著者の所属・活動拠点の国は、タイです。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
タマネギに含まれる食物繊維が、肥満によって乱れた腸内細菌のバランスを整え、体重やコレステロール値の改善につながる可能性を示した動物実験の研究が、学術誌「フーズ」に2026年8月に掲載予定です。研究チームはタイのチェンマイ大学などに所属しており、地元産の赤タマネギ(Allium cepa L. var. viviparum)から作った特殊な食物繊維をラットに与え、腸内細菌の変化と肥満関連の数値がどう動くかを調べました。
タマネギの糖から作った「短鎖」の食物繊維
研究チームは以前から、赤タマネギの搾り汁にイヌリンと「イヌリンネオシリーズオリゴ糖」と呼ばれる果糖の鎖(フルクタン)が豊富に含まれることを報告してきました。イヌリンネオシリーズオリゴ糖は、鎖の末端にブドウ糖が結合した構造を持つ仲間で、タマネギに多く含まれることが知られています。今回は、これらを酵素(エンドイヌリナーゼ)で短く切断し、さらに酵母(Candida orthopsilosis FLA44.2)を使った発酵と、イオン交換樹脂による処理でブドウ糖・果糖・ショ糖といった単純な糖を除去して精製しました。できあがった素材は「短鎖イヌリンおよびイヌリンネオシリーズオリゴ糖(SCIINOs)」と名付けられ、純度は94.1%、主成分はネオケストースというオリゴ糖でした。
肥満ラットに8週間与えた結果
実験では6週齢の雄ウィスターラットに16週間高脂肪食を与えて肥満状態を作り出し、体重や総コレステロール、LDLコレステロール(悪玉コレステロール)の上昇、食事・エネルギー摂取量の増加を確認しました。その後、肥満になったラットを、SCIINOsを1日0.5g与える群、1日1g与える群、脂質異常症治療薬アトルバスタチン(10mg/kg/日)を与える群、何も与えない群の4グループに分け、8週間(16週目から24週目まで)観察しました。
その結果、SCIINOsを与えた群では体重、中性脂肪、総コレステロール、LDLコレステロール、食事・エネルギー摂取量、空腹時血糖値のいずれも、何も与えなかった群に比べて有意に低下し、その効果は薬であるアトルバスタチンに匹敵する水準だったと報告されています。特に善玉コレステロールとされるHDLコレステロールは、未治療群の21.80mg/dLから、SCIINOs0.5g群で29.1mg/dL、1g群で27.8mg/dLへと改善しました。
糞便の細菌叢を16S rRNA遺伝子解析で調べたところ、SCIINOsを与えた群ではビフィズス菌(Bifidobacterium)の割合が用量依存的に増加し、1g/日群では細菌全体のうち47.2%を占めるまでになりました。あわせてAllobaculumという菌も増え、逆にBlautiaという菌は減少しました。また、体重やコレステロール、血糖値の低下と相関して増えていた菌には、Dubosiella、Rothia、Parabacteroides、Eubacterium、Coriobacteriaceae UCG-002などが挙げられています。糞便中の短鎖脂肪酸を測定したガスクロマトグラフィー質量分析の結果では、酢酸と酪酸がSCIINOs投与群で有意に増加しており、これはビフィズス菌や酪酸を作る細菌が増えたこととも一致していました。
この研究を読むうえでの注意点
著者らは、SCIINOsを与えた群では腸内細菌の多様性(種類の豊富さ)がむしろ低下したことも報告しています。これは一見、腸内環境が悪化したようにも見えますが、著者らはビフィズス菌などの特定の有用菌が選択的に増えた結果であり、必ずしも悪いディスバイオシス(菌叢の乱れ)を意味しないと考察しています。また、Allobaculumという菌については、肥満ラットでも、SCIINOsやアトルバスタチンを投与した群でも増加が見られ、著者らは、この菌が食事内容や介入方法によって肥満を助長する側にも改善する側にも働きうる、文脈依存的な性質を持つ可能性を指摘しています。これらの実験はあくまでラットを用いた動物モデルでの結果であり、ヒトでの効果を直接示すものではありません。1件の研究であり、結論が確定したわけではない点に留意する必要があります。
まとめ
この研究は、赤タマネギ由来の短鎖イヌリン系オリゴ糖を肥満ラットに与えると、ビフィズス菌などの有用菌が増え、体重やコレステロール、血糖値といった肥満関連の指標が改善したことを報告するものです。著者らは、こうした腸内細菌への選択的な作用と短鎖脂肪酸の産生増加を通じて、赤タマネギ由来の成分が肥満対策のプレバイオティクス候補になりうると述べていますが、これは動物実験段階の知見であり、今後ヒトでの検証が必要とされる研究です。
原著論文の著者・所属:Supachawadee Soyprasert(Division of Biochemistry and Biochemical Innovation, Department of Chemistry, Faculty of Science, Chiang Mai University, Chiang Mai 50200, Thailand)、Kritsakorn Saninjuk(Gut Microbiome Research Group, Mae Fah Luang University, Chiang Rai 57100, Thailand)、Nalapat Leangnim(Division of Biochemistry and Biochemical Innovation, Department of Chemistry, Faculty of Science, Chiang Mai University, Chiang Mai 50200, Thailand)、Kridsada Unban(Division of Food Science and Technology, Faculty of Agro-Industry, Chiang Mai University, Chiang Mai 50100, Thailand)、Chorchat Lalichatsakul(Department of Physiology, Faculty of Medicine, Chiang Mai University, Chiang Mai 50200, Thailand)、Pattarasritida Phatthapong(Department of Physiology, Faculty of Medicine, Chiang Mai University, Chiang Mai 50200, Thailand)、Anusorn Lungkaphin(Department of Physiology, Faculty of Medicine, Chiang Mai University, Chiang Mai 50200, Thailand)、Chartchai Khanongnuch(Center of Excellence in Agricultural Innovation for Graduate Entrepreneur, Maejo University, Chiang Mai 50290, Thailand)、Apinun Kanpiengjai(Division of Biochemistry and Biochemical Innovation, Department of Chemistry, Faculty of Science, Chiang Mai University, Chiang Mai 50200, Thailand)
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Supachawadee Soyprasert, Kritsakorn Saninjuk, Nalapat Leangnim, et al. Short-Chain Inulin and Inulin Neoseries Oligosaccharides from Red Onions Enrich Beneficial Gut Taxa and Attenuate Obesity-Related Outcomes in a Rat Model. フーズ (2026). DOI: 10.3390/foods15162841. 原著ライセンス: cc-by.