著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

「タラ」という名前の幅広さに着目した研究

タラは高たんぱく・低脂肪で味にくせが少ない白身魚として世界中で取引されています。生物学的にはタラ目の魚、特にマダラやタイセイヨウダラなどのタラ属が「本来のタラ」とされます。一方、商取引上の「タラ」は国や制度によって範囲が異なる呼び名で、分類上まったく別の魚が同じ名前で売られることがあります。中国でも「鳕」は売り場で広く使われる名称ですが、魚種ごとの商品名を義務づける決まりはないと論文は説明しています。

中国では冷凍のタラ関連製品の輸入が多く、近年は通信販売サイトが水産物の主要な購入経路になっています。通販では写真と説明文しか見られず、皮を除いた切り身では見た目から魚種を判断することもできません。研究チームは、こうした商品の実際の魚種をDNAで確かめ、そのうえで魚種ごとの栄養の違いを比べることを目的としました。これまでの研究は魚種の判定が中心で、判定された魚の栄養まではあまり調べられていなかったと著者らは述べています。

何をどう調べたか

研究チームは2025年9月から11月にかけて、中国の大手通販サイトである淘宝(タオバオ)と京東から「タラ」として販売されている冷凍製品36点を購入しました。販売者、商品表示、原産国、価格帯ができるだけ異なるように選んでいます。

魚種の判定には「DNAバーコーディング」を用いました。細胞内のミトコンドリアにある遺伝子の決まった領域の塩基配列を読み取り、公開データベースの既知の配列と照合して種を特定する方法で、加工されて形が分からない食品にも使えます。

続いて、判定された魚種ごとに筋肉を混ぜ合わせ、水分・たんぱく質・脂質・灰分の量、アミノ酸の組成、うま味や苦味に関わる遊離アミノ酸、脂肪酸の組成を分析しました。なお、同じ魚種の試料をまとめて測っているため、論文は栄養の比較結果を記述的に解釈すべきものとしています。

8種の魚が「タラ」として流通していた

36点の製品から8種の魚が見つかりました。タラ目に属したのは20点(55.6%)で、タイセイヨウダラ5点、マダラ(太平洋のタラ)5点、タラ目の深海魚であるソコダラ科のオオヨロイダラ(ジャイアントグレナディア)10点でした。残る16点(44.4%)はタラ目以外の5種で、ギンダラ4点、マジェランアイナメ(メロ)7点、カラスガレイ3点、そしてアブラソコムツとバラムツが各1点でした。

表示との関係を見ると、「銀鳕(ギンダラ)」と表示された11点はすべてギンダラかマジェランアイナメで、いずれもタラ科ではありませんでした。単に「タラ」とだけ表示された16点では、オオヨロイダラが10点、カラスガレイが3点、マダラが3点でした。一方、「マダラ」「タイセイヨウダラ」のように具体的な魚種名を示した製品は、すべて表示どおりの魚種でした。著者らは、魚種名が明確な表示ほど信頼性が高いことを示していると述べています。

特に注意が必要とされたのが、「白鳕」と表示された製品がアブラソコムツ、「タラの切り身」と表示された製品がバラムツだったことです。これら2種は消化されにくいワックスエステルという脂質を多く含み、胃腸の不調との関連が知られているため、一般的な「タラ」の名前で売られると本物のタラを期待する消費者を誤解させかねないと論文は指摘しています。ただし、この研究自体はワックスエステルの量を測定していません。

魚種によって栄養の特徴は大きく異なった

基本的な成分では、タラ目とそれ以外の魚の違いがはっきり表れました。本来のタラであるマダラとタイセイヨウダラはたんぱく質が19%を超え、脂質は1%前後と少なく、高たんぱく・低脂肪というタラのイメージに合う結果でした。これに対し、タラ目以外の5種は脂質が15.02〜23.09%と高く、なかでもマジェランアイナメが最も多い値でした。たんぱく質は総じて本来のタラより低めでした。

脂肪酸では、本来のタラは脂肪酸全体に占めるEPAとDHAの割合が35.61〜37.10%と高く、タラ目以外の魚はこうした長鎖のオメガ3脂肪酸の割合が低い傾向でした。最も低かったのはアブラソコムツの5.81%です。これらは量そのものではなく、脂質を構成する脂肪酸の中での割合として示された値です。

アミノ酸のバランスについては、仮定した消化率に基づく推定ではありますが、8種いずれも良好なたんぱく源と評価されました。アブラソコムツやバラムツの中には、アミノ酸の総量が本来のタラを上回るものもありました。このため著者らは、アミノ酸組成だけでは本物のタラかどうかを見分けられず、DNAによる判定が欠かせないとしています。

味に関わる遊離アミノ酸では、本来のタラはうま味・甘味に関わるものが中心でした。一方、タラ目以外の5種はいずれも苦味に関わるものの割合のほうが高く、アブラソコムツでは苦味に関わる遊離アミノ酸が100gあたり0.661gと最も多く、その大部分はヒスチジンでした。ただし、アブラソコムツとバラムツの結果はそれぞれ1試料に基づくもので、実際の味の感じ方は他の成分や食品の状態にも左右されるため、慎重な解釈が必要だと論文は述べています。

名前だけでは分からない中身

この研究は、中国の通販で「タラ」として売られている冷凍魚が実際には分類の異なる多様な魚を含み、それらの間で脂質の量や脂肪酸の構成、味に関わる成分などが大きく異なることを示しました。同じ「タラ」という名前でも、中身の魚種によって栄養の特徴が変わり得るということです。著者らは、DNAバーコーディングによる魚種の特定が、商品の栄養的な質を評価するための基盤になると結論づけています。

原著論文の著者・所属:Shuai Che(State Key Laboratory of Mariculture Biobreeding and Sustainable Goods, Yellow Sea Fisheries Research Institute, Chinese Academy of Fishery Sciences, Qingdao 266071, China)、Rong Huang(State Key Laboratory of Mariculture Biobreeding and Sustainable Goods, Yellow Sea Fisheries Research Institute, Chinese Academy of Fishery Sciences, Qingdao 266071, China)、Chaoqun Wang(State Key Laboratory of Mariculture Biobreeding and Sustainable Goods, Yellow Sea Fisheries Research Institute, Chinese Academy of Fishery Sciences, Qingdao 266071, China)、Ang Li(State Key Laboratory of Mariculture Biobreeding and Sustainable Goods, Yellow Sea Fisheries Research Institute, Chinese Academy of Fishery Sciences, Qingdao 266071, China)、Shufang Liu(State Key Laboratory of Mariculture Biobreeding and Sustainable Goods, Yellow Sea Fisheries Research Institute, Chinese Academy of Fishery Sciences, Qingdao 266071, China)、Zhimeng Zhuang(State Key Laboratory of Mariculture Biobreeding and Sustainable Goods, Yellow Sea Fisheries Research Institute, Chinese Academy of Fishery Sciences, Qingdao 266071, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Shuai Che, Rong Huang, Chaoqun Wang, et al. DNA Barcoding and Comparative Nutritional Profiling of “Cod” (鳕) Products from Chinese E-Commerce Platforms. Foods 2026-10-08. DOI: 10.3390/foods15193575. 原著ライセンス:CC BY.