日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:PLOS Global Public Health

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜこの研究が行われたのか

マーシャル諸島共和国では、2型糖尿病が最も深刻な健康課題とされています。研究チームが引用する2018年の全国調査によれば、18歳以上の27%が糖尿病を有し、35歳を超える層では50%に達していました。糖尿病全体の99.8%が2型であり、約65%は診断されておらず、自らの慢性疾患に気づいていないと報告されています。政府は2012年に非感染性疾患の流行を受けて国家的な健康上の非常事態を宣言しましたが、有病率の上昇は続いていると著者らは述べています。

2型糖尿病は慢性かつ進行性の病気であるため、日々の食事、運動、血糖の自己測定、服薬の継続といった「自己管理」が治療の要になります。しかし首都マジュロの公立病院からの報告では、診断を受けた患者の73%が、その年に必要な治療を受けていなかったとされています。著者らは、なぜ自己管理が行き届かないのかを患者自身の視点から理解することが、対策を設計するうえで欠かせないと考えました。

そこで研究チームは二つの目的を立てました。一つは、自己管理の実践と関連する要因、とくに「病気の捉え方(illness perception)」との関係、および知識が行動に結びつかない隔たりを明らかにすること。もう一つは、そうした捉え方や実践の背景にある社会的・外的な状況を探ることです。ここでいう病気の捉え方とは、病気の原因・影響・続く期間・自分でどれだけ制御できるかなどについて、患者が抱く常識的な信念のことを指します。

どのように調べたか

調査はマジュロ環礁で行われました。まず量的調査として、保健省が管理する慢性疾患登録システムから、18歳以上でマジュロ在住、マーシャル人と自認し、診断から1年以上が経過した外来患者を抽出し、無作為に並べ替えた名簿の上から順に声をかけました。241人に接触し、条件を満たして参加したのは123人です。参加を断った人はおらず、不参加の理由は米国への移住、連絡がつかない、死亡、外島への転居などでした。

質問票では、社会人口学的な背景や臨床的な要因に加え、自己管理を測るDSMQ、病気の捉え方を測るB-IPQ、糖尿病の知識を測るDKT2という、国際的に用いられている尺度が使われました。文書は英語からマーシャル語へ翻訳し、さらに英語へ訳し戻して正確さを確認したうえで、参加者の希望する言語で、調査補助者が付き添う対面形式で実施されています。

続く質的調査では、量的調査の結果をふまえて面接の指針を作り、自己管理の点数が対照的な患者から意図的に選んだ10人と、糖尿病診療の経験を持つ医療者3人(マーシャル人医師、外国人医師、地域の巡回看護師)に半構造化面接を行いました。計13件で新たな論点が出なくなった(データ飽和)と判断されています。このように、量的な結果をまず得て、それを質的な語りで文脈づける設計は「説明的順次デザイン」と呼ばれます。

報告された主な結果

自己管理の合計点は平均4.73(標準偏差1.76)で、高リスクを見分ける基準値6を下回った人は75.6%にのぼりました。下位領域のうち最も点数が低かったのは「食事管理」(平均3.87)でした。一方、糖尿病の原因を自由に挙げてもらう設問では、90.2%が「不健康な食事」を、35%が「運動不足」を、20.3%が「家族からの遺伝」を挙げています。食事の重要性は広く認識されているのに、その実践の点数が最も低いという対比が浮かび上がりました。

他の要因を調整した重回帰分析では、病気の捉え方が自己管理と負の関連を示しました(B=-0.035、p=0.001)。つまり、糖尿病をより脅威として捉えている人ほど、自己管理の点数が低いという関連です。糖尿病教室への参加(B=0.658、p=0.025)と治療の形態も有意に関連し、伝統医療と現代医療を併用している人で自己管理の点数が最も高くなっていました(B=2.771、p<0.001)。他方、糖尿病の知識は統計的に有意な関連には届きませんでした(B=0.019、p=0.100)。著者らはここに、知識が行動に結びつかない「know-doギャップ」があると述べています。なおこれらは関連を示すものであり、最終モデルが説明できたのは自己管理の分散の33.6%です。

面接からは三つの主題が導かれました。第一に「機能不全の医療サービス」です。外国人医師への依存による言語の壁、検査結果や管理方法の説明が乏しいこと、メトホルミンやインスリンが糖尿病の原因だという誤解、そしてインスリンや血糖測定用品、HbA1c検査の在庫切れといった資源不足が語られました。第二に「糖尿病宿命観」で、家族歴があるなら自分もいつかはなる、避けられない、自分では制御できない、という語りが繰り返されました。量的調査では83.7%が家族歴ありと回答しています。第三に「食の砂漠」で、野菜や果物の多くは輸入品で価格が高く、限られた店にしか置かれていません。法定最低賃金が時給2ドルという水準のもとでは手が届かず、日々の選択は米、即席麺、鶏肉、缶詰の加工食品に偏ると、患者も医療者も述べています。

この研究が示していること

著者らは、これがマーシャル諸島で2型糖尿病の自己管理を妨げる要因を探った最初の研究だとしています。浮かび上がったのは、自己管理の不足を個人の努力や知識の不足に帰すだけでは説明がつかないという構図です。食べるべきものが分かっていても買える場所と値段がなければ選べず、医療機関に行っても言葉が通じず薬や検査が足りなければ、病気は「自分では手の届かないもの」として立ち現れます。そうした捉え方が、さらに行動から人を遠ざけていく——研究チームが量と質の両面から描き出したのは、この重なりでした。

ここから示唆されるのは、教育によって知識を増やすことだけでは十分ではないという点です。著者らは、食へのアクセスの問題に取り組むことが、食事行動の改善にとどまらず、病気の捉え方そのものを組み替え、自己管理を後押しするうえでも欠かせないと論じています。

著者:Jun Yoshino(Nagasaki University)、Francyne Wase-Jacklick(Republic of the Marshall Islands Ministry of Health & Human Services)、Hilia Konou Enos(Republic of the Marshall Islands Ministry of Health & Human Services)、Ishael Ken(Republic of the Marshall Islands Ministry of Health & Human Services)、Hirotsugu Aiga(Nagasaki University)、Ken Masuda(Nagasaki University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jun Yoshino, Francyne Wase-Jacklick, Hilia Konou Enos, et al. Understanding type 2 diabetes self-management in the Marshall Islands: A mixed-methods exploration of sociocultural and structural barriers. PLOS Global Public Health 2026-09-15. DOI: 10.1371/journal.pgph.0007152. 原著ライセンス:CC BY.