都市部で食料を持続的に生産する方法として、魚の養殖(アクアカルチャー)と水耕栽培(ハイドロポニックス)を組み合わせた「アクアポニックス」という農法が注目されています。魚の排せつ物を微生物が分解して植物の栄養にし、その水を浄化して魚のもとに戻すという循環の仕組みですが、栄養バランスや水質、微生物の管理をどう最適化するかは今も研究途上の課題です。スウェーデン農業科学大学(SLU)の研究グループは、この仕組みを画像による生育解析(表現型解析)とあわせて詳しく調べ、フロンティアーズ・イン・サステナブル・フード・システムズ誌に2026年8月に発表しました。
ティラピアとタツオイを45日間育てて比較
研究では、LED照明を備えた垂直式のアクアポニックス設備と、比較対象として養液栽培法(NFT方式)による水耕栽培設備を、温度25℃・湿度70%に管理したチャンバー内でそれぞれ3セットずつ稼働させました。魚にはナイルティラピア(Oreochromis niloticus)を1水槽あたり33尾(初期体重0.5g、体長1.5cm)、植物には中国野菜の一種であるタツオイ(Brassica rapa subsp. narinosa)を用い、実験期間は45日間でした。水耕栽培側の肥料には、植物用の標準的な液体肥料として知られるホーグランド液が使われています。魚には粗タンパク質40%の配合飼料が1日3回与えられ、給餌量は毎週の体重測定結果をもとに調整されました。水質については、アンモニウム態窒素や硝酸態窒素の濃度、水温、pH、電気伝導度などを定期的に測定し、さらに窒素・リン・カリウムなど14種類の栄養素の濃度も実験の初期・中期・終期に分析しています。植物の生育は、葉緑素計やクロロフィル蛍光測定、正規化植生指数(NDVI)、そして週1回のカメラ撮影による画像解析(ImageJというソフトを使用)で追跡されました。あわせて、水中の硝化細菌や、植物の根に病気を起こすカビの一種であるOomycetes(卵菌類)、腸内細菌科(Enterobacteriaceae)の有無も遺伝子解析で調べられています。
アクアポニックスの野菜は生育が良好、魚も順調に成長
結果として、ティラピアは特定成長率(体重増加の速さを示す指標)5.25%/日、飼料転換率(与えた餌の量に対してどれだけ体重が増えたかを示す指標)0.96という良好な数値を示し、死亡は確認されませんでした。植物については、アクアポニックス側の総収穫量が11.27kg(1平方メートルあたり4.5kg)に達し、水耕栽培側の2.88kgを大きく上回りました。平均の草丈や生重量もアクアポニックス側が有意に高く、葉の葉緑素含量や緑葉の面積の広がりについても、アクアポニックス側でより高い値が確認されたと報告されています。栄養素の測定では、水耕栽培の肥料液のほうが窒素・リン・カリウムなどの濃度自体は高かったものの、アクアポニックス側でも植物の生育に必要な水準は保たれていたとされています。微生物解析では、アクアポニックスの魚水槽から腸内細菌科の病原菌は検出されず、根の病気の原因となるOomycetesも、アクアポニックス側では栽培期間を通じて確認されませんでした(水耕栽培側では中期・終期に検出)。これらの結果から、著者らはアクアポニックスが植物の生育と水質・微生物環境の両面を良好に保ちながら、魚の生産性も維持できる可能性を示していると述べています。
この研究を読むうえで気をつけたいこと
この研究は、あくまで気候制御されたチャンバー内での実験室規模の検証であり、対象となった生物種もティラピアとタツオイという特定の組み合わせに限られています。屋外や大規模な商業施設でも同じ結果になるとは限らず、他の魚種・野菜種でどこまで再現されるかは今後の検証が必要です。また、この研究にはウェブサイトの読者にとって身近な食品との直接の関連づけは記載されておらず、著者の所属機関も日本国内の機関ではありません。栄養素の一部(リンなど)はアクアポニックス側で実験期間中に変動が見られており、著者らは肥料成分の管理や鉄分の補給など、システム運用上の細かな調整が今後も必要になる点にも触れています。
まとめ
今回の研究は、魚と野菜を同時に育てるアクアポニックスという仕組みについて、画像解析や水質・微生物データを組み合わせて生育の様子を詳しく可視化した一例といえます。都市部での食料生産の選択肢として期待される技術ですが、今回得られた数値や傾向は特定の実験条件のもとでの結果であり、この一つの研究だけで結論が確定したわけではない点には留意しておきたいところです。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Yenitze E. Fimbres‐Acedo, Vishnukiran Thuraga, Fernanda Leiva, et al. Plant growth and nutritional profiles of aquaponic crops based on phenotypic analyses. フロンティアーズ・イン・サステナブル・フード・システムズ (2026). DOI: 10.3389/fsufs.2026.1865450. 原著ライセンス: cc-by.