この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Medicine
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を明らかにしようとした研究か
日々の食事は、体内の炎症の状態を高める方向にも、抑える方向にも働くと考えられています。この「食事全体がどれだけ炎症を起こしやすい内容か」を数値にしたものが、食事炎症指数(DII:Dietary Inflammatory Index)です。スコアが高いほど炎症を促しやすい食事、低いほど炎症を抑えやすい食事とみなされます。
一方、骨密度(BMD)は骨に含まれるミネラルの量を表す指標で、これが下がると骨がもろくなり、骨折の危険が高まります。2型糖尿病では慢性的な高血糖やインスリン抵抗性、酸化ストレスが骨の代謝を乱すことが知られており、糖尿病と骨粗鬆症が重なる人は増えているものの、その仕組みは十分に解明されていないと著者らは述べています。
そこで研究チームは、2型糖尿病のある成人において、食事の炎症性の高さと骨密度の低下がどう関係するのか、とくに男女で違いがあるのかを調べました。著者らは、DIIが高いほど骨粗鬆症のリスクが高く、その関連は男性より女性で強いだろう、という仮説を立てています。
どのように調べたか
用いたのは、米国の全国規模の健康・栄養調査であるNHANES(国民健康栄養調査)のデータです。2007〜2010年、2013〜2014年、2017〜2018年の調査から、医師に糖尿病と診断された成人を対象とし、腰椎または大腿骨頸部の骨密度データが欠けている人などを除外した結果、1768人が分析に含まれました。
DIIは、炭水化物、たんぱく質、総脂質、食物繊維、鉄、亜鉛、マグネシウム、セレン、ビタミンB6・B12・C・D・E、葉酸、カロテン、コレステロール、アルコール、カフェインなど22項目の摂取量から算出されました。骨の状態は、世界保健機関の基準に沿ってTスコアが−2.5以下を骨粗鬆症、−2.5より大きく−1.0以下を骨量減少とし、この両者をまとめて「低骨密度」の群としています。著者らは、骨粗鬆症だけを取り出すと人数が少なく、男女別の解析で統計的な力が不足するため、あらかじめこの統合を決めていたと説明しています。
解析では、全国を代表する推計になるよう調査の重み付けを行ったうえで、年齢、人種・民族、世帯収入、腹囲、BMI(体格指数)、HbA1c(血糖の長期的な指標)、喫煙状況といった要因の影響を調整したロジスティック回帰が用いられました。あわせて、性別・年齢・BMIごとの層別解析や交互作用の検定も行われています。
この研究は、ある一時点のデータを切り取って関連を調べる横断研究です。著者ら自身、この設計では前後関係や因果の向きは確かめられないと述べています。
報告された主な結果
分析対象1768人のうち798人が低骨密度の群に該当しました。この群は骨密度が正常な群に比べて平均年齢が高く(66.3歳と58.6歳)、女性の割合が高い一方、BMIや腹囲は小さい傾向が報告されています。
女性では、DIIが高いほど低骨密度のリスクが高いという関連が認められました。各種要因を調整したモデルで、DIIが最も高い3分の1の群は最も低い群と比べ、大腿骨頸部でオッズ比2.575(95%信頼区間1.484〜4.468)、腰椎でオッズ比1.864(同1.111〜3.129)でした。オッズ比は「その状態に該当しやすさ」の比を表す値で、1を超え、信頼区間が1をまたがない場合に統計的な関連があるとされます。
男性では、大腿骨頸部について有意な関連はみられませんでした。腰椎ではDIIを連続値として扱った場合にわずかな逆向きの関連が出ましたが、3分位に分けた解析では確認されず、著者らはこの結果を弱く探索的なものとして慎重に解釈すべきだとしています。
男女差については、性別による交互作用が統計的に有意でした(交互作用のP値=.02)。一方、年齢やBMIによる交互作用は認められず、この関連は年齢層や体格を問わずおおむね一貫していたと報告されています。
この研究が示すこと
著者らは、2型糖尿病のある女性において、炎症を促しやすい食事内容は他の要因とは独立に低骨密度と関連していた、と結論づけています。背景としては、慢性的な弱い炎症が糖尿病に伴う骨の障害に関わっている可能性や、閉経後の女性では女性ホルモンの減少により炎症を抑える働きが弱まる可能性などが、これまでの知見をふまえた生物学的に妥当な説明として挙げられています。ただし著者らは、これらは今回の横断研究から直接示された証拠ではないと明記しています。
限界として、食事内容が24時間思い出し法に基づくため思い出しの誤差や日ごとのばらつきを受けること、血糖降下薬の種類が調整要因に含まれていないこと、ホルモン値の測定がないことなどが挙げられています。
つまり本研究は、糖尿病のある人の骨の健康を考えるうえで、食事全体の炎症性という視点が男女で異なる意味を持ちうることを、大規模な全国調査のデータで示した報告といえます。
著者:Menglin Xu(College of Traditional Chinese Medicine, Chongqing Medical University, Chongqing, China)、Qiqi Tang(Guangzhou University of Traditional Chinese Medicine, Guangzhou, China)、Shaocong Li(School of Clinical Medicine, Chengdu University of Traditional Chinese Medicine, Chengdu, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Menglin Xu, Qiqi Tang, Shaocong Li. Association of the Dietary Inflammatory Index with bone mineral density and osteoporosis among adults with type 2 diabetes. Medicine 2026-09-18. DOI: 10.1097/md.0000000000050645. 原著ライセンス:CC BY.