この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
ランチョンミートは、豚肉にでんぷんやたんぱく質、調味料などを混ぜ合わせ、缶やケーシングに詰めて加熱してつくる乳化型の食肉製品です。加熱は微生物を殺したり増殖を抑えたりして安全性を確保するための工程ですが、同時にたんぱく質の固まり方(ゲル化)や水分の保持、香りの生成を左右し、製品の仕上がりそのものを決める重要な要素でもあります。
著者らによれば、常温流通されるスライスタイプのランチョンミートは、まず加熱して安定したゲル構造をつくり、そのうえで包装後に100℃を超える温度で再度加熱処理する二段階の工程でつくられます。牛肉や鴨肉、ソーセージなど他の食肉製品では加熱温度の影響を調べた研究が数多くありますが、配合や加熱条件、包装形態が独特なランチョンミートを対象とした体系的な研究は限られている、と論文は述べています。そこで研究チームは、二段階目の加熱処理温度が85〜115℃の範囲で変わったときに、品質と香りがどのように変わるのかを調べました。
調べ方
研究チームは豚前脚肉と豚脂を原料に、でんぷんやリン酸塩、調味料などを加えて練り込み、ケーシングに詰めて85℃で60分間加熱した後、冷却して1cm厚にスライスしました。このスライスを真空包装し、85℃、95℃、105℃、115℃の4条件でそれぞれ20分間加熱してから冷却しています。85℃と95℃は恒温水槽、水の沸点を超える105℃と115℃は高圧蒸気滅菌器を使い分けました。
できあがった試料について、加熱前後の重量変化から求める減量率、色(明るさ・赤み・黄み)、テクスチャー(硬さ、弾力、咀嚼性など)、アミノ酸の量を測定しました。水分については低磁場NMRという手法で、たんぱく質などに強く結びついた水、繊維構造の中に閉じ込められた水、その外側にある自由な水という三つの状態の割合を調べています。脂質の酸化の程度はマロンジアルデヒド(MDA)という物質の量で評価しました。香りについては、ガスクロマトグラフィー・イオン移動度分析(GC-IMS)で香り成分の種類と量を特定し、においセンサーを並べた電子鼻で全体のにおいの違いを比べ、さらに各成分の濃度をそのにおいを感じ取れる最低濃度で割った「香気活性値(OAV)」を計算して、香りへの寄与が大きい成分を絞り込んでいます。
報告された主な結果
温度が上がるほど減量率は増え、2.63%から3.26%へと変化しました。ただし著者らは、この値は丸ごとの筋肉を加熱した場合に報告される損失よりはるかに低いと指摘し、乳化製品ではたんぱく質・脂肪・でんぷんが密に組み合わさったゲルの網目が水と脂肪を物理的に閉じ込めているためだと説明しています。水分の状態を見ると、高温ほど強く結合した水と自由な水が増え、繊維構造に閉じ込められていた水は減りました。
テクスチャーでは、温度が上がるにつれて硬さ、咀嚼性、粘着性(ガム性)が低下しました。弾力だけは途中まで上がってから下がるという挙動を示しています。論文はこれを、適度な加熱ではたんぱく質が変性して緻密な網目をつくる一方、さらに高い温度ではたんぱく質の分解と過剰な凝集が起きて構造が崩れるためだと考察しています。色は明るさがほぼ一定に保たれた一方で、赤みと黄みは全体として上昇傾向を示しました。アミノ酸の総量と必須アミノ酸の総量はいずれも95℃で最も高く(総量14.71 g/100 g)、その後105℃・115℃では低下しました。
脂質の酸化を示すMDAは、85℃の0.34 mg/kgから115℃の0.69 mg/kgへと明確に増加しました。香り成分はGC-IMSで38種類が同定され、アルデヒド類とエステル類が中心で、ケトン類がそれに次ぎました。アルデヒドの総量は85℃の15,677.98 μg/kgから115℃の24,687.25 μg/kgへ増加しています。特に、アミノ酸の一種イソロイシンがストレッカー分解を受けて生じる2-メチルブタナールは488.51から2217.31 μg/kgへと大きく増え、著者らはこれをメイラード反応が温度に強く依存することの表れとしています。電子鼻では硫黄化合物に反応するセンサーの応答が強く、主成分分析では85℃と115℃の試料がはっきり分かれました。OAVによる評価と多変量解析を組み合わせた結果、ブタナール、2-メチルブタナール、プロパナール、プロピオン酸エチル、プロピオン酸メチル、チオフェン、1-ペンタノール、酢酸sec-ブチル、2-オクタノンの9成分が、温度による香りの違いを主に分けている成分として特定されました。
この結果が示すこと
この研究が描き出したのは、加熱温度を上げることが一方向の改善でも悪化でもない、ということです。高い温度は香り成分の生成を確かに促しますが、同じ高温が脂質の酸化を進め、硬さや咀嚼性を失わせ、必須アミノ酸の量も95℃を超えると下がりました。著者らは、10℃の違いでもテクスチャーが大きく変わることから、殺菌温度を正確に管理することがロット間の品質の均一性に欠かせないと述べ、高温を用いる場合には酸化を抑える工夫を検討すべきだと指摘しています。
なお著者らは、この研究では官能評価を行っておらず、機器分析で示された香りの違いが実際に人がどう感じるかは検証されていないため、どの温度が好まれるかについては結論できないと明記しています。それでも、加熱温度という一つの条件が製品の見た目、食感、水分の状態、香りを同時に動かしていく道筋を、測定値の形で具体的に示した点に、この報告の意味があります。
著者:Minnan Liu(Food Laboratory of Zhongyuan, Luohe 462300, China)、Wanli Zhang(Food Laboratory of Zhongyuan, Luohe 462300, China)、Jiaqi Sun(Food Laboratory of Zhongyuan, Luohe 462300, China)、Yingjian Hou(Food Laboratory of Zhongyuan, Luohe 462300, China)、Shuanshuan Xue(Food Laboratory of Zhongyuan, Luohe 462300, China)、Zhenxia Cao(Food Laboratory of Zhongyuan, Luohe 462300, China)、Bing Yang(Food Laboratory of Zhongyuan, Luohe 462300, China)、Jing Yan(Food Laboratory of Zhongyuan, Luohe 462300, China)、Heng Wang(Food Laboratory of Zhongyuan, Luohe 462300, China)、Lishui Chen(Food Laboratory of Zhongyuan, Luohe 462300, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Minnan Liu, Wanli Zhang, Jiaqi Sun, et al. Temperature-Driven Textural Evolution, Quality Changes, and Flavor Development in Luncheon Meat. Foods 2026-09-03. DOI: 10.3390/foods15173131. 原著ライセンス:CC BY.