この研究は、ウクライナの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Ukrainian journal of veterinary sciences
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
家畜の飼育では、抗菌薬の使用が耐性菌のリスクから厳しく制限されるようになり、病気になってから治すのではなく、あらかじめ健康を保つ工夫が重視されています。そうした工夫のひとつが「プレバイオティクス」です。これは胃で消化されずに腸まで届き、腸内の有益な細菌のえさとなって、その増殖や働きを助ける飼料成分を指します。
著者らによれば、パン酵母として知られるサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)の細胞壁は、有力なプレバイオティクスかつ免疫調節物質の供給源のひとつです。ただし、これを実際の産業動物に用いるには、事前に実験動物で確かめておく必要があると著者らは述べています。そこで本研究は、酵母細胞壁を原料とする市販製剤アクティジェン(Actigen)を、量を変えて実験用ラットに与え、行動、体重、内臓重量にどう影響するかを実験的に評価することを目的としました。
何を、どのように調べたか
研究チームは生後2か月のラット40匹を、各10匹ずつ4つの群に分けました。第1群は対照群で通常のペレット飼料のみを与え、実験群である第2群、第3群、第4群には、それぞれ飼料1トンあたり1kg、5kg、10kgの割合でプレバイオティクスを混ぜた飼料を与えました。論文によれば、5kg/tと10kg/tは治療用量とされる1kg/tのそれぞれ5倍と10倍にあたります。試験期間は28日間で、飼育環境や飲み水はウクライナの衛生基準に沿って統一され、動物実験に関する国内法および国際的な指針を守って実施されたと記されています。
評価の中心となったのは、臨床状態を映す指標です。体温、呼吸数、心拍数を測るとともに、オープンフィールド(開けた場所)での10分間の観察により、水平方向の移動量(水平運動活性)と後肢で立ち上がる動作の回数(垂直運動活性)を数え、その合計を統合的な活動量としました。体重は1日目、14日目、28日目に測定し、平均日増体量を算出しました。28日目には心臓、肺、胃、肝臓、脾臓、腎臓の重量を測り、体重に対する割合も計算しています。データは平均値と標準誤差で表し、群間の差はスチューデントのt検定で、用量との関係はピアソンの相関係数などを用いて解析しました。
報告された主な結果
著者らは、1kg/tを与えた第2群と5kg/tを与えた第3群では毒性作用が認められず、これらの用量は安全であったと報告しています。一方、10kg/tを与えた第4群では、体調と行動の両面ではっきりした変化がみられました。28日目の体温は対照群より2.70%高く、ただし正常範囲の上限にあたる39.50℃にとどまりました。著者らはこれを免疫反応やストレス反応の現れと結びつけています。同時に、水平運動活性は1.77%、垂直運動活性は4.54%、統合的な活動量は2.78%低下しました。プレバイオティクスの用量と統合的な活動量との間で算出された相関係数はR=-0.996で、著者らは強い負の直線関係を示すものと述べています。なお呼吸数と心拍数は全群で安定しており、この動物種・月齢の正常値の範囲内でした。
体重については、全群で試験期間を通じて増加がみられ、群間に統計的に有意な差はありませんでした。平均日増体量が最も大きかったのは1kg/tの第2群で、28日目までの絶対的な増加量は12.70gでした。対照群は8.80g、第3群は8.10g、第4群は7.80gと報告されています。
内臓重量はすべての群で正常範囲内に収まりましたが、いくつかの変化が報告されました。脾臓の重量はすべての実験群で対照群より重くなり、その増加幅は24.7〜40.0%でした。著者らはこれを、免疫をつかさどる臓器への刺激作用を示すものと解釈しています。胃については体重に対する相対重量が第3群で15.9%、第4群で29.5%増え、消化管が多糖の摂取に適応して働きを高めた反応と説明されています。さらに第4群では肝臓の相対重量が23.2%増加し、これは正常範囲を超える統計的に有意な変化で、最大用量における代償性の臓器肥大の可能性が示唆されました。
この研究が伝えること
この研究は、酵母細胞壁由来のプレバイオティクスの働きが、与える量によって質的に変わりうることを実験用ラットで示したものです。低い用量では全身への悪影響がなく、体重の増え方もむしろ安定していたのに対し、治療用量の10倍では体温の上昇と活動量の低下、そして肝臓の相対重量の増加といった変化が現れました。効きめのある物質であっても、量の設定そのものが安全性と効果を左右する重要な検討課題であることを、著者らの報告は具体的な数値とともに描き出しています。
著者:Svitlana Tkachuk(Doctor of Veterinary Sciences , Professor National University of Life and Environmental Sciences of Ukraine 03041 , 15 Heroiv Oborony Str. , Kyiv , Ukraine)、Vladyslav Hromyk(Doctoral Student National University of Life and Environmental Sciences of Ukraine 03041 , 15 Heroiv Oborony Str. , Kyiv , Ukraine)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Svitlana Tkachuk, Vladyslav Hromyk. Effect of a prebiotic from the Saccharomyces cerevisiae yeast cell wall on the clinical condition of laboratory rats. Ukrainian journal of veterinary sciences 2026-09-17. DOI: 10.31548/veterinary3.2026.27. 原著ライセンス:CC BY.