調べた研究であり、関連が見られたことは原因と結果を示すものではありません。フレイルになって食欲や買い物・調理の力が落ちた結果、食事の内容が変わった可能性もあります。また、この比は炭水化物や脂質の質や、どんな食品から摂ったかを表していません。そのため著者らは、この結果をもとに高齢者に炭水化物を減らす、脂質を増やすといった勧めをすべきではなく、現在の推奨を変える根拠にもならないと明記しています。この研究は、栄養素全体のバランスとフレイルの関係を考えるための仮説を提示したものと位置づけられています。
著者:Hinako Nanri(Institute for Active Health, Kyoto University of Advanced Science, Kyoto, Japan)、Tsukasa Yoshida(Graduate School of Medicine, Tohoku University, Miyagi, Japan)、Eiichi Yoshimura(Institute for Active Health, Kyoto University of Advanced Science, Kyoto, Japan)、Jun Kunisawa(National Institutes of Biomedical Innovation, Health and Nutrition, 3-17 Senrioka-shinmachi, Settsu-shi, Osaka, 566-0002, Japan)、Hiroyuki Fujita(Institute for Active Health, Kyoto University of Advanced Science, Kyoto, Japan)、Misaka Kimura(Institute for Active Health, Kyoto University of Advanced Science, Kyoto, Japan)、Yosuke Yamada(Graduate School of Medicine, Tohoku University, Miyagi, Japan)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Hinako Nanri, Tsukasa Yoshida, Eiichi Yoshimura, et al. Carbohydrate-to-fat ratio is positively associated with comprehensive frailty across protein-intake levels in older adults. European Journal of Nutrition 2026-10-07. DOI: 10.1007/s00394-026-04099-0. 原著ライセンス:CC BY.