著者の所属・活動拠点の国は、ブルガリアです。
掲載誌:Actual Nephrology
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
栄養素の「量」だけでは測れない食事の負担
慢性腎臓病(CKD)は、腎臓の働きが長い期間にわたって低下していく病気です。治療では食事療法が重要な柱とされてきました。従来の食事指導は、たんぱく質、ナトリウム(食塩)、カリウム、リンの摂取量を減らすことが中心でした。「勧められる食品」と「避けるべき食品」を決まった一覧で示す方法もよく使われてきました。
研究チームは、この考え方では十分に捉えきれない点があると指摘しています。食品に含まれるミネラルの総量と、実際に体に吸収される量は同じではありません。そのため、栄養成分が似ている二つの食品でも、リン・カリウム・ナトリウムによる体への負担が異なることがあります。違いを生む要因として、栄養素の由来、加工の程度、食品添加物の有無、調理方法が挙げられています。
本論文は、一見よく似た食品の間で、CKD患者さんにとっての負担がなぜ異なるのかを整理することを目的とした総説(叙述的レビュー)です。
何を調べたのか
著者らはCKDの食事に関する文献を検討しました。焦点は、リン・カリウム・ナトリウムの摂取量と体内への吸収されやすさ(生体利用率)、たんぱく質の供給源、食品添加物、加工の程度です。
検討の対象には、腎臓病の診療ガイドラインであるKDIGOとKDOQIの現在の推奨が含まれます。あわせて、腎臓内科の診療に直接役立つ臨床研究や総説も取り上げています。特に注目したのは次の四つの比較です。食品にもともと含まれるリンと添加物由来のリン、天然のカリウムと添加されたカリウム、加工の少ない食品と超加工食品に含まれるナトリウム、植物性と動物性のたんぱく源です。
報告された主な内容
まずリンについてです。自然の食品に含まれるリンは、主に有機物と結びついた形(有機リン)で存在します。動物性食品の有機リンは腸から比較的よく吸収されます。一方、植物性食品のリンの多くはフィチン酸という物質と結合しています。人はこれを分解する酵素の働きが弱いため、吸収は限られます。これに対し、安定剤、乳化剤、保存料、酸味の調整などに使われる無機リン酸塩の添加物は、水に溶けやすく、吸収されやすいとされています。論文は先行研究の結果も紹介しています。たんぱく質とリンの総量が同じでも、植物中心の食事は肉の多い食事と比べて、血液中のリン濃度とFGF-23(リンの調節に関わるホルモン)が低いことと関連していました。
カリウムについては、血液中のカリウムが高くなりすぎる「高カリウム血症」が、進行したCKDでよく起こる合併症です。ただし血中のカリウム濃度は、食事からの摂取量だけで決まるわけではありません。腎臓や腸からの排出、体の酸とアルカリのバランス、服用している薬などが複雑に関わっています。このため著者らは、すべての患者に一律で厳しいカリウム制限を行うのではなく、一人ひとりに合わせて調整するというKDOQIの考え方を紹介しています。また、食品産業ではカリウム塩が使われています。先行研究では、調べた加工食品715品のうち37.6%に少なくとも1種類のカリウム添加物が含まれていました。著者らは、この添加物由来のカリウムを考えずに、カリウムを含むという理由だけで果物や野菜を一律に制限することには疑問があると述べています。
ナトリウムについて、論文はKDIGOの推奨を紹介しています。CKDと高血圧がある患者では、1日2g未満に抑えることが推奨されています。加工肉、調理済み食品、インスタントスープ、一部のチーズなどは、ナトリウムと添加リン酸塩を同時に多く含むことがあります。このため加工の程度は、ミネラルによる負担の高さを間接的に示す目安になるとされています。超加工食品については、添加されたナトリウム、リン酸塩、カリウム塩に加え、エネルギーが高く食物繊維が少ないという特徴も問題として挙げられています。
たんぱく質については、ステージG3〜G5で透析を受けていない成人CKD患者に対するKDIGO 2024の推奨が紹介されています。目安は体重1kgあたり1日約0.8gで、腎臓病が進行するリスクがある場合は1日1.3g/kgを超える高たんぱく食を避けるとされています。量に加えて、たんぱく質の由来も重要とされています。植物性のたんぱく源は、リンが吸収されにくく、食物繊維が多く、食事による酸の負担が小さいことと関連しています。CRICと呼ばれる追跡研究(コホート研究)では、健康的な植物中心の食事パターンをよく守っている人ほど、全死亡リスクが低いことと関連していました。一方、健康的でない植物性の食事パターンでは同じ傾向は見られませんでした。このことから著者らは、加工の少ない植物性食品と、工業的に作られた植物性の代替食品を区別する必要性を強調しています。後者にはナトリウム、カリウム、リン酸添加物が多く含まれる場合があるためです。
調理法の影響にも触れています。食品をゆでると、カリウムやリンなど水に溶けやすい電解質の一部がゆで汁に移ります。小さく切ってからゆで、ゆで汁を捨てると、さらに多く取り除かれるとされています。添加物については、リンやカリウムの含有量が食品表示に必ず数値で書かれているとは限らないため、原材料を確認することが大切だと指摘しています。先行研究では、血液透析を受ける患者に、リンを含む添加物の入った食品を避けるよう教育したところ、血中リン濃度が統計的に有意に改善したと報告されています。
この総説が示すこと
著者らは、CKDの食事療法が、すべての患者に同じ制限を課す方法から、一人ひとりの栄養素の取り込み方を評価する方向へと移りつつあると結論づけています。食品の負担を決めるのは栄養素の含有量だけではありません。栄養素の化学的な形と吸収されやすさ、食品の構造、加工の程度、無機ミネラル添加物の有無、調理法も大きく影響します。
特に注意が必要とされているのは、超加工食品と、添加されたリン酸塩やカリウム塩です。これらは見えにくいミネラル負担の源になりえます。一方で、植物性食品をすべてのCKD患者に区別なく制限することは、現在の推奨に合わず、食事全体の質を下げるおそれがあるとしています。食品の質、由来、加工の程度に目を向けることが、個々の患者に合った食事療法につながるというのが、この論文の伝えるメッセージです。
著者:Benkova-Petrova, Miroslava; Clinic of Nephrology, St. Marina University Hospital, Medical University of Varna(Medical University of Varna, University Hospital St. Marina)、Petrov, Petar; Clinic of Nephrology, St. Marina University Hospital, Medical University of Varna(Medical University of Varna, University Hospital St. Marina)、Petov, Aleksandar; Clinic of Nephrology, St. Marina University Hospital, Medical University of Varna(Medical University of Varna, University Hospital St. Marina)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Benkova-Petrova, Miroslava; Clinic of Nephrology, St. Marina University Hospital, Medical University of Varna, Petrov, Petar; Clinic of Nephrology, St. Marina University Hospital, Medical University of Varna, Petov, Aleksandar; Clinic of Nephrology, St. Marina University Hospital, Medical University of Varna. Similar foods, different metabolic burden: contemporary aspects of nutritional therapy in chronic kidney disease. Actual Nephrology 2026-10-04. DOI: 10.14748/an.v20i1.10854. 原著ライセンス:CC BY.