著者の所属・活動拠点の国は、韓国、アメリカです。
掲載誌:Journal of Microbiology and Biotechnology
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC
研究の目的
大豆はたんぱく質や食物繊維、イソフラボンなど多様な成分を含む食材です。一方で、消化を妨げる酵素阻害物質や、特有の青臭さが利用の妨げになることもあります。微生物で大豆を発酵させると、栄養や成分の構成が変わることが知られています。その一例が、インドネシアの伝統食テンペです。テンペは、リゾプス属のカビ(テンペ菌)を使い、水分の少ない固体のまま発酵させる「固体発酵」で作られます。
これまでの大豆発酵研究の多くは、丸ごとの大豆を対象としていました。研究チームは以前、マカの粉末をテンペ菌の一種Rhizopus oligosporusで発酵させ、L-カルニチンが長期間にわたって増え続けることを報告しています。L-カルニチンは、長い鎖をもつ脂肪酸を細胞内のミトコンドリアへ運び、エネルギーとして使われる過程を助ける物質です。今回の研究では、大豆の粉をこの菌で最長20日間発酵させ、物理的な性質、成分、試験管内で測った機能が発酵日数に応じてどう変わるかを調べました。
何をどのように調べたか
研究チームは、韓国の大豆品種「テウォン」の粉末を水に浸し、加熱殺菌しました。そこへR. oligosporusの胞子を植え付け、30℃で3、5、7、10、15、20日間発酵させました。そのうえで、発酵させていない大豆と比べています。
調べた項目は大きく三つです。一つ目は、水を抱え込む力、水を吸って膨らむ力、油を吸着する力、コレステロールと結合する力といった物理的性質です。コレステロール結合は、胃に近い酸性条件(pH2.0)と腸に近い中性条件(pH7.0)で測りました。二つ目は成分で、ポリフェノールやフラボノイド、サポニンの総量、カビの細胞膜成分であるエルゴステロール、L-カルニチン、そしてイソフラボンを測定しました。イソフラボンについては、糖が結合した「配糖体」と、糖が外れた「アグリコン」に分けて量を求めています。三つ目は機能で、抗酸化力に加え、糖の分解に関わる酵素α-グルコシダーゼと、メラニン生成に関わる酵素チロシナーゼの働きを抑える力を試験管内で評価しました。
主な結果
最も大きな変化はL-カルニチンでした。発酵前の大豆では乾燥重量1kgあたり0.66mgでしたが、5日目までは目立った変化がありませんでした。7日目に11.22mgへ増え、その後も増え続けて20日目には161.21mgに達しました。これは発酵前の約244倍にあたります。エルゴステロールは発酵前には検出されませんでしたが、20日目には乾燥重量1gあたり13.5mgまで増えました。研究チームは、この増加をカビが活発に育った証拠とみています。また、L-カルニチンが増えた理由について、著者らは次のように考えています。カビが出すたんぱく質分解酵素が、L-カルニチンの原料となるアミノ酸(リシンとメチオニン)を大豆から切り出し、カビ自身の合成の仕組みがそれを使ったのではないか、というものです。
ポリフェノール総量は15日目に最大となり、発酵前の3.13倍になりました。フラボノイド総量は10日目に3.84倍、サポニン総量は20日目に2.52倍で、それぞれ最大になりました。物理的性質では、水を抱え込む力が最大1.40倍に、油を吸着する力が20日目に1.55倍に高まりました。酸性条件でのコレステロール結合力は20日目に有意に上がりましたが、中性条件では発酵前との差は統計的に有意ではありませんでした。
イソフラボンでは、配糖体の糖を切り離す酵素β-グルコシダーゼの活性が、発酵前は見られなかったのに対し、発酵とともに現れて15日目に最大となりました。配糖体のダイジン、ゲニスチン、グリシチンは発酵が進むにつれて減り、やがて検出されなくなりました。一方、アグリコンの変化は成分ごとに異なりました。ダイゼインは15日目に約18.6倍まで増えました。ゲニステインは発酵前には検出されず、10日目に最大となった後、20日目には大きく減りました。アグリコンの合計は10日目に最大で、その後は減少しています。
機能面では、抗酸化力を示す複数の指標が発酵とともに高まりました。たとえばORACという指標は、20日目に発酵前の1.93倍になりました。α-グルコシダーゼを抑える力は7日目に最も強く、発酵前の約2.3倍でした。チロシナーゼを抑える力は10日目に最も強く、約1.5倍でした。どちらの酵素も、その後は抑える力が弱まっています。つまり、成分や機能ごとに最も高まる発酵日数が異なっていました。研究チームは、これらの機能の変化が、イソフラボンのアグリコンやL-カルニチン、エルゴステロールなどの増減と統計的に関連していることも示しています。
研究が示すこと
この研究は、大豆の粉をテンペ菌で長く発酵させると、もともとわずかだったL-カルニチンが大きく増え、イソフラボンが配糖体からアグリコンへ移り変わることを示しました。同時に、どの成分や機能を重視するかによって、適した発酵日数が異なることも明らかにしています。ここで報告された機能は試験管内の測定結果です。著者らは、植物中心の食事ではL-カルニチンを摂りにくいことを踏まえ、L-カルニチンを多く含む発酵大豆を植物性食品の素材として位置づけています。
著者:Tri Nhut Pham(Graduate School of International Agricultural Technology, Seoul National University, Gangwon-do 25354, Republic of Korea)、Hayeong Kim(Institute of Food Industrialization, Institutes of Green Bioscience and Technology, Seoul National University, Gangwon-do 25354, Republic of Korea)、Ghahyun Jeffrey Kim(Department of Clinical Pharmacy Practice, School of Pharmacy and Pharmaceutical Sciences, UC Irvine, CA 92617, USA)、Soyoung Park(Institute of Food Industrialization, Institutes of Green Bioscience and Technology, Seoul National University, Gangwon-do 25354, Republic of Korea)、Taeyoung Um(Department of Plant Science, Kangwon National University, Gangneung 25457, Republic of Korea)、Soochul Park(Institute of Food Industrialization, Institutes of Green Bioscience and Technology, Seoul National University, Gangwon-do 25354, Republic of Korea)、Doman Kim(Graduate School of International Agricultural Technology, Seoul National University, Gangwon-do 25354, Republic of Korea)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Tri Nhut Pham, Hayeong Kim, Ghahyun Jeffrey Kim, et al. Solid-State Fermentation Drives L-Carnitine Accumulation and Isoflavone Bioconversion with Functional Enhancement in Soybean. Journal of Microbiology and Biotechnology 2026-08-26. DOI: 10.4014/jmb.2606.06042. 原著ライセンス:CC BY.