著者の所属・活動拠点の国は、メキシコです。
掲載誌:Journal of Food Science and Technology
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:アラビアガムに代わる材料を探す
レモン精油は香りの成分で、食品や化粧品、医薬品などに使われています。ただし、熱や酸化、紫外線によって揮発したり劣化したりしやすいという弱点があります。そこで、精油を微小な粒の中に閉じ込めて粉末にする「マイクロカプセル化」という技術が使われます。粒の外側を形づくる材料は「壁材」と呼ばれ、どれだけ中身を守れるかを左右します。
代表的な壁材はアラビアガムです。しかし著者らによると、アラビアガムは供給が限られるため、価格の変動や品不足が起こりやすいといいます。研究チームは、メキシコで採れ、性質がアラビアガムに近いとされるメスキートガムに注目しました。あわせて、カプセル化用に性質を変えた3種類の加工デンプン(Capsul、N-Lok、National-46)も比べました。目的は、壁材の種類によってレモン精油入りマイクロカプセルの性質がどう変わるかを調べることです。
何を調べたか
研究チームは、5種類の壁材をそれぞれ水に溶かし、レモン精油と混ぜて乳化液を作りました。精油と壁材の比率は3段階に設定しました。乳化液は、水の中に油の細かい滴が散らばった状態のものです。この乳化液を高温の空気中に霧状に吹き付けて瞬時に乾かす「噴霧乾燥」で、粉末状のカプセルにしました。
評価したのは次のような点です。乳化液については、粘り気(粘度)、電気の通しやすさ、油滴の大きさを測りました。粉末については、乾燥後にどれだけ精油が中に残ったか(カプセル化効率)、保存中に表面へ出てくる油の量を調べました。さらに、電子顕微鏡で粒の形や表面の様子も観察しました。
主な結果
乳化液では、加工デンプンを使ったものは天然ガムを使ったものより粘度が低くなりました。著者らは、粘度が高めの天然ガムの乳化液は、乾燥中に油滴どうしがくっつきにくい点で望ましいと述べています。電気の通しやすさは、アラビアガムとメスキートガムの乳化液のほうが加工デンプンより大幅に高い値でした。油滴の平均の大きさは約1.91マイクロメートルでした。研究チームは、乳化液中の油滴と乾燥後の粒の大きさが近かったことから、霧状にする過程で油滴の合体は起きなかったと考えています。
乾燥後に精油が粒の中に残った割合を示すカプセル化効率は、Capsulが平均91.65%で最も高い値でした。最も低かったのはNational-46の81.75%です。メスキートガムは平均84.4%で、著者らはこの値を、同じメスキートガムでカルダモン精油をカプセル化した先行研究の結果と同程度だとしています。また、アラビアガムは他の研究で85%を超える高い効率が報告されており、著者らは本研究で得られた値もこれと整合すると述べています。精油の封入率では、メスキートガムが83.8%、Capsulが83.5%とほぼ同じ値でした。一方、今回試した範囲では、精油と壁材の比率を変えても有意な差は見られませんでした。
保存中の表面の油量の変化を見ると、アラビアガムのカプセルは評価期間を通して適切なふるまいを示しました。メスキートガムのカプセルは、期間中に一様なペースで油が出てくる傾向でした。顕微鏡観察では、ガムや加工デンプンの粒に凝集や表面のくぼみ、しわが見られました。一方で、加工デンプンの粒は球形でなめらかな表面を持ち、大きさも約15〜20マイクロメートルとそろっていて、外壁にひび割れは見られなかったと報告されています。ただしN-Lokでは、粒どうしが凝集する様子が観察されました。
研究が示すこと
著者らは、レモン精油を噴霧乾燥でカプセル化するとき、壁材の選び方が重要だと結論づけています。加工デンプン、特にCapsulとN-Lokは、安定した乳化液とそろったカプセルを作るのに適した性質を示しました。アラビアガムは、評価期間中の安定性と精油を保持する力で際立っていました。メスキートガムについて研究チームは、入手しやすく、乳化やカプセル化の能力も十分だと評価しています。そして、アラビアガムや加工デンプンと比べても遜色のない、地元で調達できる代替材料になりうると位置づけています。
原著論文の著者・所属:Martín Ramón Porras-Godínez(Departamento de Fisicoquímica, Facultad de Química, Universidad Nacional Autónoma de México, 04510, Mexico City, CDMX, Mexico)、Ruth Pedroza-Islas(Departamento de Ingenierías, Universidad Iberoamericana, 01210, Mexico City, CDMX, Mexico)、José Luis López-Cervantes(Departamento de Fisicoquímica, Facultad de Química, Universidad Nacional Autónoma de México, 04510, Mexico City, CDMX, Mexico)、Jesús Gracia-Fadrique(Departamento de Fisicoquímica, Facultad de Química, Universidad Nacional Autónoma de México, 04510, Mexico City, CDMX, Mexico)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Martín Ramón Porras-Godínez, Ruth Pedroza-Islas, José Luis López-Cervantes, et al. Comparison of mesquite and arabic gum with three different starch derivatives for microencapsulation of lemon essential oil by spray-drying. Journal of Food Science and Technology 2026-08-20. DOI: 10.1007/s13197-026-06853-y. 原著ライセンス:CC BY.