著者の所属・活動拠点の国は、アメリカ、スイスです。
掲載誌:Frontiers in Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
白いパンを全粒粉パンに変えるだけで、血糖値の上がり方は変わるのだろうか。米国オハイオ州立大学のJillian T. Piersonらの研究グループは、前糖尿病(糖尿病予備群)と判定された肥満傾向の成人39人を対象に、食事全体を厳密に管理したうえで全粒小麦パンと精製小麦(白い)パンの効果を比較するランダム化クロスオーバー試験を行いました。研究結果はフロンティアーズ・イン・ニュートリション誌に2026年08月に掲載予定です。
全粒穀物の摂取と2型糖尿病リスク低下との関連は、これまで多くの観察研究で報告されてきました。しかし実際に人に食べてもらって効果を確かめるランダム化比較試験では結果が一貫しておらず、37件の試験をまとめた過去のメタ解析でも、有意な効果が確認できたのは37件中7件にとどまっていたといいます。この背景には、試験ごとの食事管理の甘さや、使われた全粒穀物の種類による組成の違い、体重減少そのものの影響が混ざってしまうこと、前糖尿病のような代謝リスクを抱えた人を対象にした厳密な管理食試験が少なかったことなどが指摘されています。今回の試験は、こうした課題を踏まえ、パンの種類以外の食事条件をできる限りそろえたうえで全粒小麦の効果だけを取り出そうとした点が特徴です。
どのように調べたのか
対象となったのは、BMIが27kg/m²を超え、空腹時血糖値が100〜125mg/dLの範囲にある18〜65歳の成人です。参加者は、全粒小麦パン(WHEAT群)または精製した白いパン(WHITE群)を1日160g、2週間ずつ食べる期間を、2週間の休止期間を挟んで両方経験しました。パン以外の食事内容はエネルギー量や三大栄養素の配分(炭水化物約50〜52%、脂質約30〜33%、たんぱく質約18〜19%)をそろえた完全管理食で、全粒穀物や発酵食品、プロバイオティクス食品は除かれています。あえて食物繊維の量はそろえておらず、白パン食は1,000kcalあたり8〜10g、全粒粉パン食は10〜12gの食物繊維を含んでいました。使用された全粒小麦粉と白小麦粉は同じ卸業者から仕入れられ、同一の製法(ストレート法)でパンに焼き上げられています。参加者の摂取遵守率は高く、両群ともパンの摂取量は98〜99%台、処方エネルギーの摂取率も97〜98%に達していました。
各介入期間の終了時には、75gのブドウ糖を含む溶液を飲んでもらう経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)を実施し、その後3時間にわたり30分おきに血液を採取して血糖値の変化を追跡しました。あわせて、空腹時の血液・便サンプルから炎症性の指標(CRP、IL-6、TNF-α、便中カルプロテクチンやミエロペルオキシダーゼ)、糖化ストレスに関わる物質メチルグリオキサール、便中の短鎖脂肪酸(SCFA)、そして便サンプルのDNAを用いた16S rRNA遺伝子解析による腸内細菌叢の構成も調べられました。
わかったこと
結果として、全粒小麦パンを食べた期間は、白いパンを食べた期間に比べて、OGTT後の血糖値の上昇(曲線下面積で評価)が27%小さかったと報告されています。この差は、体重や炎症、糖化ストレス、便中SCFAの違いでは説明できなかったとされ、パンの種類そのものに関連した変化だったことがうかがえます。一方、空腹時血糖値やインスリン値は、介入した2週間の経過とともにどちらの群でも改善する傾向がみられましたが、これはパンの種類による違いではなく、時間経過に伴う変化だったとされています。炎症性マーカーやメチルグリオキサール、便中SCFAの値は、両群間で明確な差は見られませんでした。
腸内細菌叢については、多様性の指標(構成の豊かさやばらつき)自体には全粒粉パン摂取による変化は確認されませんでした。ただし、個々の菌の割合を詳しくみると、全粒小麦パンを食べた期間に Agathobacter属、Agathobaculum属、Lachnospiraceae NK4A136群といった菌の割合が増え、逆にStreptococcus属、Lachnoclostridium属、Mediterraneibacter属の割合が減る傾向が見られたといいます(統計的な有意水準としては、多重比較の補正前の値で判定されたもの)。さらに興味深いのは、介入前(ベースライン時点)のLachnoclostridium属やLachnospiraceae NK4A136群といった菌の存在量が、その後どちらのパンを食べたときに血糖値の上がり方がより改善しやすいかを左右する要因として関連していたという分析結果です。つまり、もともとの腸内細菌の構成によって、同じ全粒小麦パンを食べても血糖応答の改善しやすさに個人差が生じる可能性が示唆されています。
この研究を読むうえでの注意点
この試験は、前糖尿病かつ肥満傾向にある39人という比較的小規模な集団を対象に、2週間という短期間で行われたものです。著者らは、この論文で報告した血糖応答に関する解析はいずれも副次的な位置づけであり、本来の主要評価項目(腸内細菌の違いによる「反応者」の分類)については別途報告するとしていることも述べています。また、腸内細菌の特定の菌と血糖応答との関連の一部は、多重比較の補正を経ない探索的な解析結果である点にも留意が必要です。全粒小麦パンと白いパンという2種類の食品の比較に限られており、ほかの全粒穀物や食品にそのまま当てはまるとは限りません。あくまで一つの管理食試験の結果であり、これだけで結論が確定したわけではない点を踏まえて読むのがよさそうです。
まとめ
今回の管理食を用いたランダム化クロスオーバー試験では、前糖尿病の成人において、白いパンを全粒小麦パンに置き換えることで食後の血糖上昇が抑えられる可能性が示され、その効果の個人差には腸内細菌の構成が関わっている可能性が示唆されました。今後、より大規模な集団や長期間の介入、腸内細菌をふまえた個別化された食事提案(プレシジョン・ニュートリション)の検証が期待される分野といえそうです。
著者:Jillian T. Pierson(Human Nutrition Program, The Ohio State University)、Ariana H. Bond(Human Nutrition Program, The Ohio State University)、Sisi Cao(Human Nutrition Program, The Ohio State University)、Shiqi Zhang(Human Nutrition Program, The Ohio State University)、Andrew Gold(Human Nutrition Program, The Ohio State University)、Huan Zhang(Human Nutrition Program, The Ohio State University)、Kaitlyn M. Zamary(Human Nutrition Program, The Ohio State University)、Ayse Gurer(Human Nutrition Program, The Ohio State University)、Chao Guo(Human Nutrition Program, The Ohio State University)、Menuka Bhandari(Research and Analytical Core, College of Food, Agricultural, and Environmental Sciences, The Ohio State University)、Matthew D. Teegarden(Foods for Health Research Initiative, The Ohio State University)、Devin G. Peterson(Department of Food Science and Technology, The Ohio State University)、Xiaokui Mo(Department of Biomedical Informatics, Center for Biostatistics, The Ohio State University)、Jiangjiang Zhu(Human Nutrition Program, The Ohio State University)、Richard S. Bruno(Human Nutrition Program, The Ohio State University)
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Jillian T. Pierson, Ariana H. Bond, Sisi Cao, et al. Whole wheat bread improves postprandial glucose tolerance in adults with prediabetes: a controlled-feeding randomized crossover trial with microbiome-associated variation in response. フロンティアーズ・イン・ニュートリション (2026). DOI: 10.3389/fnut.2026.1907908.