この研究は、ペルーの研究機関の研究論文です。

掲載誌:WSEAS TRANSACTIONS ON SYSTEMS AND CONTROL

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜ焙煎の「自動化」が課題なのか

コーヒーの味や香り、色といった感覚的な特徴は、焙煎中の温度と時間の組み合わせで大きく変わります。ところが著者らによれば、その設定は豆の性質や作業者の経験に頼る部分が大きく、標準化が難しいままです。産業規模の工場であっても作業者の判断が入るため、仕上がりのばらつきや再現性の低下、人的ミスが避けにくいと論文は指摘しています。

研究チームが特に問題としたのは、温度と時間の制御を「豆の種類に合わせて切り替えられる」使いやすい仕組みが乏しいことです。既存のPLC(プログラマブル・ロジック・コントローラ、産業機械を制御する専用コンピュータ)とHMI(ヒューマン・マシン・インターフェース、操作用のタッチパネル画面)を組み合わせたシステムでは、焙煎の設定が制御プログラム側に固定的に書き込まれており、条件を変えるには制御コードの書き換えが必要になる、というのが著者らの整理です。

そこで本研究の目的は、焙煎プロファイルを画面から選べる「動的なインターフェース」を備えた試作機を設計し、その動作を検証することに置かれました。要求条件の洗い出し、自動化のための電子回路の設計、PID制御アルゴリズムの実装、HMI画面の開発という段階を踏む構成です。

何を作り、どう確かめたか

著者らが組み上げた装置は、PT100温度センサー(白金の電気抵抗の変化から温度を測るセンサー)と信号変換器、シーメンス社のS7-1200というPLC、7インチのタッチパネルHMI(KTP700)、そしてヒーターへの電力を高速に入り切りするSSR(ソリッドステートリレー、機械的な接点を持たない半導体スイッチ)から構成されます。加熱部には電気オーブン用のヒーターを用い、実験室規模の焙煎機に見立てています。開発の進め方は、メカトロニクス設計で用いられるVDI 2206という規格に沿って段階化されました。

温度の調節にはPID制御を使っています。これは、目標値(設定温度)と実測値の差に対して、現在のずれ・ずれの蓄積・ずれの変化の速さという三つの要素をもとに加熱量を計算する、産業機械で広く使われる方式です。論文では、シーメンスの開発環境TIA Portal上でPID_Compactという機能ブロックを用い、センサー信号を温度に換算してから制御に渡す処理を組み、計算結果をPWM(パルス幅変調、オン/オフの時間比で電力量を調整する方法)としてSSRへ送る構成が示されています。

操作画面には手動モードと自動モードが用意されました。自動モードでは、アラビカ種・ロブスタ種・リベリカ種という三つの品種に対応した温度と時間の設定が事前に登録されており、作業者はそれを選ぶだけで済みます。著者らは、制御プログラムを書き換えずに画面から焙煎プロファイルを切り替えられる点、そして温度をグラフ表示しながらPLCのPID機能と双方向にやり取りできる点を、本研究の新しさとして挙げています。

なお検証では、実際の焙煎に相当する温度ではなく、60℃・75℃・91℃という低めの三つのプロファイルが使われました。論文はこの点を明示しており、これらはPT100センサーの校正とPID制御の評価のために選んだ条件であって、実際の焙煎条件(表では180〜220℃と記載)には対応しないと述べています。180〜220℃での検証は今後の課題として位置づけられています。

報告された主な結果

91℃のプロファイルでの試験について、著者らは次のような測定値を報告しています。目標の91℃に対して定常状態の温度は90.35℃で落ち着き、定常偏差は約0.65℃でした。目標温度に達するまでの立ち上がり時間は約19分、変動が収まるまでの整定時間は約23分です。到達した最高温度は約95.5℃で、行き過ぎ量(オーバーシュート)は約5%とされています。電気オーブンと抵抗式ヒーターを使っているため立ち上がりは緩やかで、安定に向かう過程で温度が一度上振れしてから約4分かけて落ち着いたと記述されています。

再現性については、91℃のプロファイルで3回連続して試験を行い、平均温度90.35℃、標準偏差は0.1℃未満、変動係数(ばらつきの大きさを平均に対する割合で表した指標)は3%未満だったと報告されています。著者らはこれをもって制御の再現性が確認できたとしています。全体の制御誤差は約5%と表現されています。

操作画面側の動作も確認されました。プロファイルを選ぶと対応する設定温度が制御側に渡されることや、停止操作やプロファイル切り替えの際に値が自動的に初期化されることが検証されたと述べられています。システム全体を組み合わせた検証では、60℃のプロファイルで25分間の運転を行い、PLC・HMI・PID制御が連携して動作することを確かめたと報告されています。

著者らはマイコン(ArduinoやESP8266など)を用いた先行研究との比較にも触れ、定常偏差0.65℃という応答精度と、制御プログラムの書き換えなしに画面から三つのプロファイルを選べる点を自らのシステムの特徴として挙げています。同時に限界も述べられています。熱の試験には長い時間が必要で、電気オーブンを連続運転し続けることも難しく、そのため試せる条件の数が限られたこと。さらに冷却の仕組みがないため、装置が室温に戻るまで長い待ち時間が生じ、試験の回転が遅くなったことです。著者らは冷却工程の組み込みを今後の改善点として挙げ、異なるプロファイルや条件での試験を増やす必要があるとしています。

この研究が示すこと

この研究が扱ったのは、コーヒーの味そのものではなく、焙煎という熱の工程を「誰が操作しても同じようにたどれる形」にするための制御の設計です。著者らの報告によれば、産業用のPLCと操作画面を組み合わせることで、豆の種類ごとに用意した温度プロファイルを現場の担当者が画面上で選び、その通りの温度推移を再現性をもって追いかけられる装置を、実験室規模で構成できました。

同時にこの試作は、あくまで校正と制御評価のための低い温度域での検証にとどまっており、実際の焙煎温度での確認や冷却機構の追加は残された課題として著者ら自身が記しています。経験に依存してきた工程を、機器の側で記録し再現できる部分と、まだ人の判断に残る部分とに切り分けていく——その一歩を具体的な回路と画面の設計として示したところに、この報告の意味があります。

著者:Leonardo Contreras(Facultad de Ingeniería, Universidad Tecnológica del Perú, Lima, PERÚ)、Raúl Maceda(Facultad de Ingeniería, Universidad Tecnológica del Perú, Lima, PERÚ)、Ricardo Yauri(Facultad de Ingeniería, Universidad Tecnológica del Perú, Lima, PERÚ)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Leonardo Contreras, Raúl Maceda, Ricardo Yauri. Design of a Dynamic HMI–PLC Prototype for Coffee Bean Roasting Profile Control. WSEAS TRANSACTIONS ON SYSTEMS AND CONTROL 2026-09-24. DOI: 10.37394/23203.2026.21.22. 原著ライセンス:CC BY.