この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Food Science & Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
夏摘みの茶葉を生かすための研究
夏に摘まれる茶葉は、気温が高い時期に育つため、苦みや渋みに関わる茶ポリフェノールやカフェインが増えやすい一方、うま味や甘みに関わるアミノ酸や香りの元になる成分は少なくなりがちです。著者らによれば、その結果、夏の茶は香りが単調で苦渋みが強くなりやすく、市場での価値が上がりにくいとされます。
研究チームは、夏の茶葉を有効に使うには、どの程度若い芽を摘むか(摘採基準)と、どのお茶に加工するか(製法)の組み合わせが重要だと考えました。ただ、この二つが互いにどう影響し合うかを体系的に調べた研究は限られており、実際の製茶は経験に頼る部分が大きいと論文は指摘しています。そこで本研究は、摘み方と製法の組み合わせが夏茶の品質にどう影響するかを明らかにすることを目的としました。
2種類の摘み方と4種類の製法で比べる
研究チームは2025年6月15日、中国貴州省の茶園で品種「福鼎大白茶」の夏の茶葉を摘みました。摘み方は、芽と若葉1枚を摘む「一芽一葉」と、芽と葉2〜3枚を摘む「一芽二〜三葉」の2通りです。前者のほうがより柔らかく若い葉にあたります。それぞれの茶葉を、緑茶・黄茶・白茶・紅茶という4種類のお茶に、それぞれ伝統的な工程で加工し、計8種類の茶を作りました。
できた茶は、訓練を受けた5人の審査員が外観、水色、香り、味、茶殻を評価し、100点満点で採点しました。あわせて、味を感知するセンサーで苦み・渋み・うま味・甘みの強さを数値化する「電子舌」による測定や、アミノ酸、カテキン類、カフェインなどの含有量の分析、香り成分の網羅的な分析も行いました。
さらに、成分の濃度を、その成分を人が感じ取れる最小濃度(閾値)で割った値を使い、どの成分が味や香りに実際に効いていそうかを絞り込みました。味ではこの値が1を超えると味に感じられる程度の寄与があると考えられ、香りについても同様の考え方で相対的な寄与が評価されています。
若い芽ほど高評価、製法で味の傾向が大きく変わる
官能評価では、4種類すべてのお茶で、一芽一葉から作った茶のほうが一芽二〜三葉の茶より高い点数でした。たとえば緑茶は93.57点対89.72点、紅茶は93.48点対89.85点、白茶は92.35点対86.74点、黄茶は92.41点対89.01点と報告されています。若い芽から作った茶は、とくに香り、さわやかさ、甘みの面で優れていました。お茶の種類別にみると、白茶が葉の若さの違いに最も影響を受けやすく、黄茶は比較的安定していたとされます。
電子舌の測定では、製法による違いがはっきり表れました。紅茶は全サンプルの中で苦みの値が最も低く、渋みとうま味はどちらも緑茶、黄茶、白茶、紅茶の順に強い傾向でした。甘みは黄茶と白茶が緑茶や紅茶より有意に高い値を示しました。また、葉が成熟したものほど渋みが強くなる傾向が全体にみられた一方、苦みについては、緑茶と紅茶では成熟した葉のほうが苦く、黄茶と白茶では逆に若い葉のほうが苦いという、製法によって異なる傾向が報告されています。
成分分析からは、アスパラギン酸、グルタミン酸、テアニン(お茶のうま味に関わるアミノ酸)、EGCG(代表的なカテキン)など10種類が味の鍵となる成分として、またゲラニオールなど10種類が香りの鍵となる成分として挙げられました。著者らは、白茶と紅茶の製法がこうした重要な成分の蓄積を促したとし、味に関わる成分の量の違いが味の特徴を、香り成分の違いが製法ごとの香りの多様さを生んでいると述べています。なお、香り成分の同定は標準物質による確認を経ていない推定的なものと論文で断られています。
摘み方と製法の「相性」が夏茶の品質を左右する
研究チームは、同じ茶葉でも製法によって風味が大きく異なることから、適切な製法を選べば、成熟した夏の茶葉の弱点をある程度補える可能性があると指摘しています。苦渋みが課題とされる夏茶にとって、黄茶・白茶・紅茶への加工は品質の弱点を和らげる有効な選択肢になりうるというのが著者らの見方です。
一方で、高品質な茶を作る基盤はやはり若く柔らかい茶葉であることも示されました。この研究は、夏の茶葉をどう摘み、どのお茶に仕上げるかという組み合わせを、感覚評価と成分の両面から整理したもので、夏茶の品質向上や付加価値の高い利用を考えるための手がかりを提供しています。
著者:Jinlong Luo(Guizhou Tea Research Institute, Guizhou Academy of Agricultural Sciences Guiyang Guizhou China)、Siyu Liao(Wuzhi‐Xieying Tea Co., Ltd Wuzhishan China)、Fengjiao Ding(Guizhou Tea Research Institute, Guizhou Academy of Agricultural Sciences Guiyang Guizhou China)、Yuqiao Dai(Guizhou Tea Research Institute, Guizhou Academy of Agricultural Sciences Guiyang Guizhou China)、Zhongying Liu(Guizhou Tea Research Institute, Guizhou Academy of Agricultural Sciences Guiyang Guizhou China)、Tuo Zhang(Guizhou Tea Research Institute, Guizhou Academy of Agricultural Sciences Guiyang Guizhou China)、Ting Yang(Guizhou Tea Research Institute, Guizhou Academy of Agricultural Sciences Guiyang Guizhou China)、Qin Li(Guizhou Tea Research Institute, Guizhou Academy of Agricultural Sciences Guiyang Guizhou China)、Shimao Fang(Guizhou Tea Research Institute, Guizhou Academy of Agricultural Sciences Guiyang Guizhou China)、Yan Li(Guizhou Tea Research Institute, Guizhou Academy of Agricultural Sciences Guiyang Guizhou China)、Wanping Fang(College of Horticulture Nanjing Agricultural University Nanjing China)、Qiang Shen(Guizhou Tea Research Institute, Guizhou Academy of Agricultural Sciences Guiyang Guizhou China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jinlong Luo, Siyu Liao, Fengjiao Ding, et al. Effects of Plucking Standards and Processing Methods on the Quality Characteristics of Summer Tea Leaves. Food Science & Nutrition 2026-10-01. DOI: 10.1002/fsn3.72445. 原著ライセンス:CC BY.