著者の所属・活動拠点の国は、イタリアです。

掲載誌:Zenodo (CERN European Organization for Nuclear Research)

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

「食物繊維」をひとまとめにしない

食物繊維は、栄養表示などで一つの成分のように扱われがちです。この論文の著者らは、食物繊維が実際には性質の異なる植物由来の成分の大きな集まりであることを、既存の研究をもとに整理しました。

著者らによれば、食物繊維は特定の化学物質の名前ではありません。人の消化酵素では、糖や消化されやすいデンプンのようには分解されにくいという「体内でのふるまい」によって定義されるグループです。消化酵素とは、食べ物を小さく分解するたんぱく質のことです。論文は、繊維の定義や植物との関係、構造・水への溶けやすさ・発酵のされやすさの違い、小腸から大腸までの通り道、食品の構造が果たす役割を順に取り上げています。目的は、食品表示や食品の情報を読み解くときに、誤解を招く単純化を避けることだとしています。

消化管をどう通り、大腸で何が起きるか

著者らはまず、食物繊維が糖やデンプン、脂質、たんぱく質とは異なる経路をたどる点を説明しています。小腸には多くの繊維の構造を分解する酵素がないため、かなりの部分が吸収されずに大腸まで届きます。たとえば水に溶けるタイプの繊維にはゲル状になって胃からの排出を遅らせるものがあり、溶けないタイプの繊維にはほとんど変化せずに腸内の移動を速めるものがあると紹介しています。

大腸では、腸内細菌などの微生物の集まりである腸内細菌叢が中心的な役割を担います。著者らが引用した研究では、大腸は微生物が複雑な化合物を分解してエネルギーを得る場とされています。どの程度利用されるかは、繊維の構造や細菌の近づきやすさ、大腸にとどまる時間によって変わります。植物の細胞壁に由来する繊維を試験管内で比べた研究では、細胞壁の組成によって発酵の進み方や微生物の構成が変わったと報告されています。

人を対象にした研究も紹介されています。健康な成人20人が4種類の繊維をそれぞれ14日間、1日12グラムずつ摂取した試験では、繊維はよく耐えられ、発酵による大腸への好ましい兆候がみられたとされます。別の試験では、健康な成人19人が標準的な食事と一緒にある水溶性繊維を0、5、10グラム摂取し、空腹感の低下と満腹感に関わるホルモンの増加が観察されました。ただし著者らは、これらの研究は短期間であったり特定の繊維だけを調べたものであったりするため、食物繊維全体に当てはまるわけではないと注意を促しています。反応は繊維の種類、量、一緒に食べる食事によって変わりうる、というのが著者らのまとめです。

溶解性・粘性・発酵性という三つの性質

著者らは、繊維のふるまいを理解する手がかりとして三つの性質を挙げ、互いに区別して考えるよう求めています。溶解性は水とのなじみ方、粘性は腸の内容物をどれだけとろみのある状態にするか、発酵性は腸内細菌叢が大腸でその繊維をどれだけ利用できるかを表します。

よく使われる「水溶性・不溶性」という分け方は目安として役立ちますが、それだけでは体内でのふるまいを予測できないと著者らは指摘しています。同じ水溶性でも、イヌリンは速やかに発酵する一方、一部のガム類は細菌に分解されにくいからです。発酵性については、人の便と繊維を酸素のない状態で培養する実験で、ペクチンは数時間で発酵し、セルロースは長時間たってもほぼそのまま残ると紹介しています。著者らは、発酵とは「溶けること」ではなく「細菌が利用できること」だと強調しています。発酵で生じる短鎖脂肪酸は、大腸の細胞の栄養になる分子として説明されています。

粘性についても、グルコマンナンは低い濃度でも高い粘性を示し、イヌリンは非常に多い量でなければ粘性を上げないと紹介されています。また、粘性は食品全体の見た目や口当たりとしての「濃さ」とは別物だとしています。加熱調理、かむこと、胃の酸性度などによって、粘性は大腸に届く前に変化しうるとも述べています。

食品の構造が繊維の働きを左右する

論文がもう一つ強調しているのが「食品マトリックス」です。これは、水分や細胞壁、栄養素が食品の中でどのように立体的に配置されているかという、食品の構造を指します。植物の細胞壁は栄養素を包み込み、消化酵素が届くのを妨げることがあります。そのため、同じ繊維でも、まるごとの植物性食品に含まれている場合と、取り出されて別の食品に加えられた場合とでは、消化管での通り方が異なりうると著者らは述べています。

精製などの加工も、繊維を包む植物の構造を壊し、消化液との接し方や大腸での発酵を変えることがあります。ただし影響は食品や加工法によって異なり、すべての製品に当てはまる単一のルールはないとしています。著者らは、繊維の働きを評価するには、成分・構造・加工の三つを合わせて見る必要があるとまとめています。

この論文が伝えること

著者らの結論は、食物繊維は性質の異なる植物成分の集まりであり、その体内での行方は量だけでなく、化学構造、溶解性、発酵性、食品の構造によっても決まるというものです。一方で著者らは、根拠の多くが総説や仕組みを調べた研究、取り出した繊維や試験管内のモデルを用いた実験、短期間の臨床試験であると認めています。どんな繊維にも当てはまる効果の予測基準はまだないとして、結果を慎重に読むよう呼びかけています。

「食物繊維」という一つの言葉の裏には多様なふるまいがあり、何がどれだけ含まれるかだけでなく、食品がどんな形をしているかにも目を向ける必要がある。この論文は、そうした見方を整理して示しています。

著者:Melania Mondini(Latina, Italy)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Melania Mondini. Dietary fiber: what it really is and how it behaves in the body during digestion. Zenodo (CERN European Organization for Nuclear Research) 2026-09-30. DOI: 10.5281/zenodo.23395843. 原著ライセンス:CC BY.