塩分の摂りすぎが血圧や心臓に良くないというのは、健康情報でよく耳にする話です。しかし、その影響の大きさは国や地域によって本当に同じなのでしょうか。今回紹介する研究は、中国・G20諸国・東南アジア諸国という異なる背景を持つ地域を対象に、高ナトリウム食(塩分の摂りすぎ)に関連する心疾患の負担が、1990年から2023年にかけてどのように変化してきたかを比較したものです。

研究が着目したのは、高ナトリウム食との関連が指摘される2つの心疾患です。一つは血管が詰まることで起こる「虚血性心疾患(IHD)」、もう一つは高血圧が心臓に負担をかけて起こる「高血圧性心疾患(HHD)」です。同じ「塩分関連の心疾患」といっても、この2つが地域や年代によって異なる動きを見せるのかどうかを検証することが、この研究の目的とされています。

研究でわかったこと

この研究では、世界の疾病負担に関する大規模データベースである「GBD 2023」を用い、中国・G20・東南アジア諸国における1990年から2023年までのデータが解析されました。死亡数やDALY(障害調整生存年、病気によって失われた健康な生活の年数を表す指標)などの主要な指標について、統計的な手法(Joinpoint回帰やARIMA予測分析)を使い、時間的な傾向や将来予測、負担の変化をもたらす要因が調べられています。

結果として、年齢構成の違いを調整した「年齢標準化率」で見ると、両疾患の死亡関連の負担(死亡数・DALY・損失生存年数)はおおむね減少傾向にある一方で、実際の患者数や死亡数といった絶対数は増加を続けていることが示されました。これは、一人ひとりのリスクは相対的に下がっていても、人口の増加や高齢化によって社会全体としての負担は増え続けている可能性を示すものと考えられます。

さらに、高血圧性心疾患(HNaD-HHD)の負担は着実に減少する傾向を示した一方、虚血性心疾患(HNaD-IHD)の負担は変動が大きく、地域による差も顕著であったとされ、特に中国が虚血性心疾患リスクの中心的な地域として位置づけられました。また、中国における高血圧性心疾患の「障害を抱えて生きた年数(YLD)」は上昇傾向にあることも報告されています。加えて、疾病負担は男性が女性よりも明らかに大きく、その比率はおよそ1.5〜2.0倍であったとされています。

負担の変化をもたらした要因についても分析が行われ、高血圧性心疾患の負担軽減は主に「疫学的変化(発症のしやすさなど)」によるものであり、虚血性心疾患の負担増加は主に「人口増加と高齢化」によるものと説明されています。将来予測では、「年齢標準化率は低下または横ばいになる一方で、絶対数は増加し続ける」という状況が今後も長期にわたって続く可能性が示唆されています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、大規模な国際データベースを用いた地域間比較の分析であり、特定の食品や成分が心疾患を予防・改善すると直接示したものではありません。あくまで人口集団レベルでの疾病負担の傾向を統計的に分析したものであり、個人の食事や健康状態にそのまま当てはめられるものではない点に注意が必要です。また、一つの研究であり、この結果だけで結論が確定したわけではありません。今後さらなる研究の蓄積が待たれる分野といえます。

まとめ

今回紹介した研究では、中国・G20・東南アジア諸国を対象に、高ナトリウム食に関連する虚血性心疾患と高血圧性心疾患の負担が1990年から2023年にかけてどのように変化してきたかが分析されました。年齢調整後の負担率は多くの地域で低下傾向にある一方、絶対数としての負担は増え続けており、地域差や男女差(男性が女性の1.5〜2.0倍)も明らかになったとされています。こうした地域や集団ごとの違いを踏まえた、きめ細かな減塩対策の検討に役立つ知見として位置づけられています。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:ナトリウム関連心疾患負担の地域格差:1990年から2023年までの多国間分析(アーテリー・リサーチ・2026年07月)