この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Emirates Journal of Food and Agriculture
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を目的とした研究か
収穫した籾は、貯蔵や精米に適した水分まで乾燥させる必要があります。ただし急に水分を抜くと、粒の表面と内部で水分の差が大きくなり、不均一な収縮によって内部にひずみや亀裂が生じます。こうした亀裂は、その後の取り扱いや精米の工程で粒が割れる原因になり得ると、これまでの研究で指摘されてきました。
この研究で取り上げられたのは「低圧過熱蒸気乾燥(LPSS乾燥)」という方法です。過熱した水蒸気を乾燥の媒体として使い、圧力を下げた状態で行います。圧力を下げると水が蒸発し始める温度(飽和温度)が下がるため、比較的おだやかな温度でも水分を除けるとされます。また、蒸気の雰囲気であるため材料が直接酸素に触れにくいという特徴も挙げられています。
著者らは、LPSS乾燥での水分の減り方については先行研究があるものの、乾燥の進行にともなって米粒1粒1粒がどのような力学的な反応を示すのか、そしてそれが水分の低下とどう結びつくのかは十分に調べられていない、と述べています。そこで本研究では、圧力・温度・乾燥時間を変えたときの水分の変化、1粒ずつの圧縮試験による力の測定、そして電子顕微鏡で見た内部構造の比較を行うことを目的としました。
どのように調べたか
材料は2025年に収穫されたジャポニカ種の籾(品種「綏粳18」)です。粒ごとの内部の水分の差を小さくして出発点をそろえるため、著者らは籾を60時間冷水に浸したうえで、日陰の風通しのよい場所で水分が約23%(湿量基準)になるまで調整しました。つまり実際の収穫直後の籾ではなく、実験室で水分を戻した試料を用いた研究です。
乾燥条件は、絶対圧力5水準(0.010〜0.030 MPa)と温度5水準(50〜70 ℃)を組み合わせた25通りです。各条件の乾燥中に10分間隔で6回試料を採取したため、合計150点の観測が得られました。水分は中国の国家規格に基づく乾燥法で測定されています。
力学的な性質は、乾燥後に籾殻を取った玄米を1粒ずつ平らな板ではさんで押しつぶす圧縮試験で調べました。得られた力と変位の記録から、著者らは2つの指標を定めています。ひとつは、粒に接触してから0.50 mm押し込んだ時点での力(F0.50と表記)です。これは、粒が砕けた後の破片がさらに押し固められる終盤の領域(力が200 Nを超えることも多い)に入る前の、条件どうしを比べやすい共通の力の値として使われました。もうひとつは「最初の破壊」で、力が一度ピークに達した直後に一定以上下がる箇所を、あらかじめ決めた基準で判定したものです。有効な曲線は1,499本でした。
さらに、水分やF0.50を圧力・温度・時間の二次式であてはめ、その予測性能を検証しています。検証の際は、同じ乾燥運転から採った6点をまとめて除外し、残りのデータで作った式でその運転を予測する方法(グループ化したクロスバリデーション)が用いられました。同じ運転内の連続したデータが混ざることで性能が過大評価されるのを避けるためです。また、最終水分がほぼ同じ(約14.5%)になるようにLPSS乾燥・熱風乾燥・陰干しで仕上げた試料の断面を、走査型電子顕微鏡(SEM)で観察しています。
主な結果として報告されたこと
水分は条件によって8.92%から20.81%(湿量基準)の範囲にありました。水分の除去に主に効いていたのは乾燥時間と温度で、圧力の影響は統計的には認められたものの、ずっと小さかったと報告されています。著者らは、この研究で用いた圧力の幅が比較的狭かったことなどが関係している可能性を挙げています。水分の二次式モデルの決定係数は0.919、グループ化した検証では0.892、誤差はRMSEで0.939パーセントポイント、MAEで0.762パーセントポイントでした。
1粒ずつの圧縮では、水分が下がるほど「最初の破壊」がはっきり現れる粒の割合が増えました。水分19%以上では16.7%だったのに対し、11%未満では91.8%に達しています。水分が高いうちは粒がなめらかに変形するのに対し、乾燥が進むと硬くもろい状態へ移っていく、と著者らは説明しています。破壊が確認された条件では、最初の破壊に要する力も水分の低下とともに大きくなりましたが、ばらつきの説明割合は決定係数0.298にとどまり、水分は重要ではあっても一部を説明するにすぎないとされています。
F0.50は平均で23.75〜67.31 Nの範囲でした。こちらのモデルは水分のモデルより予測性能が低く(決定係数0.691、グループ化した検証で0.567)、粒の力学的な反応は乾燥運転ごとのばらつきが大きく予測しにくいと述べられています。また、F0.50は乾燥が進むにつれて単純に増え続けるわけではなく、高温の一部の条件では水分が急に下がるのにF0.50が低下する例もありました。著者らはこれを、熱による構造の弱化や0.50 mmに達する前の局所的な破壊と関係するかもしれないと考えていますが、この解釈はまだ推測の域であり、本研究では亀裂の割合や精米時の歩留まりは測定していないと明記しています。水分と乾燥条件を同時に入れた補助的な解析では、温度の効果が残った一方、最終水分そのものは有意になりませんでした。
測定した条件のうち、60 ℃・0.015 MPaで20分の乾燥は、水分を14.26±0.22%まで下げつつF0.50が46.87±4.11 Nでした。著者らはこれを、貯蔵の目安とされる14%という水分に最も短い時間で到達した条件として挙げており、米の品質にとっての最適点ではなく、目標水分に基づいて選んだ運転点にすぎないと断っています。SEMについては、最終水分がほぼ同じ3種類の試料の間で形態に違いが見られたと報告される一方、観察に用いた粒や視野の数が定量的な解析には足りないため、あくまで代表的な形態の質的な比較であり、どの乾燥法が優れているという統計的な証拠にはならない、と繰り返し述べられています。
この研究が示していること
この研究は、低圧過熱蒸気での乾燥において、水分をどれだけ除けるかを左右するのは主に時間と温度であり、圧力の寄与はこの範囲では小さいことを、25通りの条件と150点の観測から示しました。同時に、乾燥がどこまで進んだかという指標だけでは、粒の力学的なふるまいを説明しきれないことも浮かび上がっています。「最初の破壊が起きるかどうか」は水分と直結していた一方、一定の押し込みに対する力には、最終水分を考慮してもなお温度や時間、つまり粒がたどった熱の履歴の影響が残っていました。
著者らは、得られた結論は測定した水分・力学特性・微細構造の範囲に限られ、精米時の品質や炊飯時の性質にまで広げられるものではない、と位置づけています。乾燥条件を考えるときに、水分という一つの数字だけでなく、そこに至る過程が粒の状態に残る可能性を示した点が、この研究の報告から読み取れる意味だといえます。
著者:Yan Li(College of Agriculture and Hydraulic Engineering, Suihua University, Suihua, China)、Yadong Wei(College of Agriculture and Hydraulic Engineering, Suihua University, Suihua, China)、Chunyan Zhang(College of Agriculture and Hydraulic Engineering, Suihua University, Suihua, China)、He Li(College of Agriculture and Hydraulic Engineering, Suihua University, Suihua, China)、Sen Jia(College of Agriculture and Hydraulic Engineering, Suihua University, Suihua, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yan Li, Yadong Wei, Chunyan Zhang, et al. Effect of low-pressure superheated steam drying on moisture characteristics, mechanical properties, and microstructure of paddy rice. Emirates Journal of Food and Agriculture 2026-09-03. DOI: 10.3897/ejfa.2026.193324. 原著ライセンス:CC BY.