海の恵みとして古くから食されてきた海藻。しかし「天然だから安心」という思い込みが、実は見直しを迫られているかもしれません。メキシコ沿岸に自生する褐藻類の一種、サルガッサム・ホリドゥム(Sargassum horridum)を対象にした研究が、海藻に含まれる微量元素の変動と、それに伴う健康リスクについて新たな知見を示しています。
研究でわかってきたこと
2026年3月に海洋環境研究誌に掲載されたこの研究では、褐藻の一種であるサルガッサム・ホリドゥムに含まれるヒ素(As)、カドミウム(Cd)、鉛(Pb)、銅(Cu)、鉄(Fe)、亜鉛(Zn)、マンガン(Mn)、カリウム(K)などの微量元素の濃度が、10年単位の長期変動・年ごとの変動・季節的な変動によって大きく異なることが報告されています。
特に注目されているのが、ヒ素やカドミウムといった有害重金属の挙動です。これらは海洋環境の汚染状況や海水温、栄養塩の変化などと連動して濃度が上下することが示唆されており、同じ種の海藻であっても採取された時期や場所によってリスクが異なる可能性があると研究では述べられています。また、安定同位体比(δ¹³Cやδ¹⁵N)の分析を組み合わせることで、元素がどのような経路で海藻に取り込まれるかのメカニズム解明にも取り組んでいます。
研究チームは、海藻を食品や健康食品として利用する際には、産地・季節・環境モニタリングのデータを参照することが重要だと指摘しています。「天然素材=無条件に安全」という図式は必ずしも成り立たないことが、この研究から示唆されています。
注目の食品と実測データ
今回の研究の主役であるサルガッサム・ホリドゥムは、日本では一般的な食用海藻として流通しているわけではなく、当サイトのデータベースにも現時点では収録がありません。また、同藻類の微量元素に関する詳細な実測値は、国内公的機関(農林水産省・厚生労働省・国立健康・栄養研究所等)の公表データでも確認できる情報がないため、具体的な数値の提示は本記事では行いません。
ただし、研究が問いかけているテーマ——海藻類に含まれるヒ素や重金属のリスク——は、日本で日常的に食べられている海藻類にとっても無縁ではありません。わかめ、昆布、ひじきなど馴染み深い海藻類は、ヨウ素やミネラルを豊富に含む一方で、環境由来の無機ヒ素を蓄積しやすい特性があることが知られています。特にひじきについては、食品安全委員会および厚生労働省が過去に摂取に関する注意喚起を行っており、過度な大量摂取を避け、調理の際に水戻し・茹でこぼしを行うことが推奨されています(出典:厚生労働省「ひじきのヒ素について」)。
日本で流通する一般的な海藻類の栄養成分に興味がある方は、食品群一覧から藻類のページをご覧ください。各食品の詳細データを確認できます。
日々の食事に取り入れるヒント
海藻類はミネラルや食物繊維を手軽に摂れる食材として、日本の食文化に深く根ざしています。研究が示すリスクを過度に恐れる必要はありませんが、以下のような点を意識することが、よりバランスのとれた取り入れ方につながるでしょう。
- 多品目・少量ずつを心がける:一種類の海藻を大量に摂り続けるのではなく、わかめ・昆布・のりなど複数種類を少量ずつ組み合わせると、特定の成分への偏りを避けやすくなります。
- 調理の工夫を活用する:ひじきのヒ素に関する厚生労働省の注意喚起でも触れられているように、水戻しや茹でこぼし(湯通し)を行うことで、水溶性の成分をある程度低減できる可能性が示されています。手間をかける価値のある工夫です。
- 産地・加工方法の情報を確認する:今回の研究が示すように、同じ種類の海藻でも産地や採取時期によって元素の含有量が異なる可能性があります。信頼できる産地表示や品質管理がされた製品を選ぶことが、一つの目安になります。
- 健康食品・サプリメント形態の海藻に注意:乾燥・濃縮された健康食品では、通常の食事と比較して特定成分を多量に摂取するリスクが高まる場合があります。最新の日本人の食事摂取基準(厚生労働省)も参考に、過剰摂取にならないよう心がけましょう。
まとめ
海藻は日本の食卓に欠かせない食材ですが、今回の研究はその微量元素の含有量が時間的・環境的に大きく変動しうることを改めて示しています。「自然由来だから安心」ではなく、産地・調理法・摂取量に少し意識を向けることが、賢い食べ方への第一歩です。多様な食材をバランスよく組み合わせる食生活を意識することが、日々の食の選択における一つの考え方です。この研究はそのことを静かに私たちに問いかけています。
※本記事は下記の原著論文をもとに作成しました。参考文献:Decadal, inter- and intra-annual variations in trace elements in Sargassum horridum (Phaeophyceae: Fucales): implication for human health risk(海洋環境研究(2026-03-07))