この研究は、レバノン、フランスの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Molecules
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
ワインづくりの「残りもの」に目を向ける
ブドウは世界で広く栽培される果物で、その多くがワインになります。総説によると、2025年の世界のワイン生産量は2億2800万〜2億3500万ヘクトリットルと推定されています。一方で、ワイン1リットルあたり約0.3〜0.5キログラムの副産物が出るとされます。主なものは、搾りかす(果皮・種子・果肉の残り)、種子、果梗(房の軸の部分)です。発酵や清澄の工程では、さらに澱(おり)や排水も生じます。
これらの副産物はこれまで、埋め立てや堆肥化、価値の低い用途で処理されることが多くありました。しかし有機物の量が多く、植物への毒性や温室効果ガスの排出が環境上の懸念になっていました。研究チームは、資源を循環させて使う「循環型バイオエコノミー」の考え方に立ち、ワイン副産物の成分、有用成分を取り出す抽出技術、産業での活用法について、既存の研究を総合的・批判的に整理しました。
副産物ごとに異なる成分
著者らによると、最も量が多い固形副産物は搾りかすで、加工したブドウの質量の約20〜30%を占めます。搾りかすには食物繊維が多く、特に赤ワイン用品種では乾燥重量の半分を超えることがあります。果皮にはアントシアニン(赤や紫の色素)やタンニンなどのポリフェノールが豊富で、天然の抗酸化物質や着色料の供給源になりうるとされます。種子には通常8〜20%の油分が含まれ、リノール酸やオレイン酸などの不飽和脂肪酸、トコフェロールも含まれます。
果梗は主にセルロースやリグニンといった植物の構造成分でできています。ただしレスベラトロール(スチルベンと呼ばれるポリフェノールの一種)は、搾りかすの2〜5倍含まれることが多いと報告されています。澱は、主に酵母の菌体、酒石酸塩、たんぱく質、多糖類などで構成されています。
赤ワインの搾りかすには、醸造で多くが抽出された後もアントシアニンがかなり残っています。総説が引用する研究では、乾燥重量100グラムあたり約67ミリグラム(シアニジン-3-グルコシド換算)とされています。また、ロゼワインのように果皮を漬け込む時間が短い製法の搾りかすは、通常の赤ワイン製法のものよりアントシアニンを多く保持していました。著者らは、副産物の成分がブドウの品種、産地の環境、気候、栽培や醸造の方法によって大きく変わる点を強調しています。そのため、活用方法を設計する際にはこの違いを考慮する必要があるとしています。
従来の抽出法と新しい「グリーン」技術
ポリフェノールを取り出す方法として最も広く使われているのは、エタノールや水などの溶媒に原料を浸す固液抽出です。装置が簡単で実験室にも工場にも適用できる反面、時間とエネルギーを多く使うと論文は指摘しています。温度を上げると抽出は効率的になりますが、高温が続くと熱に弱い成分が分解するおそれがあります。高温・高圧の液体で抽出する方法では、常圧での抽出に比べて主要なポリフェノール類の回収量が向上したとする報告も紹介されています。
こうした従来法の限界を補うため、溶媒やエネルギーの使用を減らす新しい技術の研究が進んでいます。総説で取り上げられたのは、短い高電圧パルスで細胞膜に穴を開けるパルス電界法、放電による衝撃波などで組織を壊す高電圧放電法、マイクロ波で内部から加熱するマイクロ波抽出、超音波で生じる微小な泡の崩壊を利用する超音波抽出などです。
たとえばパルス電界法を最適な条件で用いた研究では、処理しない場合に比べて総フェノール類が15%、フラボノイドが60%、アントシアニンが23%、タンニンが42%増えたと報告されています。経済性の分析では、生産単価が約2.70%下がり、投資収益率が8%以上上がったという結果も紹介されています。マイクロ波抽出については、短時間で効率よく抽出できる利点が示される一方、専用装置が高価で、一度に扱える試料量が限られるという課題も挙げられています。
産業利用に向けた課題と総説の示す方向
著者らは、ワイン副産物から得た素材の用途として、機能性食品、食べられる包装材、栄養補助食品、化粧品、家畜飼料、バイオ燃料などを挙げて検討しています。しかし実際の産業利用には、原料の成分のばらつき、工程の標準化、技術的・経済的な採算性、規制への対応、消費者の受け入れといった大きな壁が残っているとしています。
この総説は、捨てられがちだったワイン副産物が、ポリフェノールや食物繊維、油脂などを含む資源になりうることを示しています。同時に、それを生かすには抽出技術だけでなく、経済性や規制まで含めた総合的な取り組みが必要だと伝えています。著者らは、環境に配慮した抽出技術を、原料を余さず使い分けるバイオリファイナリーの考え方や、製品の一生を通じた環境影響評価と組み合わせることを提案しています。そうすることで資源効率と製品の品質を高め、より持続可能で循環型のワイン産業へ移行できる可能性があると結論づけています。
著者:Vanessa Hobeika(Department of Agriculture and Food Engineering, School of Engineering, Holy Spirit University of Kaslik, Jounieh P.O. Box 446, Lebanon)、Nancy Zgheib(Department of Chemical Engineering, School of Engineering, Holy Spirit University of Kaslik, Jounieh P.O. Box 446, Lebanon)、Nancy Nehme(Faculty of Agricultural Engineering and Veterinary Medicine, Lebanese University, Dekwaneh P.O. Box 6573, Lebanon)、Patricia Taillandier(Laboratoire de Génie Chimique, Université de Toulouse, CNRS. INPT. UT., F-31062 Toulouse, France)、Samar Azzi-Achkouty(Department of Agriculture and Food Engineering, School of Engineering, Holy Spirit University of Kaslik, Jounieh P.O. Box 446, Lebanon)、Youssef El Rayess(Department of Agriculture and Food Engineering, School of Engineering, Holy Spirit University of Kaslik, Jounieh P.O. Box 446, Lebanon)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Vanessa Hobeika, Nancy Zgheib, Nancy Nehme, et al. Winery By-Products as Sustainable Functional Resources: An Overview of Composition, Green Extraction Technologies, and Industrial Valorization. Molecules 2026-09-28. DOI: 10.3390/molecules31193462. 原著ライセンス:CC BY.