米菓(せんべい)を食べたとき、噛むほどにサクサクした欠片がまとまり、やがて口の中でほどけていくような『口どけ』の良さを感じることがあります。この感覚がどのような仕組みで生まれているのかは、これまで十分に解明されていませんでした。今回、口どけの強さが異なる4種類の米菓を対象に、咀嚼中に食べ物が唾液と混ざり合ってできる塊(食塊)の変化を段階ごとに追跡した研究が、アプライド・フード・リサーチ誌に2026年7月に掲載予定です。

研究にあたったのは岐阜大学の大学院に所属する研究者らと、日本原子力研究開発機構の研究者からなるグループです。日本の菓子文化になじみ深い米菓を対象にしている点も、この研究の特徴の一つといえます。

人の代わりに噛む装置で食塊を取り出す

実験では、人が実際に噛む代わりに条件を一定にコントロールできる人工咀嚼装置が使われました。口どけの強さが異なる4種類の米菓をこの装置で咀嚼し、咀嚼開始から5秒・10秒・15秒・20秒という4つの時点でそれぞれ食塊を取り出して分析しています。同じ条件で繰り返し咀嚼を再現できることで、人によるばらつきを抑えて時間経過による変化を細かく比較できるようにした点がこの手法の狙いです。

取り出した食塊については、粒子の大きさ(粒径の中央値)、でんぷんがどれだけ分解されているか(でんぷんの加水分解の度合い)、食塊そのものの硬さや粘着性といった物理的な性質を測定しました。あわせて、人が実際に食べたときに感じる感覚の移り変わりを調べるため、時間の経過とともにどの感覚が優勢になるかを追跡する官能評価手法(Temporal Dominance of Sensations法)も用いられています。さらに、これらの食塊構造・物性・感覚データを主成分分析(PCA)にかけ、咀嚼が進む過程でのサンプル間の違いを比較しました。

口どけが強い米菓ほど、食塊の変化が速く進む

結果として、口どけの感覚が強いとされた米菓では、咀嚼が進むにつれて食塊の粒子サイズが速く小さくなり、咀嚼開始から20秒後には約710〜825マイクロメートルまで細かくなっていました。一方、口どけの感覚が弱いとされた米菓では粒子が大きいまま残り、20秒経過後も1300マイクロメートルを超える大きさが保たれていたと報告されています。

また、でんぷんの分解や、それに伴う食塊の硬さ・粘着性の変化についても、口どけの強い米菓のほうがより咀嚼の早い段階で起きていたことが示されました。主成分分析でも、口どけが強い米菓は咀嚼中の変化(データ上の軌跡の動き)が大きく、構造が速く崩れて最終的にはばらばらに分散した状態に近づく傾向がみられました。これに対し、口どけが弱い米菓では変化の幅が小さく、まとまりのある食塊構造がより長く保たれていたとされています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この研究は、人工咀嚼装置という管理された条件のもとで4種類の米菓を対象に行われたものであり、実際に人が口の中で噛んだ場合の唾液分泌量や噛み方の個人差までを再現したものではありません。ここで得られた結果は口どけ感覚の背景にある構造的・物理化学的な変化を関連づけて示したものであり、一つの研究であって、口どけの仕組みそのものが完全に解明されたと結論づけるものではない点に留意する必要があります。

まとめ

この研究では、米菓を噛んだときに感じる『口どけ』の強さの違いが、咀嚼が進む過程での食塊の粒子の細かさ、でんぷんの分解の進み具合、食塊の硬さや粘着性の変化するタイミングと関連していることが示唆されました。噛むという動作の中で刻一刻と変わる食べ物の状態を数値として捉える試みは、食感の感じ方をより詳しく理解する手がかりの一つになりそうです。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Kotaro Takahashi, Rika Murakami, Katsuyoshi Ito, et al. Elucidation of temporal relationships between bolus structure, physical properties, and sensory changes during mastication of rice crackers. アプライド・フード・リサーチ (2026). DOI: 10.1016/j.afres.2026.102466. 原著ライセンス: cc-by.