養殖業では魚を育てるためのエサとして、魚粉や魚油が広く使われています。しかしこれらは天然の魚を原料としているため、資源の持続可能性が課題になっているといわれています。近年、この代替として注目されているのが「アメリカミズアブ」というハエの仲間の幼虫(BSFL、Black Soldier Fly Larvae)です。今回紹介する研究は、このBSFLから作られた「脱脂ミール」と「油」を、ナイルティラピアという広く養殖されている魚のエサとして利用できるかを調べたものです。

研究でわかったこと

この研究では、ナイルティラピアを4つのグループに分けて飼育する実験が行われました。内訳は、BSFLを使わない「対照区」、魚粉をBSFL由来の脱脂ミールに置き換えた「TB区」、魚油をBSFL由来の油に置き換えた「MB区」、そして魚粉と魚油の両方をBSFL由来の原料に置き換えた「TBMB区」です。それぞれ3回ずつ繰り返し試験が行われました。

その結果、成長性能(魚の育ち方)、肝臓の状態、栄養の消化率、そしてコレステロール・HDL・LDLといった血中脂質の値については、いずれのグループ間でも統計的に意味のある差は見られなかったと報告されています。つまり、魚粉や魚油をBSFL由来の原料に置き換えても、これらの項目に関しては対照区と大きな違いが出なかったということです。

一方で、魚粉と魚油の両方を置き換えたTBMB区では、中性脂肪(トリグリセリド)の値、そして「FIFO比」および「eFIFO比」と呼ばれる指標において、他のグループとの間に統計的な差が見られたと報告されています。FIFOやeFIFOは、養殖に使う天然魚由来の原料と、生産される養殖魚の量との関係を表す指標で、値が改善するほど天然資源への依存が少なく、持続可能性が高いと考えられているものです。

これらの結果から、研究チームは、BSFL由来の脱脂ミールと油は、ナイルティラピアの成長性能に悪影響を与えることなく魚粉・魚油の代替として利用でき、さらにFIFOやeFIFOといった持続可能性の指標を改善する可能性が示唆されたとまとめています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、あくまで今回の実験条件下でのナイルティラピアを対象とした一つの研究であり、結論が確定したわけではありません。他の魚種や異なる飼育環境、より長期の飼育においても同様の結果になるかどうかは、要旨からは読み取れません。また、成長性能などに差がなかったという結果は、あくまで統計的に有意な差が検出されなかったことを示すものであり、すべての面で完全に同等であることを保証するものではない点にも留意が必要です。

まとめ

今回紹介した研究では、アメリカミズアブの幼虫から作られた脱脂ミールと油を、ナイルティラピアの魚粉・魚油の代替として与えた場合、成長性能などに大きな悪影響は見られず、養殖の持続可能性に関わる指標が改善したことが示唆されています。昆虫由来の原料が水産養殖のエサの選択肢の一つとして研究が進められていることがうかがえる内容です。今後、さらに研究が積み重ねられることで、実際の養殖現場での活用可能性についての理解が深まっていくと考えられます。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:アメリカミズアブ幼虫(BSFL, Hermetia illucens)由来脱脂ミールおよび油のナイルティラピア(Oreochromis niloticus)への利用(インドネシア養殖学雑誌・2026年07月)