ブルーベリーやナスに含まれる紫色の色素「アントシアニン」、ウコンに含まれる黄色い成分「クルクミン」。どちらも食品の色を作る身近なポリフェノールですが、これらが体の中でどのように吸収され、どんな仕組みで働くのかは長らく十分に分かっていませんでした。今回紹介するのは、こうした食品由来ポリフェノールの代謝性疾患(肥満・糖尿病など)予防に関する研究をまとめた、日本食品科学工学会大会での受賞講演の要旨です。発表者は中部大学応用生物学部・大学院応用生物学研究科の津田孝範氏で、名古屋大学大学院での研究を出発点に、長年にわたりこのテーマに取り組んできたことが紹介されています。

アントシアニンの体内動態と働き

アントシアニンは不安定な物質で、かつては健康機能を持つとは考えられていなかったといいます。この研究では、アントシアニンの一種であるシアニジン3-グルコシド(C3G)を対象に、体内での吸収のされ方が調べられました。その結果、アントシアニンは糖が結合した「配糖体」のままの形で直接体内に吸収されること、ただしその吸収率は非常に低いこと、さらにC3Gの代謝物または分解物として、C3GのB環に由来する「プロトカテク酸」という物質が体内で検出されることが報告されています。また、体内での酸化ストレスを抑える作用、脂肪細胞の機能を調整する作用、体脂肪の蓄積を抑える作用、血糖値の調節に関わる耐糖能を改善する作用についても報告されました。仕組みの面では、エネルギー代謝に関わる酵素「AMPキナーゼ」の活性化や、血糖調節に関わるホルモン「GLP-1」の分泌を促す作用が関わっていることが明らかにされています。

クルクミンと運動を組み合わせた研究

クルクミンについては、体内への吸収性を高めた製剤を使うことで、GLP-1の分泌を促す作用や耐糖能の改善作用、さらに脂肪細胞を熱産生能力の高い「ベージュ脂肪細胞」に変化させる作用が報告されています。これらの効果は、製剤化していない通常のクルクミンでは得られなかったとされています。吸収に関する研究では、クルクミンが体内で結合した形(抱合体)として投与されると、かえって体内の遊離型クルクミン濃度が高まり、作用が強まることも見出されました。また、クルクミンの健康機能に懐疑的な立場の論文が抱える問題点について、海外の学術誌から寄稿を依頼され発信したことも紹介されています。さらに、低用量のクルクミン製剤と運動を組み合わせることで、骨格筋から分泌される「IL-6」を介してベージュ脂肪細胞化が相乗的に促進されること、そして新しいクルクミン製剤と運動の併用が、脳由来神経栄養因子「BDNF」のシグナルを介して認知機能を高める作用を強めることも報告されています。

色素以外のポリフェノールや他の食品成分にも展開

研究の対象は色素成分だけにとどまりません。熱帯産の豆類であるタマリンドの種皮抽出物からは抗酸化成分が同定され、超臨界二酸化炭素を使った効率的な抽出法も確立されたといいます。糖転移ヘスペリジンやフェルラ酸については、体脂肪の蓄積を抑える仕組みが、白色脂肪組織での熱産生(ベージュ化)によることが明らかにされました。フェルラ酸は水に溶けにくく体内に吸収されにくいという利用上の課題があったため、シクロデキストリンで包み込む「包接化」という手法により吸収性を高める効果が報告され、有効利用への道筋が示されています。このほか、大豆イソフラボンやショウガ成分がアディポネクチン(脂肪細胞から分泌されるホルモン)の発現低下を抑える作用、植物タンパク質やアミノ酸、ロイヤルゼリー成分、ブラジル産プロポリス成分(Artepillin C)に関する研究、さらに乳酸の経口摂取だけでも活性酸素をきっかけとしてベージュ脂肪細胞化が誘導されるという知見も紹介されており、運動をしなくても運動と似た効果が期待できる「運動代替食品因子」という考え方が提示されています。

この講演を読むうえでの注意

この記事のもとになっているのは、学会での受賞記念講演の要旨であり、著者がこれまでに発表してきた多数の研究成果を総括的に紹介したものです。個々の作用の多くは細胞や動物を用いた実験に基づくものであり、ヒトでの健康効果を保証するものではありません。また、要旨内で述べられている「世界に先駆けて」といった表現は著者自身による位置づけであり、この記事では研究内容の紹介にとどめています。特定の食品成分が病気を予防・改善すると断定するものではなく、今後の研究の進展を踏まえて理解する必要があります。

まとめ

アントシアニンやクルクミンといった身近な食品の色素成分から、フェルラ酸やプロポリス成分、乳酸に至るまで、幅広い食品由来成分について、体内での吸収のされ方や、脂肪細胞の働きを変える仕組みが調べられてきたことが分かります。特に、運動と食品成分を組み合わせることで効果が高まるという視点や、乳酸を運動の代わりとして活用する発想は、今後の食品科学の展開として注目されます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Takanori Tsuda. [学会賞]食品由来ポリフェノール等の代謝性疾患予防とその応用に関する研究. 日本食品科学工学会大会講演要旨集 (2026). DOI: 10.3136/aamjsfst.72.0_1.