果物や野菜をもっと食べることが健康的な食生活につながる、という話は広く知られています。しかし「わかっているのに実現しない」ことは食の世界でよくあります。とりわけ低・中所得国では、果物や野菜の摂取量が少ないにもかかわらず、政策の中でこの分野が優先されにくいという問題が指摘されてきました。今回紹介する研究は、東アフリカのタンザニアを舞台に、なぜ果物・野菜(F&V)が政策の中で軽視されがちなのかを、政治や制度、統治(ガバナンス)の仕組みという切り口から掘り下げたものです。

研究チームは、タンザインにおいて果物・野菜に関わる政策がどのように優先順位づけされ、作られ、実行されているかを調べるため、政策形成のプロセスや政治経済学の理論を土台にした質的な政策分析を行いました。具体的には、果物・野菜の政策に詳しい主要な関係者25名への聞き取り調査(キーインフォーマント・インタビュー)を実施し、あわせて2022年から2023年にかけて公表された31件の政策文書をレビューしています。得られた情報は食システムに関連する内容ごとに整理され、インタビューデータは研究の目的や理論的枠組みに沿ってコード化し、専用のソフトウェア(Quirkos)で分析されました。

研究でわかったこと

分析の結果、果物・野菜に関する取り組みは複数の分野・省庁にまたがって行われている(クロスセクトラルな対応がなされている)実態が明らかになりました。同時に、政策同士の連携(コーディネーション)や、関係者の巻き込み、そして小規模農家への支援を強化できる余地があることも見えてきたといいます。持続可能で健康的な食生活を後押しするためには、資金へのアクセス改善、安全な生産の推進、市場へのアクセス拡大、そして公共キャンペーンを通じた消費の喚起といった対応が必要だと報告されています。

その一方で、果物・野菜はタンザニアの栄養政策の中で「重要だが見過ごされてきた」存在であるとも結論づけられています。健康的な食生活における役割は徐々に認識されつつあるものの、果物・野菜という分野は、コメや小麦といった主食(ステープル・フード)が優先されがちな政策の中で周辺化されており、担当する組織の役割分担がばらばらであること(フラグメンテーション)や、関係機関同士の調整不足によって、その位置づけが弱くなっていると指摘されています。研究チームは、果物・野菜を持続可能で健康的な食生活を実現するための戦略的な柱とするには、政策の一貫性、ガバナンス、そして財政・市場面での支援を強化する必要があると述べています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、タンザニアという一つの国を対象に、インタビューと政策文書の分析という質的な手法を用いて行われたものです。果物・野菜の摂取量そのものを測定したり、健康への効果を直接検証したりする研究ではなく、あくまで「政策がどう作られ、なぜ後回しにされやすいのか」という政治・制度面の構造を分析したものである点に注意が必要です。したがって、ここで示された課題や提言がそのまま他の国にも当てはまるとは限らず、一つの国・一つの研究から得られた知見として捉えるのが適切です。

今回の研究は、果物や野菜が健康的な食生活に果たしうる役割が認識されつつも、政策の優先順位づけや制度上の調整不足によって十分な後押しを受けていない可能性を示唆するものです。栄養政策がどのように作られ、なぜある食品分野が注目されにくいのかという「政治経済学」的な視点は、私たちが普段目にする食に関する政策やキャンペーンの背景を考えるうえでも興味深い手がかりになりそうです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:持続可能で健康的な食生活のための果物と野菜:タンザニアにおける政策と政治経済分析(パブリック・ヘルス・ニュートリション・2026年07月)