この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Food Chemistry X
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を目的とした研究か
中国南部原産の果実ヤマモモ(Myrica rubra)は、鮮やかな赤色のもとになるアントシアニンを豊富に含み、その95%以上がシアニジン-3-O-グルコシド(C3G)という成分だと著者らは説明しています。ただしアントシアニンは化学的に不安定で、加熱や保存の間に分解して色が失われやすいことが、食品としての品質上の大きな課題になっています。
色素を安定させる自然な方法として知られているのが「コピグメンテーション(共色素効果)」です。これはアントシアニンと、別のポリフェノール(補助色素=コピグメント)が化学結合をつくらずに寄り添うことで、色が濃くなったり、色素分子が攻撃を受けにくくなったりする現象です。研究チームはこれまでの研究に、いくつかの空白があると指摘します。多くは単純な緩衝液のモデル系で行われており、実際の果汁のような複雑な成分環境の影響が見落とされていること、分解の途中経過を追わず最終時点だけを比べる研究が多いこと、そしてフェノール酸とフラボノイド配糖体という2つのタイプの補助色素を同一条件で直接比べた例が乏しいことです。さらに、報告されている効果が互いに矛盾する例もあると述べています。
そこで著者らは、フラボノイド配糖体3種(ルチン、ミリシトリン、ケルシトリン)とフェノール酸3種(フェルラ酸、没食子酸、プロトカテク酸)を選び、同一条件下で比較しました。研究チームが立てた仮説は、平面的な構造をもつフラボノイド配糖体の方が強い効果を示すこと、実際の果汁の複雑な成分が効果を変化させうること、そしてアスコルビン酸(ビタミンC)はC3Gの分解を促進するが補助色素がそれを部分的に打ち消しうること、の3点でした。
どのように調べたか
実験は2種類の液体で行われました。1つはクエン酸でpH3.3に調整し、C3Gを溶かした「モデル果汁」、もう1つは冷凍したヤマモモ(東魁種)を搾って遠心分離した「実際のヤマモモ果汁」です。それぞれに6種類の補助色素を、C3Gに対して5倍のモル比で加えました。加えて、アスコルビン酸を添加した条件と添加しない条件の両方を用意しています。
処理としては、90℃の湯浴で最長90分加熱する条件と、37℃の暗所で最長8日間保存する条件が設定されました。各時点でサンプルを取り出し、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)でC3Gの実際の残存量を測定しています。著者らは、アントシアニン研究で広く使われるpH差法がコピグメンテーション自体の影響を受けうるため、HPLCによる直接定量を採った点を重視しています。得られた減少カーブは一次反応式にあてはめ、分解速度定数kと、半分になるまでの時間(半減期)を算出しました。
このほか、紫外可視分光法で色素同士の相互作用を分子レベルで確認し、CIELab方式の測色で見た目の色の変化も調べています。また1437件の測定値すべてを使った統計モデル(GNLS解析)で、補助色素の種類・濃度、果汁の種類、温度、アスコルビン酸の有無がどう絡み合うかを検討しました。最も安定した効果を示したミリシトリンについては、C3Gとの比を1:0から1:10まで変えた濃度別の実験も行われています。
主な報告結果
まず分光測定では、6種すべてが色素との相互作用の兆候を示しました。とくにフラボノイド配糖体の効果が明確で、色素の吸収が最も強くなる波長でのピークの高まり(濃色効果)は、1:10の比でルチン0.76、ケルシトリン0.64、ミリシトリン0.57でした。一方フェノール酸では0.14〜0.25にとどまりました。ピーク波長が長波長側へずれる「赤方移動」の差はさらに顕著で、ルチンは1:10で16.2nmずれたのに対し、フェルラ酸は1.7nm、没食子酸とプロトカテク酸は0.4nm以下でした。著者らはこれを、平面的な分子が色素と面で重なり合う相互作用の強さの違いを反映するものと解釈しています。
安定性の試験では、効果が条件によって大きく変わることが報告されました。アスコルビン酸を加えない90℃加熱では、モデル果汁でミリシトリンが最も強く保護し、C3Gの半減期を対照の99.0分から126.0分へ延ばしました。実際の果汁ではルチンが最も効果的で、72.2分から113.6分へ延びています。モデル果汁で効果の弱かったフェルラ酸やプロトカテク酸が、実際の果汁ではより明確な保護傾向を示したことから、著者らは果汁中の他の成分との相乗作用の可能性を挙げています。
最も予想外だった結果として著者らが挙げるのは、「モデル果汁・37℃保存・アスコルビン酸なし」という特定条件での逆転現象です。この条件ではプロトカテク酸、フェルラ酸、ケルシトリン、ルチンが対照よりむしろ分解を速め、半減期は対照の30.3日に対して5.4〜6.5日と大幅に短くなりました。ところが同じ37℃保存を実際のヤマモモ果汁で行うと、6種すべてが明確な保護効果を示しました。研究チームはこの逆転の仕組みについて、活性酸素や溶存酸素、補助色素自身の分解生成物、金属イオンなどを測定していないため、酸化による機構かどうかは結論できないと明記しています。
アスコルビン酸を加えると、状況を左右する主役が変わりました。アスコルビン酸自体が強い酸化促進剤として働き、90℃加熱下ではC3Gの分解を大きく加速させました。一方37℃保存でアスコルビン酸を加えた条件では、6種すべてが保護効果を示し、モデル果汁でケルシトリンとルチンは半減期を対照の7.2日から42.2日・43.5日へと延ばしました。この条件ではフェノール酸、とくにプロトカテク酸の効果が相対的に前面に出て、一部のフラボノイド配糖体を上回りました。著者らは、酸化ストレスが強い環境では、色素と寄り添う能力だけでなく活性酸素を消去する抗酸化能力も結果を左右すると考察しています。
ミリシトリンの濃度別実験では、濃度が上がるにつれて分解速度定数が下がり半減期が延びる傾向が、多くの条件で確認されました。ただし例の「モデル果汁・37℃・アスコルビン酸なし」条件では、どの濃度でも有意な効果は認められませんでした。実際の果汁では、果汁そのものがもともと相当な安定性を提供しているため、外から加えた分の効き幅は比較的穏やかだったとも述べられています。統計モデルでは、補助色素の種類・果汁・温度・アスコルビン酸の4要素すべての組み合わせによる交互作用が有意であり、効果が単一の要因では決まらないことが裏づけられました。
見た目の色についても、フラボノイド配糖体を加えた群は、フェノール酸の群に比べて赤みをよく保ち、黄色みの強まりが抑えられていたと報告されています。
この研究が示すこと
この研究が伝えているのは、補助色素の「良し悪し」を一つの序列で語ることはできない、ということです。分子構造から予測される強さ(フラボノイド配糖体が有利)は多くの条件でおおむね当てはまりましたが、温度、果汁の成分、ビタミンCの有無という環境が変わると、順位が入れ替わったり、保護のはずが逆方向に働いたりしました。
もう一つの含意は、単純なモデル溶液での試験結果をそのまま実際の飲料に当てはめる危うさです。研究チームは、モデル果汁の保存試験で現れた逆転が実際のヤマモモ果汁では起きなかったことを踏まえ、実際の食品マトリックスが補助色素の働きを支える方向に作用したと述べています。色素安定剤を選ぶときは、化合物の性質だけでなく、それが置かれる条件を含めて評価する必要がある——この研究は、その点を定量的なデータで示した報告といえます。
著者:Zhengwei Zhang(School of Food and Drug, Shenzhen Polytechnic University, 7098 Liuxian Avenue, Shenzhen, Guangdong 518055, China)、Xiaodan Chen(School of Food and Drug, Shenzhen Polytechnic University, 7098 Liuxian Avenue, Shenzhen, Guangdong 518055, China)、Jinning Yin(School of Food and Drug, Shenzhen Polytechnic University, 7098 Liuxian Avenue, Shenzhen, Guangdong 518055, China)、luelue Huang(School of Food and Drug, Shenzhen Polytechnic University, 7098 Liuxian Avenue, Shenzhen, Guangdong 518055, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Zhengwei Zhang, Xiaodan Chen, Jinning Yin, et al. Condition-dependent effects of phenolic Copigments on anthocyanin stability in Chinese bayberry juice: An HPLC-degradation kinetic study. Food Chemistry X 2026-08-27. DOI: 10.1016/j.fochx.2026.104368. 原著ライセンス:CC BY.