この研究は、カザフスタン、トルコの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
牛乳を使わない植物性の発酵食品への関心が世界的に高まっています。研究チームは、ライ小麦(トリティケール)、裸燕麦(皮のむけやすいエンバク)、アマランサスという3種類の穀物・擬似穀物を原料に、ヨーグルトのような発酵食品をつくり、その成分を詳しく調べました。
着目したのは「神経に関わる成分」です。グルタミン酸やトリプトファンといったアミノ酸は、脳や神経の働きに関わる物質のもとになります。たとえばグルタミン酸からはGABA(ギャバ、中枢神経の主要な抑制性神経伝達物質)がつくられ、トリプトファンはセロトニンやメラトニンの合成に関わります。論文の目的は、これら3種類の原料からつくった発酵食品について、抗酸化活性、アミノ酸組成、神経活性物質、香り成分を総合的に評価することだと述べられています。
どのようにつくり、何を測ったか
著者らはまず穀物を洗って浸漬し、水と混ぜてすりつぶした後、でんぷんを分解する酵素(α-アミラーゼ)とたんぱく質を分解する酵素(プロテアーゼ)で処理しました。その液を遠心分離し、エンドウ豆たんぱく質、菜種油、ビタミン・ミネラルの添加物を加えて配合を整えたうえで加熱殺菌し、乳酸菌のスターター(サーモフィラス菌とブルガリア菌)を加えて40℃で6〜8時間発酵させ、pH4.7〜4.8のヨーグルト様製品を得ています。
できあがった製品は、たんぱく質・脂質・炭水化物・灰分・食物繊維といった基本成分のほか、抗酸化活性(DPPH法・ABTS法)と総ポリフェノール量、遊離アミノ酸、神経活性物質、揮発性の香り成分について分析されました。
論文は重要な注意点を繰り返し述べています。原料の穀物と最終製品の成分の違いは、発酵だけの効果ではありません。浸漬、粉砕、酵素分解、遠心分離、栄養強化、殺菌という工程全体の積み重ねによる結果であり、途中段階の試料を分析していないため、どの工程がどれだけ寄与したかは区別できない、というのが著者らの立場です。
報告された主な結果
抗酸化活性は原料によって正反対の動きを示しました。ライ小麦では総ポリフェノール量が63.44から24.56 mg GAE/g(乾燥重量あたり)へと約61%減り、抗酸化活性も低下しました。裸燕麦も同様に低下しましたが、下げ幅はより小さいものでした。一方アマランサスだけは逆に増加し、総ポリフェノール量は23.09から39.04 mg GAE/gへ約69%上昇し、抗酸化活性も高まっています。著者らは、抗酸化力がポリフェノール量だけで決まるのではなく、成分の組成や抽出されやすさにも左右されると説明しています。
遊離アミノ酸(たんぱく質に結合していない、そのままの形のアミノ酸)は、いずれの製品でも原料の穀物より大きく増えていました。変化がもっとも大きかったのは裸燕麦系で、遊離アミノ酸とGABAの合計は原料の1395.6 mg/kgに対し製品では9457.1 mg/kgと約6.8倍に達しました。筋肉のエネルギー代謝に関わる分岐鎖アミノ酸(BCAA)の合計も2274.3 mg/kgと高い値が報告されています。ライ小麦系の製品はプロリンが多く、アマランサス系の製品はアスパラギンが原料の48倍に増えた点が特徴とされました。GABAは3製品すべてで原料より大きく増えています。
神経活性物質のプロファイルは製品ごとに異なりました。ライ小麦の製品はフェニルエチルアミン(440 µg/kg)が他より多く、裸燕麦の製品ではセロトニンが811 µg/kg検出されました(他の2製品では検出されていません)。ドーパミンの前駆体であるL-DOPAは、アマランサスの製品で最も高く15,272 µg/kg、次いで裸燕麦の製品で9235 µg/kgでした。アマランサスの製品ではキヌレン酸やインドール-3-乳酸といった、トリプトファン代謝に関連する物質も検出されています。
この研究が示すこと
同じ工程でつくっても、原料となる穀物が違えば、できあがる発酵食品の抗酸化特性もアミノ酸組成も神経関連物質の顔ぶれも大きく変わる——これが、この研究からもっとも明確に読み取れることです。
著者らは、酵素分解と乳酸菌発酵を組み合わせた多段階の処理が、遊離アミノ酸やGABAなどの生理活性物質を生み出す点に意味を見いだしています。同時に、観察された変化を発酵単独の効果として解釈すべきではないことも、論文自身が明示しています。植物性発酵食品の設計において、原料の選択と工程設計の両方が成分を左右することを示した報告といえます。
著者:Svetlana Kamanova(Aron R&D Co. LLP, Akmeshit Street, 5, Astana 010000, Kazakhstan)、G. Akshoraeva(Saken Seifullin Kazakh Agrotechnical University, Zhenis Avenue, 62, Astana 010000, Kazakhstan)、Б. Калемшарив(Saken Seifullin Kazakh Agrotechnical University, Zhenis Avenue, 62, Astana 010000, Kazakhstan)、Dina Khamitova(Department of Biology, School of Sciences and Humanities, Nazarbayev University, Astana 010000, Kazakhstan)、Indira Temirova(Saken Seifullin Kazakh Agrotechnical University, Zhenis Avenue, 62, Astana 010000, Kazakhstan)、Saule Saduakhasova(LLP “Regional Technological Park QazAgroOrganic” Zhenis Avenue, 62B, Astana 010000, Kazakhstan)、Cemile Yılmaz(Food Quality and Safety (FoQuS) Research Group, Department of Food Engineering, Hacettepe University, Ankara 06800, Turkey)、Neslihan Göncüoğlu Taş(Food Quality and Safety (FoQuS) Research Group, Department of Food Engineering, Hacettepe University, Ankara 06800, Turkey)、Vural Gökmen(Food Quality and Safety (FoQuS) Research Group, Department of Food Engineering, Hacettepe University, Ankara 06800, Turkey)、Gulnazym Ospankulova(Aron R&D Co. LLP, Akmeshit Street, 5, Astana 010000, Kazakhstan)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Svetlana Kamanova, G. Akshoraeva, Б. Калемшарив, et al. Study of the Formation of Neuromodulatory Compounds in Fermented Products Based on Triticale, Naked Oat, and Amaranth Grains. Foods 2026-09-04. DOI: 10.3390/foods15173146. 原著ライセンス:CC BY.