著者の所属・活動拠点の国は、ポーランドです。
掲載誌:Molecules
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
肉を調味液に漬け込むマリネは、風味や食感を良くする方法として古くから使われてきました。近年は、パパイヤに含まれるパパイン、パイナップルに含まれるブロメライン、キウイフルーツに含まれるアクチニジンといった、植物由来のたんぱく質分解酵素(プロテアーゼ)をマリネに使う方法が注目されています。これらの酵素は肉のたんぱく質を分解し、肉を軟らかくする働きがあるとされています。
馬肉は、馬の年齢によって品質が大きく変わります。年齢の高い馬の肉は脂肪が多く水分が少なく、硬くなりやすいとされています。また、酸化しやすい不飽和脂肪酸や、酸化反応を促す鉄を含む色素(ミオグロビン)を多く含むため、劣化が進みやすいことも知られています。
研究チームは、3種類の植物プロテアーゼと市販の食肉軟化剤が馬肉の品質に与える影響を調べました。特に、酸化に対する安定性、食感、物理化学的な性質、食べたときの評価に注目しています。著者らによると、馬の年齢差と酵素によるマリネを組み合わせた研究はこれまで少なく、酸化の二つの指標を同じ条件で測定した報告も限られていました。
何をどのように調べたか
研究では、ポーランド南東部の小規模農場に由来する馬の半丸枝肉24頭分から、背中のロース部分の筋肉を採取しました。馬は、2〜5歳の若い馬12頭と、8〜12歳の年齢の高い馬12頭の二つのグループに分けられました。肉は冷蔵で10日間熟成させてから試験に使われました。
それぞれの肉を、パパイン、ブロメライン、アクチニジン、市販の食肉軟化剤による処理と、比較のための対照を合わせた5通りの条件に割り当てました。さらに、マリネ時間を24時間と48時間の2通りに設定し、合計240の試料を作りました。
測定した項目は多岐にわたります。成分組成、pH、色、加熱時や圧力をかけたときに出る肉汁の量、肉を切るのに必要な力、機械で測った硬さや弾力などの食感、訓練を受けた12人の評価者による香り・味・ジューシーさ・軟らかさの評価が含まれます。酸化の程度は二つの指標で調べました。一つは脂肪の酸化で生じる物質の量を示すTBARS値、もう一つは試料が酸化されやすい状態かどうかを示す酸化還元電位(ORP)です。
主な結果
成分を比べると、馬の年齢による違いがはっきり表れました。どの処理やマリネ時間でも、年齢の高い馬の肉は脂肪が多く水分が少ない傾向を示しました。
pHは処理条件によって変化しました。パパインで処理した肉では、馬の年齢が高いほど、またマリネ時間が長いほどpHが上がりました。最も高い値は、年齢の高い馬の肉を48時間マリネした場合の5.64でした。
酸化に関しては、マリネした試料のORPが両方の年齢グループで対照より低く、マリネ時間が長くなるほどさらに下がりました。48時間後には明確に低い値が確認されています。植物プロテアーゼで処理した試料は、ORPとTBARS値のどちらも対照より低くなりました。また、すべての試験条件でORPとTBARS値の間に正の相関が見られました。研究チームはこの結果を、酸化に対する安定性が高まったことを示すものと解釈しています。一方で、ORPが下がった具体的な仕組みは明らかになっていないと述べています。また、保存期間が延びたことを直接示す証拠ではなく、それを確かめるには別途の保存試験が必要だとしています。
食感と食べたときの評価では、パパインの効果が最も強く、特に48時間のマリネで肉を最も軟らかくしました。マリネを48時間に延ばすと、酵素の効果が高まり、軟らかさと色の濃さが改善しました。年齢の高い馬の肉は酵素への反応がより大きく、食感が大きく改善しました。肉汁については、酵素処理によって加熱時に出る量は増えた一方、圧力をかけたときに出る量は減りました。生の状態では水分を保つ力が高まったことになります。評価者による試食では、パパインとブロメラインが軟らかさ、ジューシーさ、おいしさを高めることが確認されました。
研究が示すこと
著者らは、馬肉をマリネする最適な方法は、馬の年齢と求める仕上がりによって変える必要があるとまとめています。硬く酸化しやすい年齢の高い馬の肉には、48時間のマリネとパパインの組み合わせが適しているとしています。若い馬の肉では加熱時の肉汁の流出が主な課題になるため、マリネを24時間にとどめ、パパインや市販軟化剤の使用を控えるほうがよい可能性があると述べています。アクチニジンとブロメラインは、食感を変えすぎず肉汁の流出も過剰にしないため、最も安定して扱いやすい酵素と位置づけられています。
この研究は、同じ酵素処理でも、肉の由来となる動物の年齢やマリネ時間によって効果が異なることを示しました。原料に合わせて処理条件を選ぶことの大切さを伝える結果といえます。
原著論文の著者・所属:Renata Stanisławczyk(Department of Agricultural Processing and Commodity Science, Institute of Food and Nutrition Technology, Faculty of Technology and Life Sciences, University of Rzeszow, Zelwerowicza 4, 35-601 Rzeszów, Poland)、Mariusz Rudy(Department of Agricultural Processing and Commodity Science, Institute of Food and Nutrition Technology, Faculty of Technology and Life Sciences, University of Rzeszow, Zelwerowicza 4, 35-601 Rzeszów, Poland)、Marian Gil(Department of Agricultural Processing and Commodity Science, Institute of Food and Nutrition Technology, Faculty of Technology and Life Sciences, University of Rzeszow, Zelwerowicza 4, 35-601 Rzeszów, Poland)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Renata Stanisławczyk, Mariusz Rudy, Marian Gil. Effect of Plant Proteases on Oxidative Stability, Physicochemical and Sensory Properties of Horse Meat from Different Age Groups During Marination. Molecules 2026-09-13. DOI: 10.3390/molecules31183236. 原著ライセンス:CC BY.