パン用の小麦は、収穫量の多さだけでなく、子実(種子)に含まれるタンパク質の量もパンの品質を左右する重要な要素です。北海道で開発が進む秋播性コムギの新しい候補系統「北海266号」は、既存品種「ゆめちから」の後継として期待されていますが、収量とタンパク質含有率を両立させるには、窒素肥料をいつ、どれだけ追加で与えるかという管理方法が鍵を握ります。今回紹介する研究は、この「北海266号」を対象に、窒素追肥の時期と量を変えることで収量と子実タンパク質含有率がどう変化するかを調べたものです。
研究チームには、東京農業大学の研究者に加えて、農研機構北海道農業研究センターの研究者が名を連ねています。試験は2020年播種・2021年収穫の試験1として北海道芽室町の農研機構北海道農業研究センターで、2021年播種・2022年収穫の試験2として北海道美幌町の現地圃場で、それぞれ実施されました。
どのように調べたのか
研究チームは、小麦の生育段階のうち「起生期」「幼穂形成期」「止葉期」という3つのタイミングに着目し、それぞれの時期に与える窒素追肥の配分量を変えた複数の処理区を設定しました。対照区と比較しながら、起生期の追肥を省略したり半分に減らしたりする一方で、止葉期の施肥量を増やす、といった組み合わせを両試験地で試しています。そのうえで、収量や穂の数(穂数)、子実タンパク質含有率、さらに小穂内での粒重の分布まで詳しく調べました。
研究でわかったこと
まず「北海266号」は、両試験地とも「ゆめちから」より穂数が1平方メートルあたり100本以上多く、多くの処理区で収量が高くなる傾向が見られました。一方で子実タンパク質含有率については、対照区に比べて起生期の追肥を省略・半減し、止葉期の施肥量を増やした処理区で、両試験地とも有意に高い値が得られています。
興味深いのは、収量と子実タンパク質含有率の間には有意な相関が見られなかった一方で、「北海266号」では穂数と子実タンパク質含有率との間に強い負の相関が確認された点です。つまり穂の数が増えるほどタンパク質含有率が下がりやすいという特性がこの系統にあることが示唆されました。また、施肥量の配分によっては、小穂の中でも上位に位置する部分や、第2・第3の小花で粒重が低下しやすいことも明らかになっています。
これらの結果から研究チームは、「北海266号」では起生期の窒素施肥を抑えめにし、止葉期に重点的に追肥することで、穂数が過剰に増えるのを避けながら、高い収量と高いタンパク質含有率を両立できる可能性があるとまとめています。
この研究を読むうえでの注意
この研究は、北海道内の2つの試験地・2年間のデータに基づくものであり、対象となった品種・系統や気象条件、土壌条件が異なれば結果も変わりうる点に留意が必要です。あくまで一つの研究であり、施肥方法と収量・タンパク質含有率の関係について結論が確定したわけではありません。今後、より多くの圃場や年次でのデータの蓄積が期待される段階の研究といえます。
まとめ
今回の研究は、パン用小麦の新系統「北海266号」において、窒素追肥のタイミングと配分を工夫することで、収量とタンパク質含有率という一見両立が難しい特性のバランスを取れる可能性を示したものです。特に穂数の増えすぎを抑えることがタンパク質含有率の確保につながるという関係性が示唆された点は、今後の栽培技術の検討材料となりそうです。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Shinya KASAJIMA, Sohei MIURA, Hiroki FURUKAWA, et al. 窒素追肥の時期と量がパン用秋播性コムギ「ゆめちから」の後継候補系統「北海266号」の収量および子実タンパク質含有率に与える効果. 日本作物学会紀事 (2026). DOI: 10.1626/jcs.95.242.