掲載誌:Journal of Entrepreneurial Researchers
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
ワイン造りの文化と観光のつながりを調べる
研究チームは、マデイラ島に受け継がれてきたワイン造りの伝統を守り、その価値を伝える取り組みが、持続可能な観光や地域の事業づくりにどうつながりうるかを調べました。対象は、ユネスコ無形文化遺産の代表一覧表への登録申請が進められている「マデイラワインの伝統」です。畑仕事や醸造の技術だけでなく、世代を超えて伝わる知識、言葉、社会的な慣習も含めて捉えています。
研究チームは、文書の分析や活動に参加しながらの観察に加え、島内のワイン生産組織全8組織の管理職など49人と、ブドウ栽培者24人に聞き取りを行いました。発言をテーマ別に整理し、文化の継承、地域の参加、観光に関わる事業、言葉を通じた伝達という観点から分析しました。
伝統の保護への支持と、観光への期待
ワイン生産組織への聞き取りでは、49人全員が、伝統的なブドウ栽培の知識や実践を守る重要性に言及しました。登録申請は、ワインが持つ歴史や文化への理解を深め、生産者や行政などが協力するきっかけになると受け止められていました。
また、37人は、新たなワイン観光の体験づくりや観光の質の向上につながる可能性を挙げました。著者らは、すでに行われている酒蔵見学、試飲、ブドウ栽培に関する祭りなどを土台に、地域の歴史や営みを伝える事業を展開できると論じています。これは関係者が語った期待や可能性であり、登録後の観光収入などの増加を測定した結果ではありません。
言葉の役割も主要なテーマでした。生産組織の43人が、訪問者や島外へ移住した人々との意思疎通における、共通する言語や言葉のつながりの重要性を認めていました。栽培者の聞き取りでも、畑仕事に使う独自の用語や世代による表現の違いが確認され、著者らは、こうした言葉が知識と文化を受け渡す手段になると捉えています。
観光を支える文化を、日々の営みとして守る
ブドウ栽培者の語りからは、人手不足を家族や友人、近隣住民の助け合いで補う姿が示されました。一方で、高齢化や畑の放棄、観光・不動産開発の圧力、より収益性の高いバナナなどへの転作が、伝統的な栽培を続けるうえでの課題として報告されました。観光は地域経済を支える一方、拡大の仕方によっては、観光の魅力でもあるブドウ畑の景観や営みを脅かす関係にあります。
著者らが示したのは、文化遺産の保護を観光と結びつけるには、伝統を紹介するだけでなく、それを担う人々の参加と農業を続けられる条件が重要だということです。マデイラワインの伝統を、生きた地域の文化として支えることが、観光の持続可能性にもつながると論文は結論づけています。
原著論文の著者・所属:Rossana dos Santos(University of Madeira/CiTUR Madeira/OSEAN)、António Silva(University of Madeira/CiTUR Madeira)、Naidea Nunes(University of Madeira/CiTUR Madeira)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Rossana dos Santos, António Silva, Naidea Nunes. Intangible cultural heritage, local entrepreneurship, and sustainable tourism in an insular context: The case of Madeira Wine Traditions. Journal of Entrepreneurial Researchers 2026-08-26. DOI: 10.29073/jer.v4i2.70. 原著ライセンス:CC BY.