私たちが毎日口にする食べ物は、健康だけでなく地球環境にも大きな影響を与えています。近年、食料システムは環境の劣化を招く大きな要因であると同時に、人々の健康状態を左右する重要な要素として認識されるようになってきました。世界的な食生活のパターンは、生活習慣病などの非感染性疾患の増加とも深く結びついており、栄養の充足と環境の持続可能性がなかなか両立しないというジレンマが指摘されています。

特に畜産は、投入する資源に対して得られるタンパク質の効率が比較的低く、環境への負荷が大きい分野とされています。これに加えて、世界的な食品ロス・廃棄の多さや、一部の主要穀物への依存の偏りも課題として挙げられています。こうした背景から、健康・環境・社会文化的な側面を統合的にとらえる『持続可能な食事』という考え方が、食と栄養の分野で重要な枠組みとして注目されるようになっています。また、環境面の影響にとどまらず、持続可能とはいえない食料システムは、低所得国の子どもたちなど特に弱い立場にある人々の栄養不良にもつながり、急性疾患のリスクを高めたり慢性的な健康問題を悪化させたりする可能性があるとされています。こうした状況の中で、持続可能な食事と、乳幼児への適切な食事・授乳の実践(IYCF)は、栄養不良を減らし健康状態を改善するための重要な方策として位置づけられています。

この特集号ではどんな研究が紹介されているのか

今回の巻頭言は、学術誌『フロンティアーズ・イン・サステイナブル・フード・システムズ』の特集号を紹介するもので、持続可能な栄養をテーマにした複数の研究成果がまとめられています。

まず、政策に関わる研究として、Hwallaらのグループは中東・北アフリカ(MENA)地域を対象に、食に基づく持続可能な食事ガイドラインを作成したことが紹介されています。検証済みの食事最適化モデルと各国の食事データを用いて、その地域の文化に合った推奨内容を検討し、栄養の質・入手のしやすさ(価格面)・環境への影響を同時に改善することを目指したとされています。最適化された食事パターンでは、全粒穀物・豆類・乳製品・魚の摂取を増やし、精製穀物・赤身肉・鶏肉・添加糖を減らす方向性が示されたと報告されています。この研究は、栄養・経済・環境という複数の視点を組み合わせ、レバノンにおいて食料安全保障と公衆衛生、そして持続可能性の目標を結びつけるための実践的な枠組みを提供するものと位置づけられています。

次に、Balakrishnanらのグループは、野菜の加工過程で生じる廃棄物を『循環型経済』の枠組みの中で有効活用する可能性について論じています。皮や種、搾りかすといった農業副産物を、食品・飼料・栄養補助食品・バイオテクノロジー・エネルギー生産などに活用できる生理活性化合物の資源として捉え直す視点が紹介されています。あわせて、食品廃棄物を有用な微生物やタンパク質の生産、きのこ栽培の培地として利用する新しい取り組みにも触れられています。実際の導入には課題もあるとしつつ、廃棄物を価値あるものに変える戦略が、環境負荷の軽減と食料システムの技術革新の両方に貢献しうる可能性が示されています。

さらに、行動や教育の側面に焦点を当てた研究も紹介されています。Sahadeoらのグループは、南アフリカの大学生を対象とした横断的研究により、持続可能な食料システムに対する認知度・知識・意識を調べています。その結果、持続可能な開発目標(SDGs)についての理解が限られていることが明らかになり、これが健康的でも環境的にも持続可能とはいえない食の選択につながっている可能性があると考察されています。著者らは、高等教育機関が持続可能性についてのリテラシーを高め、手頃な価格で栄養価の高い食品を入手しやすい環境を整えることの重要性を強調しています。

教育の重要性を踏まえた研究として、Mitiらのグループは、南アフリカの家庭を対象に、食に関するリテラシー教育を通じて家庭内の食品廃棄を減らすことを狙ったランダム化比較試験を行っています。介入群と対照群の間に統計的に明確な差は見られなかったものの、介入期間を通じて食品廃棄そのものや、それに伴う栄養・環境面での損失が全体として減少したことが観察されたとされています。この結果は、費用のかからない行動変容を目的とした教育的な取り組みであっても、一定の効果をもたらす可能性を示唆するものとされています。

この記事を読むうえでの注意点

この記事は、特集号全体を概観する巻頭言(エディトリアル)を基にしたものであり、個々の研究の詳しい方法や数値的な結果まで踏み込んだものではありません。紹介されている各研究にはそれぞれ異なる対象地域・対象者・研究手法が用いられており、ここで述べられている内容は、あくまで要旨に基づく概要である点にご留意ください。また、行動介入の研究では統計的に明確な群間差が確認されなかった例もあり、紹介されている知見はいずれも一つの研究として提示されたものであって、結論が確定したものではありません。

まとめ

この巻頭言では、持続可能な食事ガイドラインの策定、食品廃棄物の有効活用、消費者の意識、家庭での食品廃棄削減教育など、食料システムを持続可能なものへと変えていくための多様な研究の広がりが紹介されています。健康と環境、そして社会文化的な側面を統合的に考える視点が、これからの食と栄養のあり方を考えるうえで一つの手がかりになりうることが示唆されています。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:巻頭言:持続可能な栄養の開拓—世界の食料システムを変革する新たな声(フロンティアーズ・イン・サステイナブル・フード・システムズ・2026年07月)