果物や野菜を加工する際に出る皮や芯などの副産物には、まだ活用しきれていない栄養素が残っていることがあります。イタリア原産のリンゴ品種「アヌルカ」の果皮もそのひとつで、食物繊維やポリフェノール(フェノール化合物)を豊富に含むことが知られています。乾燥させて粉末にすれば、パンや焼き菓子などの栄養価を高める材料として利用できる可能性がありますが、ひとつ大きな壁があります。ポリフェノールは加熱に弱く、焼成の過程で分解して減ってしまうことが多いのです。今回紹介する研究では、この課題に対して「レモン由来の食物繊維と組み合わせる」というアイデアを試しています。

研究でわかったこと

研究チームは、小麦粉を主原料とする低水分の焼き菓子「クラッカー」を対象に、アヌルカリンゴの果皮粉末(APP)と、レモン由来の多糖類(水溶性・不溶性の食物繊維源となるもの、具体的にはペクチンなどの水溶性成分と不溶性のレモン繊維)を組み合わせて配合し、焼成前後で何が変わるかを調べました。着目したのは主に二点で、ひとつはクラッカーの物理的な品質(食感など)、もうひとつは焼成後にポリフェノールがどれだけ残るか(回収率)です。

まず食感については、リンゴ果皮粉末を加えても割れやすさなどのテクスチャーには大きな影響が見られませんでした。一方で、不溶性のレモン繊維を加えるとクラッカーを割るのに必要な力(破断強度)が高まったのに対し、ペクチン(水溶性繊維)を加えた場合はそうした硬さの増加は見られなかったとのことです。

次にポリフェノールの中身についてです。研究チームは高性能な分析機器(UHPLC-ESI-QTOF-MS/MS)を用いて、アヌルカ果皮に含まれるフェノール化合物を網羅的に調べ、59種類の化合物を検出しました。その中でもっとも多く含まれていたのはフラボノールという種類の化合物でした。焼成によってアントシアニン(赤紫色の色素成分)は減少した一方、ヒドロキシ安息香酸類はむしろ焼成後に回収量が増える結果となりました。さらに注目すべき点として、レモン由来の多糖類(水溶性・不溶性いずれも)を一緒に配合すると、フラボノールが焼成後もより多く保持される傾向が見られたということです。また、ジヒドロカルコン、ヒドロキシケイ皮酸類、フラバン-3-オール類については、特にペクチンを加えた場合に回収率が向上した一方、プロアントシアニジンについては、不溶性のレモン繊維またはペクチンのいずれを加えても含有量が減少したと報告されています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、食物繊維の種類によってポリフェノールの焼成中の安定性が異なりうることを示した一つの研究であり、リンゴ果皮を使った食品が健康に効果があると証明したものではありません。フェノール化合物の種類(フラボノール、アントシアニン、ヒドロキシ安息香酸類など)によって焼成や繊維との組み合わせへの反応が異なっており、単純に「繊維を足せば全て保持される」という単純な話ではない点にも注意が必要です。また、今回の実験はクラッカーという特定の焼き菓子・配合条件のもとでの結果であり、他の食品や配合比率でも同じ傾向が得られるとは限りません。

まとめ

この研究は、通常であれば廃棄されやすいリンゴ果皮やレモン由来の食物繊維を、クラッカーのような低水分の焼き菓子に組み合わせて使うことで、焼成によるポリフェノールの分解をある程度抑えられる可能性を示したものです。食物繊維の種類(水溶性か不溶性か)によって、保持されやすい成分や食感への影響が異なることも報告されており、食品副産物の有効活用に向けた基礎的な知見を提供する研究といえます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Federico Bianchi, Gianluca Giuberti, Maria Franco, et al. Integration of Annurca apple peels into wheat crackers through the co-formulation with lemon fibres: focus on physical quality and phenolic recovery. フード・バイオサイエンス (2026). DOI: 10.1016/j.fbio.2026.109675. 原著ライセンス: cc-by.