この研究は、デンマーク、アイルランドの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Scientific Reports

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

ヒトの腸には膨大な数の微生物がすみ、食物繊維を分解して酢酸、プロピオン酸、酪酸などの短鎖脂肪酸をつくっています。こうした腸内細菌の働きを人や動物を使わずに調べる方法として、腸の環境を試験管の中で再現する「in vitro腸モデル」が使われてきました。

研究チームによると、既存の大腸モデルには一長一短があります。多くの試料を一度に扱える簡易な方式では、腸内のpHなど重要な条件が管理されず、細菌の反応が本来の腸内とは異なる酸性ストレスなどを反映してしまうことがあります。一方、pHなどを細かく制御できる高度なモデルでは、一度に調べられる試料は一つか二つ程度に限られます。

そこで著者らは、条件の制御と処理能力を両立させる大腸モデルの手順「HUGS(High-throughput Universal Gut Simulator)」を開発しました。あわせて、その有用性を示す実例として、いくつかの植物性素材が腸内細菌にどのような変化をもたらすかを調べています。

どのように調べたか

HUGSは、温度、気体の環境、pHを制御しながら多数の培養を並行して行える既存の小型培養装置を使います。32個の小さな容器のそれぞれで、酸素のない状態を保ち、37℃で24時間培養します。各容器のpHは個別に監視され、上行結腸(大腸の最初の部分)を想定した5.6に自動で保たれます。これにより、1回の実行で32の培養を同時に行えます。

培養には、健康な成人3人から提供された便を腸内細菌の供給源として使いました。与えた素材は、乳酸菌で発酵させた菜種かすと大豆かす、それぞれに海藻を12%加えたもの、比較用の未発酵の同じ素材、そして3種類のキシラン(植物の細胞壁に多く含まれる多糖類)です。素材は単独または組み合わせで試されました。

培養後には、細菌が共通して持つ遺伝子(16S rRNA遺伝子)の配列を読み取ってどの細菌がどれだけの割合で存在するかを調べ、短鎖脂肪酸の量を測定して細菌の代謝の活発さを評価しました。

主な結果

培養後の細菌群集では、確認される細菌の種類の数を示す指標は、どの素材でも元の便より減少しました。研究チームは、こうした減少は短時間の大腸モデルで一般的に見られるものだと説明しています。一方、各細菌の割合の偏りも考慮した多様性の指標は便とほぼ同程度に保たれました。元の便で優勢だった3つの細菌グループ(門)は培養後も優勢で、酸素があると生きられない偏性嫌気性菌も豊富に残りました。腸の重要な嫌気性菌とされるフィーカリバクテリウム・プラウスニッツィやアッカーマンシア・ムシニフィラの増殖も確認されています。

細菌群集の全体的な構成には便の提供者による違いが大きく表れました。素材の違い、たとえば海藻やキシランを加えるかどうかによって、群集全体がはっきり分かれることはありませんでした。

一方、個々の細菌に注目すると、素材に応じた変化が見つかりました。発酵素材を与えた培養では、未発酵素材と比べてリューコノストック・シトレウムが約4倍、アッカーマンシア・ムシニフィラが約2倍の割合で存在し、キューティバクテリウム・アクネスは3〜4分の1程度に減っていました。菜種かすを使った比較では、病原菌として知られるクロストリジウム・パーフリンゲンスの割合が、発酵素材で未発酵素材の6〜7分の1程度に低くなっていました。

短鎖脂肪酸は、培養後に元の便の最大3倍の濃度に達しました。最も多かったのは酢酸で、乳酸も高い濃度でした。また、発酵大豆かすと海藻の組み合わせにキシランを加えると、短鎖脂肪酸の総量は平均で約4mg/gから約1.8mg/gへと統計的に有意に低下しました。菜種かすでは、未発酵の素材の方が発酵させた素材より酪酸が3倍多く見られました。

研究の意味

著者らは、HUGSが厳密な無酸素状態、連続的なpH制御、体温に近い温度を保ちながら、従来の大腸モデルを大きく上回る数の培養を同時に行えることを示しました。比較対象として、5つの培養を並行できるモデルや、一度に1〜2条件しか扱えない高度なモデルが挙げられています。

主要な腸内細菌を培養でき、素材による細菌の変化も捉えられたことから、研究チームはHUGSを、食物繊維や飼料添加物、腸内細菌に作用する物質を効率よく比較・選別するための有望な基盤として提案しています。ただし著者らは、試験管内で見られた変化が生体内と似た方向を示していても、それをモデルが生体の反応を予測できる証拠とみなすべきではないとも述べています。

著者:F W Beck(Department of Food Science, University of Copenhagen, Rolighedsvej 26, Frederiksberg C, 1958, Denmark)、Lalitha Devi Gottumukkala(Celignis Bioprocess, Mill Court, Upper William Street, Limerick, V94 N6D2, Ireland)、Ninfa Rangel Pedersen(Fermentationexperts AS, Vorbassevej 12, Baekke, 6622, Denmark)、Dennis Sandris Nielsen(Department of Food Science, University of Copenhagen, Rolighedsvej 26, Frederiksberg C, 1958, Denmark)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):F W Beck, Lalitha Devi Gottumukkala, Ninfa Rangel Pedersen, et al. The novel HUGS colon model enables high-throughput parallel cultivation of metabolically active human gut microbiomes in vitro. Scientific Reports 2026-10-10. DOI: 10.1038/s41598-026-72614-8. 原著ライセンス:CC BY.