著者の所属・活動拠点の国は、インドです。
掲載誌:Frontiers in Plant Science
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
気候変動が進む中、干ばつや貧栄養の土地でも育つ雑穀類が、これからの食料システムを支える作物として改めて注目されています。その代表格の一つが「ヒエ」(バーンヤードミレット、Echinochloa属)です。世界的にはまだ十分に活用されていない「オーファン作物」でありながら、気候変動に強い農業を実現する潜在力を持つ作物として位置づけられています。今回紹介する論文は、このヒエが持つ栄養面・機能性面の特徴を整理した研究です。
ヒエに含まれる成分とその働き
この論文によれば、ヒエにはアルカロイド、ステロイド、多糖類、配糖体、タンニン、フェノール類、食物性リグナン、フラボノイドなど、さまざまな抗酸化物質が豊富に含まれているとされています。さらに、ヒエは抗酸化作用のほか、プレバイオティクス(腸内の善玉菌を助ける働き)としての性質、抗炎症作用、血糖値を下げる作用、抗菌作用、抗がん作用といった性質を持つことが報告されており、これらがさまざまな疾患に対抗する助けになると論文では述べられています。ただし、これは要旨で報告されている特徴の整理であり、特定の病気を予防・治療する効果が確認されたという意味ではない点に注意が必要です。
吸収を妨げる成分と、それを減らす加工法
一方でヒエには、フィチン酸、タンニン、ポリフェノール、アミラーゼ阻害物質といった「抗栄養素」と呼ばれる成分も含まれていると論文は指摘しています。これらはカルシウム、亜鉛、マグネシウム、鉄といったミネラルと結びついて複合体を作ってしまうため、体内での吸収を妨げる可能性があるとされています。
この課題に対して、論文では脱穀、浸漬(水に浸すこと)、加熱、ガンマ線照射、コールドプラズマ処理、発酵といったさまざまな加工方法が、ヒエの栄養価や加工特性を高める可能性があると述べられています。さらに、発芽や微生物を用いた発酵といった生物学的な処理技術によって、ヒエに含まれる機能性成分の生体利用効率(体内でどれだけ活用されるか)や消化性、安定性などが改善されうることも紹介されています。
ヒエ茎わらの新たな可能性
栄養面だけでなく、ヒエの茎わらにはセルロースやヘミセルロースが多く含まれており、これによって得られるC5・C6という種類の糖が、バイオエタノールへの変換(バイオコンバージョン)に利用できる可能性があるとも論文では述べられています。食用としてだけでなく、バイオ燃料の原料としての可能性も示唆されている点が興味深いところです。
この研究を読むうえでの注意点
この論文は、ヒエに関するこれまでの知見を整理し、その栄養面・機能性面での可能性や、加工技術による改善の方向性をまとめたものです。特定の疾患を予防・治療する効果を新たに実証したものではなく、あくまで一つの研究として、今後のさらなる検証が期待される段階にあるものと理解するのが適切です。
まとめ
ヒエは、気候変動に強い作物としての潜在力に加え、抗酸化物質をはじめとするさまざまな機能性成分を持つことが報告されている一方で、ミネラル吸収を妨げる可能性のある成分も含んでいます。脱穀や発酵などの加工技術によってこれらの課題に対応し、栄養価や機能性を高める工夫が続けられていることが、この論文からうかがえます。今後、これまで十分に活用されてこなかったこの作物が、食料と環境の両面でどのように役立てられていくのか、引き続き注目される分野といえそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):ヒエ(Echinochloa属):新興の栄養補助的効能を持つ未活用の栄養パワーフード(フロンティアーズ・イン・プラント・サイエンス・2026年07月)
原著論文の著者・所属:Minnu Sasi(Department of Crop Improvement, ICAR- Central Plantation Crops Research Institute, Kasargod, Kerala, India)、Minnu Sasi(Research Systems Management Division, ICAR-National Academy of Agricultural Research Management, Hyderabad, India)、Veda Krishnan(Division of Biochemistry, ICAR-Indian Agricultural Research Institute, New Delhi, India)、Ramesh M. Naik(Research Systems Management Division, ICAR-National Academy of Agricultural Research Management, Hyderabad, India)、Chandrika Das(Department of Biochemistry, North Bengal Regional R&D Centre, Tea Research Association, Nagrakata, West Bengal, India)、Damodar Reddy Dendi(Research Systems Management Division, ICAR-National Academy of Agricultural Research Management, Hyderabad, India)、Aditya Nath Jha(Department of Agriculture, Dev Bhoomi Uttarakhand University, Naugaon, Uttarakhand, India)、Awadhesh K. Pal(Department of Plant Physiology & Biochemistry, Bihar Agricultural University, Sabour, India)、S. R. Arpitha(Division of Biochemistry, ICAR-Indian Agricultural Research Institute, New Delhi, India)、Aditi Raj(Department of Agriculture, Dev Bhoomi Uttarakhand University, Naugaon, Uttarakhand, India)、Akanksha Sharma(Department of Agriculture, Dev Bhoomi Uttarakhand University, Naugaon, Uttarakhand, India)、Kashish Shrestha(Department of Agriculture, Dev Bhoomi Uttarakhand University, Naugaon, Uttarakhand, India)、Karan(Department of Agriculture, Dev Bhoomi Uttarakhand University, Naugaon, Uttarakhand, India)