著者の所属・活動拠点の国は、フィンランド、カナダです。

掲載誌:Journal of Food Nutrition and Diet Science

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

「乳製品は体に良いか悪いか」ではなく「何と比べてか」

牛乳やチーズ、ヨーグルトなどの乳製品と、心臓病や糖尿病などの慢性疾患との関係については、研究結果が一致せず議論が続いています。著者らによると、これまでの多くの研究は、乳製品の摂取が主な慢性疾患に対して「影響がない」か「わずかに好ましい」ことを示してきました。しかし、こうした研究は乳製品だけを単独で評価しており、「何と比べてなのか」という問いには答えていません。

実際の食事では、ある食品を多く食べれば別の食品を減らすことになります。そのため、ある食品の健康への影響は、それが何を押しのけるかによって変わります。著者らはこの点に注目し、「置き換え分析」と呼ばれる手法を用いた研究を集めて整理しました。置き換え分析とは、摂取エネルギーの総量を一定に保ったまま、ある食品を別の特定の食品に置き換えた場合に、病気のリスクとどう関連するかを推定する方法です。

どのように調べたか

このレビューは、2000年1月から2026年2月までに英語で発表された研究を医学文献データベースで検索して行われました。対象としたのは、人々を長期間追跡する前向きコホート研究のうち、乳製品と他の食品との置き換え分析を報告したもの、およびそれらをまとめた系統的レビューやメタ分析です。複数の研究を統合した推定値がある場合には、それを個々の研究より優先しました。新たなデータ解析は行っていません。

著者らはまず、乳製品を単独で扱った従来研究の弱点を指摘しています。たとえば、ある系統的レビューでは、乳製品と心血管疾患に関する研究のすべてにバイアスのリスクが高いと評価されました。また、高脂肪の乳製品をよく食べる人が喫煙や甘い物を好む傾向を持つ集団もあれば、牛乳を飲む人が健康志向である集団もあり、生活習慣の違いが結果をゆがめうることも挙げられています。こうした事情から、より比較を明確にした置き換え分析が有用だと位置づけています。

主な結果:比べる相手によって評価が逆転する

最も一貫していた結果は、乳製品が赤身肉や加工肉より好ましい結果と関連していたことです。米国の3つのコホート(合計約21万8千人)を分析した研究では、1日1食分の乳製品を赤身肉・加工肉に置き換えると、死亡リスクが5%高いことと関連していました。複数の研究を統合したレビューでも、低脂肪乳製品1日200グラムを赤身肉に置き換えることは、全死亡、冠動脈疾患、2型糖尿病のリスクが高いことと関連していました。飽和脂肪についても、英国の約12万人を対象とした研究で、肉由来の飽和脂肪を乳製品由来の飽和脂肪に置き換えると心血管疾患のリスクが9%低いことと関連しており、同じ飽和脂肪でも供給源によって関連が異なることが示されています。

一方、比べる相手がナッツ、豆類、全粒穀物といった加工度の低い植物性食品になると、評価は逆転しました。1日1食分の乳製品をナッツ・豆類に置き換えると全死亡リスクが14%、全粒穀物に置き換えると11%低いことと関連していました。乳脂肪を植物油や全粒穀物の炭水化物に置き換えた場合にも、心血管疾患リスクが低いことと関連していました。魚への置き換えは冠動脈疾患リスクの低下と関連する方向の結果が見られたものの、統合した推定では統計的に有意ではなく、著者らは不確かさが残るとしています。

乳製品の中でも違いがありました。ヨーグルトやチーズのような発酵乳製品は、発酵させていない牛乳よりも好ましい関連を示しました。デンマークのコホートでは、チーズを全脂肪牛乳に置き換えると全死亡リスクが6〜12%高いことと関連していました。ただし、その理由として挙げられる発酵由来のビタミンK2などの仕組みは、人で因果関係が確かめられたわけではないと著者らは述べています。また要旨では、乳製品を減らしたりやめたりする場合でも、食事の工夫やサプリメントによってカルシウムやヨウ素などの栄養素の充足を保てると述べられています。

結果の受け止め方とこの研究の意味

著者らは置き換え分析の限界も明記しています。いずれも観察研究であり、他の食事や生活習慣の違いによる影響を完全には取り除けません。また、摂取エネルギーを一定に保った置き換えは計算上の仮定であり、実際の食習慣の変化とは異なる場合があります。食事内容の調査票には測定誤差があり、研究によって結果のばらつきが大きい比較もあります。

それでもこのレビューは、乳製品の健康への影響を「乳製品そのものの性質」としてではなく、食事全体の中で何を置き換えるか、何に置き換えられるかによって決まるものとして捉える視点を示しています。同じ乳製品が、肉と比べれば好ましく、植物性食品と比べれば見劣りするという結果は、栄養研究の結果を読むときに「何と比べてか」を問うことの大切さを伝えています。

原著論文の著者・所属:David M. Goldman(Department of Public Health, University of Helsinki, 00014 Helsinki, Finland)、Cassandra Warbeck(Department of Family Medicine, University of Alberta, Edmonton, AB T6G 2R3, Canada)、Matthew Nagra(Department of Family Practice, University of British Columbia, Vancouver, BC V6T 1Z3, Canada)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):David M. Goldman, Cassandra Warbeck, Matthew Nagra. Dairy, chronic disease risk, and the comparator problem: What substitution analyses reveal. Journal of Food Nutrition and Diet Science 2026-08-07. DOI: 10.55976/fnds.42026156261-75. 原著ライセンス:CC BY.