この研究は、インドネシアの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Sustainable Food Connect
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を明らかにしようとした研究か
東南アジアの内陸水域でとれる淡水魚は、地域の人々にとって手に入りやすいたんぱく源であり、小規模な漁業による収入源にもなっています。今回紹介する研究が対象としたセパットシャム(学名 Trichopodus pectoralis、スネークスキン・グラミーとも呼ばれます)は、沼地や氾濫原、河川、湖などに広く生息し、生鮮または塩蔵の形で食用に流通する経済的に重要な魚です。著者らは、この種が水質汚染や過剰漁獲、湿地の劣化といった脅威にさらされており、IUCNレッドリストで脅威にさらされた種として扱われていると述べています。
この種についてはこれまで、養殖での成長や摂餌生態、繁殖などの研究が積み重ねられてきました。しかし研究チームによれば、伝統的な漁具を使う漁のあり方と、実際に獲られている魚の生物学的な特徴との関係を扱った情報は乏しく、特に中央カリマンタンの湿地生態系についてはほとんど分かっていません。そこで著者らは、中央カリマンタン州パランカラヤ市の湿地に生息するセパットシャムについて、成長のパターン、体の充実度(肥満度)、そして「初めて成熟する体長」と「漁具に獲られ始める体長」を調べ、体サイズに基づく資源管理の基礎となるデータを示すことを目的としました。
どのように調べたか
調査は2023年3月から6月にかけて、パランカラヤ市の湿地内の一か所で行われました。標本は研究者が特別な仕掛けを用意したのではなく、地元の漁師が日常的に使っている3種類の伝統漁具で獲れた魚です。テンピライは水中の植物のそばに置く、えさを使わないハート形のわなで、上部が水面から出ているため魚が空気を吸えるようになっています。ルカーは竹製の筒状のわなで、入口に漏斗状の仕掛けと逃げ出しを防ぐ一方向弁を備え、やはり魚が水面の空気に届くよう斜めに沈めます。ルンタは投網で、沼とつながる流れで使われます。
こうして集まった標本は合計164個体(雄84、雌80)でした。研究チームは各個体の全長を1ミリメートル単位で、体重を0.01グラム単位で測定しました。成長のパターンは、体長と体重の関係式(体重=a×体長のb乗)を用いて調べています。この式のbの値が3なら体長と体重が釣り合って大きくなり、3より小さければ体重より体長の伸びが速い「負のアロメトリー成長」、3より大きければ逆になる、という見方をします。体の充実度にはフルトンの肥満度(K)という指標が使われ、値が高いほど状態が良いと解釈されます。成熟や漁獲の体長は、それぞれ成熟した個体の割合と累積漁獲割合を体長に対して当てはめた曲線から推定されました。
なお著者らは、標本数164個体は4か月の調査期間としては限られており、これは調査期間中に実際に獲れた量を反映したものであると説明しています。また技術的な制約から生殖腺の詳しい観察や重量測定は行えず、生殖腺重量指数(GSI)の分析はできなかったため、成熟体長の推定値は暫定的なものとみなすべきだとしています。
報告された主な結果
採集された魚の全長は60〜100ミリメートル(平均83.45ミリメートル)、体重は3.5〜8.6グラム(平均6.13グラム)でした。雄と雌の比率は、期待される1対1から統計的に意味のあるずれは見られず、体サイズについても雄と雌の間、および3種類の漁具の間で有意な差は認められませんでした。
体長と体重の関係を分析したところ、bの値は1.8856となり、負のアロメトリー成長、すなわち体重より体長の増加が速いパターンが示されました。決定係数は0.8511で、体重の変動の85パーセント以上が体長で説明されると著者らは述べています。一方でフルトンの肥満度は平均1.06であり、体が比較的小さいにもかかわらず、個体はおおむね健康な状態にあったと報告されています。著者らは、今回のbの値は東南アジアの他地域で報告されてきた2.6409〜3.2588という範囲より低く、平均体サイズも他の複数の水域の個体群より小さかったと比較しています。この小型化の背景として、環境条件や餌の入手しやすさ、生息場所の特徴、漁獲圧、あるいは乾季の到来の早さなどが関わっている可能性を挙げていますが、これらは考えられる要因としての指摘であり、原因を特定したものではありません。
繁殖に関わる体長では、半数が性成熟に達する体長(Lm50)が85.70ミリメートルと推定され、半数が漁具に獲られる体長(Lc50)の92.95ミリメートルより小さい値でした。このことから著者らは、大部分の個体は漁獲される前に成熟して繁殖する機会を得ていたと考えられる、と述べています。
この研究が示すこと
研究チームは、成熟する体長が漁獲され始める体長より小さいという結果を、現在の漁のあり方がこの個体群の存続をなお支えうることを示すものと位置づけています。同時に、小型の個体が多いことと体重より体長が速く伸びる成長パターンは、環境面の制約や生態的な圧力の高まりを示している可能性があるとして、漁獲圧の監視、漁具の選択性の改善、そして生物学的な知見と地域の暮らしに関わる社会経済的な条件の両方を踏まえた順応的な管理が必要だと論じています。
小規模な内陸漁業が地域の食料と収入を支える湿地において、その場所の魚がどのくらいの大きさで成熟し、どのくらいの大きさで獲られているのかという基礎的な数値は、これまで中央カリマンタンではほとんど記録されていませんでした。今回の報告は、その空白を埋める最初の手がかりを、地元の漁具で実際に獲れた魚の測定という形で示したものだといえます。
著者:Ahmadi Ahmadi(Faculty of Fisheries and Marine Science, Lambung Mangkurat University, Banjarbaru 70714, Indonesia)、Zulva Ainul Ilma(Faculty of Fisheries and Marine Science, Lambung Mangkurat University, Banjarbaru 70714, Indonesia)、Irham syah(Faculty of Fisheries and Marine Science, Lambung Mangkurat University, Banjarbaru 70714, Indonesia)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ahmadi Ahmadi, Zulva Ainul Ilma, Irham syah. Biological Characteristics of Snakeskin Gourami (Trichopodus pectoralis) from Central Kalimantan, Indonesia.. Sustainable Food Connect 2026-09-23. DOI: 10.69709/sustainfoodconn.2026.221286. 原著ライセンス:CC BY.