写真: KATORISI / Wikimedia Commons / CC BY-SA 3.0
あんかけや唐揚げに使う片栗粉。その名前は、早春の林に紫の花を咲かせるユリ科のカタクリから来ています。農畜産業振興機構によると、片栗粉はもともとカタクリの球根から取ったでん粉で、江戸時代には奈良の森野薬園の近くに自生するカタクリから作られ、幕府に献上されていたといわれます。ところが、球根から取れるでん粉はごくわずかで、採りすぎたカタクリは江戸時代の末に激減しました。
代わりになったのが、明治時代以降に北海道で栽培が奨められたじゃがいもです。加熱すると透明で粘りの強い糊になる性質がカタクリのでん粉とよく似ていたため、じゃがいものでん粉が片栗粉として使われるようになりました。日本食品標準成分表(八訂)も、いま片栗粉として売られているもののほとんどはじゃがいもでん粉だと記しています。
片栗粉のように、名前と原料が一致しないでん粉は、ほかにもあります。台所やお菓子に使われるでん粉は、それぞれ違う植物から取られていて、植物が違えば使い道も変わります。
でん粉は、植物が種や根にたくわえた養分
でん粉は、植物が光合成でつくり、種や根、いもにたくわえておく養分です。成分表で、100gあたりのでん粉が多い食品を並べると、上位8つはすべて「でん粉類」です。八訂は、でん粉類を、植物の種、幹、いも、根にたくわえられたでん粉を取り出して精製したものと説明しています。生のじゃがいものでん粉は100gあたり14.7gですが、じゃがいもでん粉は(81.6)gで、いもの中のでん粉だけを集めて粉にしたものだと分かります。
8つのでん粉の量は(81.6)〜(89.3)gで、ほとんど差がありません(括弧つきは八訂の推定値)。違うのは、どの植物のどの部分から取ったかと、何に使われているかです。
| 食品 | もとの植物と部分 | でん粉 | 主な使い道 |
|---|---|---|---|
| 米でん粉 | イネの穀粒 | (89.3)g | そば・うどんの打ち粉、化粧品 |
| とうもろこしでん粉(コーンスターチ) | トウモロコシの穀粒 | (86.3)g | 甘味料の原料、プリンを固める、ビールの副原料 |
| サゴでん粉 | サゴヤシの幹 | (86.1)g | 東南アジアで食用、ソースの素材 |
| 小麦でん粉 | コムギの穀粒 | (86.0)g | 関西のかまぼこなどの練り製品 |
| くずでん粉(くず粉) | クズの根 | (85.6)g | くずきり、ごま豆腐 |
| キャッサバでん粉(タピオカ) | キャッサバの根 | (85.3)g | タピオカパール、そば・うどんの打ち粉 |
| さつまいもでん粉 | サツマイモの根 | (82.0)g | 甘味料の原料、はるさめ、ラムネ菓子、わらびもち |
| じゃがいもでん粉(片栗粉) | ジャガイモのいも(茎がふくらんだ部分) | (81.6)g | 片栗粉、はるさめ、オブラート、関東のかまぼこ |
いもや種だけでなく、サゴでん粉のようにヤシの幹から取るでん粉もあります。米でん粉は粒がとても小さく、なめらかな手ざわりになるので、打ち粉や化粧品に使われます。かまぼこのような練り製品でも、関西では小麦でん粉、関東ではじゃがいもでん粉が使われると、同じ機構は紹介しています。
量は同じでも、とろみが違う
使い道が分かれるのは、でん粉の性質が植物ごとに違うからです。農畜産業振興機構が、3種類のでん粉に65℃のお湯を注いで比べたところ、じゃがいもでん粉は透明で強い粘りが出ました。コーンスターチは白くにごったまま、さらさらしていました。さつまいもでん粉は、さらに白くにごり、ソースのようなとろみになりました。
じゃがいもでん粉は、ほかより早くとろみがつき、透明に仕上がるので、食材の色を見せたいあんかけや八宝菜に向いています。片栗粉がとろみづけの定番になったのは、この性質があるからです。
国内で使われるでん粉の約9割は、コーンスターチと輸入品
台所で身近なのは片栗粉ですが、国内で使われるでん粉の大半は、別のものです。農畜産業振興機構によると、国内に流通するでん粉の約9割は、輸入したとうもろこしから作るコーンスターチと、輸入のでん粉です。北海道のじゃがいもから作るでん粉と、鹿児島県・宮崎県のさつまいもから作るでん粉といった国内産のいもでん粉は、残りの約1割にあたります。コーンスターチは、世界で作られるでん粉の約8割を占め、甘味料の原料やプリンを固めるのに使われるほか、紙や段ボールの糊にもなります。
名前と原料が違う、でん粉のお菓子
片栗粉と同じように、名前と原料が違うお菓子もあります。八訂は「くずもち」を2種類に分けて載せていて、主に関西で出回るくずもち(関西風)はくずでん粉から、主に関東で出回るくずもち(関東風)は小麦でん粉から作られます。でん粉の量は100gあたり(22.5)gと(22.4)gで、ほとんど同じです。わらびもちも、名前はシダ植物のワラビから来ていますが、農畜産業振興機構は、さつまいもでん粉がわらびもちに使われていると紹介しています。タピオカも、もとはキャッサバのでん粉の呼び名で、タピオカパールはそのでん粉を丸い粒に加工したものです。
台所で片栗粉やくず粉、お菓子のくずもちやわらびもちを手に取ったら、原材料の欄を見て、どの植物のでん粉なのかを確かめてみたら如何でしょうか。
※参考資料
以下の公開資料をもとにNutriMapが構成・執筆しました。
- 農畜産業振興機構「【まめ知識】片栗粉のお話」(2016年11月2日更新)
- 農畜産業振興機構「植物から作られるでん粉」(2013年6月25日更新)
- 農畜産業振興機構「【まめ知識】片栗粉の由来とその特性」(広報誌「alic」2023年8月号)
- 農畜産業振興機構「『ばれいしょでん粉』について」(2020年11月18日更新)
- 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」第3章 いも及びでん粉類の留意点(でん粉・でん粉製品)
- 文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」第3章 菓子類の留意点(くずもち)
- 出典:文部科学省「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」:米でん粉、とうもろこしでん粉、サゴでん粉、小麦でん粉、くずでん粉、キャッサバでん粉、さつまいもでん粉、じゃがいもでん粉、じゃがいも(塊茎・皮なし・生)、タピオカパール(乾)、くずもち(関西風・くずでん粉製品)、くずもち(関東風・小麦でん粉製品)