この研究は、ナイジェリアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:IPS Journal of Physical Sciences

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

ナイジェリアは、マメ科の作物であるササゲ(Vigna unguiculata)の世界最大の生産国であり消費国でもあります。著者らによれば、ナイジェリアの生産量はアフリカ全体の61%、世界全体の58%を占めており、ササゲは同国の食生活を支える重要な作物のひとつです。

一方、ナイジェリアのジョス周辺にある錫(すず)鉱山の地域には、採掘のあとに残された「尾鉱(テーリング)」と呼ばれる残さが散在しています。論文は、先行研究の報告として、この尾鉱にカリウム40、ウラン238、トリウム232といった自然界に存在する放射性核種が高い濃度で含まれていることを挙げています。こうした尾鉱が適切に処理されないまま投棄されると、近くの農地が汚染される経路になりうるため、そこで収穫された作物の可食部を食べることで体内被ばくにつながる可能性があると著者らは述べています。

土壌から植物への放射性核種の取り込みの程度を表す指標に「移行係数(transfer factor、TF)」があります。これは、乾燥重量あたりで比べたときの、植物中の放射能濃度を土壌中の放射能濃度で割った値です。著者らは、国際原子力機関(IAEA)が2010年にまとめた報告書では熱帯地域、とりわけアフリカについてのデータが十分ではなく、ササゲについてはカリウム40の移行係数の報告がなく、ウラン238とトリウム232も「マメ科野菜」という大きなくくりでしか示されていないと指摘しています。そこで本研究は、鉱山の影響を受けた土壌で育てたササゲの各部位(根・茎・葉・種子)について移行係数を求め、あわせて収穫した種子を食べた場合の預託実効線量を推定することを目的としました。

何をどのように調べたか

著者らは、耕作も採掘もされていない場所から採取した土と、ジョスの廃棄された錫鉱山跡から採取した尾鉱を用いて、ポット(鉢)での栽培実験を行いました。まず尾鉱の放射能濃度を測定して、目的とする核種が高濃度で含まれていることを確認したうえで、尾鉱を使って土壌中の濃度を高める形で3つの土壌グループを用意しています。グループAは未汚染地域での農業を想定した元の土のみ、グループBは尾鉱のみで、尾鉱の残る鉱山跡地がそのまま農地に転用された場合のような最大限の汚染を想定したもの、グループCは元の土と尾鉱を同じ割合で混ぜたもので、鉱山のすぐ近くにある汚染された農地を想定しています。

各グループから10個ずつのポットを準備し、ナイジェリアの農業研修研究所(IAR&T)から入手したササゲ品種「Ife Brown」の種子を播いて屋外の日当たりのある場所に置き、約4か月で成熟するまで定期的に水やりを行いました。収穫した植物は根・茎・葉・種子に分け、水で丁寧に洗ってから乾燥させ、粉砕して容器に密封しています。ウラン238系列とトリウム232系列の娘核種が親核種と放射平衡に達するよう、4週間以上置いたうえで測定にかけました。分析した試料は土壌が30点、ササゲの各部位が88点です。

測定にはヨウ化ナトリウム検出器を用いたガンマ線分光法が使われ、カリウム40は1.460 MeV、ウラン238はビスマス214の1.760 MeV、トリウム232はタリウム208の2.614 MeVのピークから放射能濃度を求めています。1試料あたりの計測時間は10時間でした。得られた移行係数は幾何平均と幾何標準偏差で整理され、土壌グループと植物の部位という2つの要因について二元配置分散分析で差の有無が検定されています。種子の摂取による預託実効線量は、国際放射線防護委員会(ICRP)の線量換算係数と、ササゲの年間摂取量0.03 kgという値を用いて計算されました。

報告された主な結果

土壌グループの放射能濃度(幾何平均)は、カリウム40がグループAで179.65 Bq/kg、グループBで3421.52 Bq/kg、グループCで546.71 Bq/kg、トリウム232はグループAの273.06 Bq/kgに対してグループBでは25232.30 Bq/kgと報告されています。

ササゲの各部位における移行係数の幾何平均は、カリウム40が0.05(グループBの種子)から9.67(グループAの葉)、ウラン238は検出下限未満(グループCの茎・葉・根)から2.34(グループAの根)、トリウム232が0.05(グループBの茎)から9.73(グループAの葉)の範囲だったと著者らは報告しています。3つの土壌グループのいずれでも、移行係数の平均値が最も高くなるのは葉か根のどちらかの部位でした。

核種どうしを比べると、すべての土壌グループを通じてトリウム232の平均移行係数が最も高く、ウラン238が最も低く、多くの試料では検出下限未満でした。著者らはこの違いの考えられる理由として、ウラン238が植物に取り込まれやすい形で存在していなかった可能性を挙げ、先行研究に基づき、ウランがウラニルのリン酸塩・硫酸塩・水酸化物などの錯体をつくった場合には移行が低くなることを紹介しています。逆にカリウム40は多くの部位で移行係数が高く、カリウムが植物の生育に不可欠な元素であるため、安定なカリウムとともに放射性のカリウムも取り込まれたのではないかと考察されています。また、根で高い値が出た理由としては土壌溶液と直接触れる部位の細胞壁への吸着が、葉で高い値が出た理由としては降雨時などの土ぼこりや泥はねによる外部からの付着が、それぞれ先行研究をもとに挙げられています。

分散分析では、カリウム40とウラン238について、土壌グループの間でも植物の部位の間でも移行係数の平均値に有意差が認められました(p < 0.05)。トリウム232については土壌グループ間には有意差がありました(p = 0.039)が、植物の部位の間には有意差は認められませんでした(p = 0.397)。

ササゲ種子の摂取による預託実効線量は、グループAで平均2.37 μSv/年、グループBで平均110 μSv/年、グループCで平均9.29 μSv/年と計算されました。著者らは、これらの値はいずれもUNSCEAR(2008)が一般公衆について示す年間平均線量0.29 mSv/年を超えなかったと報告しています。

この研究が示すこと

この研究は、熱帯地域、とりわけアフリカについてはデータが乏しかったササゲの移行係数を、根・茎・葉・種子という部位ごとに、汚染の程度が異なる3種類の土壌について実測して示したものです。核種によって、また植物の部位によって移行のしやすさが大きく異なること、そして土壌の違いによって移行係数の平均値に有意な差が生じることが、著者らの報告から読み取れます。

こうした部位別・核種別のデータは、鉱山活動の影響を受けた土地で栽培される作物に放射性核種がどう蓄積するかを見積もるための基礎となるものであり、熱帯生態系における評価データの空白を埋める一歩として位置づけられています。

著者:N. E. Adesiji(Department of Physics, Federal University of Technology Akure, Ondo State, Nigeria)、J. A. Ademola(Radiation and Health Physics Research Laboratory, Department of Physics, University of Ibadan, Ibadan, Oyo State, Nigeria)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):N. E. Adesiji, J. A. Ademola. Radiological Assessment of Natural Radionuclides and Soil-to-Plant Transfer Factor of Cowpea Cultivated on a Mining Impacted Soil for the Tropical Ecosystem of Nigeria. IPS Journal of Physical Sciences 2026-09-14. DOI: 10.54117/ijps.v3i2.39. 原著ライセンス:CC BY.