掲載誌:Food systems
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究のねらい
不安やストレス、気分の落ち込みがあると、甘いものや塩辛いもの、脂っこいものが欲しくなったり、逆に食欲が落ちたりすることがあります。研究チームはこうした心と食の結びつきに注目しました。心の状態を支えることを目的とした機能性食品を設計するには、利用者がどのような形や種類の食品を求めているかを知る必要があります。著者らはこの分野を「ニューロダイエトロジー(神経と食事の関係に注目した栄養学)」と位置づけています。
この研究の目的は、そのような食品(論文では「ニューロダイエット製品」)について、成人の消費者が形や種類を選ぶ際にどのような要因が関わっているのかを明らかにすることでした。対象としたのは、性別や年齢といった属性、心の状態の自己評価、食と心の健康の関係についての考え方、新しいタイプの食品への態度です。
どのように調べたか
研究チームは2025年5月27日から7月4日にかけてオンラインアンケートを実施し、514人から回答を得ました。回答者の大半はロシア各地の住民で、ロシア国外に住む人も一部含まれています。質問は37問で、5つのテーマに分かれています。属性、心の健康、食の好み、機能性食品に求める特徴、そして気持ちを落ち着かせるために食べる「コンフォートフード」への態度です。
回答者の約8割は女性でした。高等教育を受けた人が多く、居住地は中央連邦管区が約6割を占めています。平均年齢は約37歳で、回答者の年齢は14歳から76歳にわたっていました。著者らは、男性や一部地域の住民、学歴の比較的低い人が少ないため、結果をロシアの人口全体へそのまま当てはめるには限界があると述べています。
分析では複数の統計手法を用いました。回答者を地域ごとのまとまりとして扱い、個人差と地域差の寄与を切り分けて推定するモデルを使いました。また、多数の質問項目の背後にある共通の傾向を抽出する因子分析も行っています。さらに、どの種類の食品を選ぶかを予測するモデルも組み合わせました。
主な結果
まず、住んでいる地域による違いはほとんど見られませんでした。論文は、食と心の健康についての考え方や新しい食品への態度、自分の食生活や心の状態の評価は、主に個人の特徴と関連していたと報告しています。
個人の特徴ごとの結果は次の通りです。「食事は心の健康に関係する」という考えへの同意は、男性のほうが女性より低くなっていました。新しいタイプの食品に対しては、年齢が上の層ほど慎重な態度でした。自分の食生活の評価は、年齢が高い人、学歴が高い人、男性で高い傾向がありました。一方、自分の心の状態の評価は年齢とともに低く、とくに46〜55歳と55歳以上で、18〜25歳の層に比べて低くなっていました。
目立った傾向の一つは、食と心の健康の関係をどの程度信じているかと、新しい食品への態度との結びつきです。関係を認めない人では、新しい食品に否定的な回答が54.5%を占めていました。関係を強く信じる人ほど否定的な回答は減り、最も強く信じる層では肯定的な回答が22.1%に達していました。
因子分析では、栄養成分への関心が二つの方向に分かれることがわかりました。一つは脂肪酸、プロバイオティクス、アミノ酸、抗酸化物質といった生理活性成分への関心で、もう一つはなじみのあるビタミン・ミネラルへの関心です。心の状態についても、不安や抑うつの症状の強さと、自分の心の健康に対する主観的な評価は別の要素として現れました。機能性食品に期待することは、手軽さ、味、特定の効果という三つの比較的独立した方向に整理されました。
食品の種類の選び方にも傾向が見られました。女性は飲料や乳製品を、男性は肉製品を選ぶ傾向がありました。若い人は飲料や手軽な間食を、年齢が上の人は伝統的な形の食品を選ぶ傾向がありました。心の状態の自己評価が高い人、食と心の関係を信じる人、新しい食品に前向きな人は、飲料や乳製品を選びやすい傾向にありました。これに対し、自然さや伝統的な食品を重視する人は、肉や穀物の形を好む傾向が見られました。
この研究が示すこと
著者らは、心の状態を支える食品の形や種類の好みは、味や見た目だけで決まるものではないと結論づけています。性別や年齢、心の状態の自己評価、そして食が心に関わるという考え方が重なり合って形づくられる、というのが著者らの見方です。また、地域よりも個人の特徴のほうが大きな意味を持つことも示されました。研究チームはこの結果を、利用者の心の状態や属性に合わせた食品の品ぞろえを考えるための実証的な手がかりとして位置づけています。
原著論文の著者・所属:A. A. Kibitkina(V. M. Gorbatov Federal Research Center for Food Systems)、E. R. Vasilevskaya(V. M. Gorbatov Federal Research Center for Food Systems)、S. Yu. Karabanov(V. M. Gorbatov Federal Research Center for Food Systems)、L. F. Rustamova(V. M. Gorbatov Federal Research Center for Food Systems)、L. V. Fedulova(V. M. Gorbatov Federal Research Center for Food Systems)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):A. A. Kibitkina, E. R. Vasilevskaya, S. Yu. Karabanov, et al. Psycho-emotional state and dietary preferences as a basis for personalized neurodietology: Results of a sociological study. Food systems 2026-10-22. DOI: 10.21323/2618-9771-2026-9-3-452-460. 原著ライセンス:CC BY.